旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

塔を横切る午後10時の落日ーータリンにて

2007-02-16 12:22:18 | 

 

 タリンまで来たので、初めて見た白夜の落日について。 
  宿泊したヴィルホテルの12階は、旧市街の下町からタリン湾を一望する。午後9時、窓際のソファに身を沈めると、この町で一番高い塔と言われる「オレフの塔」がそびえ、その左真横に真っ赤に燃えた夕陽がドロドロと揺れている。「さすが白夜の国でもそろそろ日没だな・・・」などと思いながら、その美しい光景を眺めていた。 
 ところが、日はいっこうに沈まない。それどころか、だんだん横に流れてオレフの塔に近づいていく。太陽が塔に近づくにつれ、それまで明るい陽光の中で、塔壁の肌や彩色を見せていたオレフの塔は、黒一色のシルエットと化した。それにつれて町全体がシルエットとなって浮かび上がってきたかに見えた。 
 かなりの時間をかけて太陽は塔を横切り、右下の地平に少しずつ消えていった。時に午後10時。空は鮮やかな夕焼けにおおわれ、オレフの塔はシルエットを脱し再び壁肌の彩色をあらわにし、「夕方の明るさ」はいつまでも続いた。 
 午後11時ごろからようやく暮れ始め、やがて真っ暗になって、翌午前3時には夜が明ける・・・これが白夜だ。 
 私の常識では、太陽は東の空から真っ直ぐ上に昇り、西の空に真っ直ぐ下に沈む。ところが白夜の国の太陽は横に沈んだ。おそらく昇るときも横に上ってくるのだろう。すべては行って見なければわからないことだ。 
 私は、この美しくも不思議な光景に見入りながら、昼間バスの中でガイドが話した『オレフの塔にまつわる悲しい物語』を想起していた。その物語については次回に譲る

         
                               


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