スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

反転する漱石&同一の意味

2013-04-20 19:03:04 | 歌・小説
 三四郎童貞であるという設定が,当時としてはそれ自体が異様で滑稽であったろうと推測してい石原千秋の「イニシエーションの街」は,『反転する漱石』という本に収録されています。
                         
 この本は,石原千秋の夏目漱石の作品についての文芸評論のいくつかをまとめたもの。対象となっている作品は,『坊っちゃん』が1,『三四郎』が2,『こころ』が3,『虞美人草』が1,『彼岸過迄』が1,『行人』が1,『それから』が2,『明暗』が2,『門』が1,『道草』が1で合計で15です。
 全体は三部構成になっていますが,第一部が家の文法,第二部が家族の神話学,第三部は家庭の記号学という副題になっています。このことから理解できますように,この本は家族制度や家族関係といった視点から,漱石の作品を評論したものに特化して収録されています。収録されているものは各々が単独で発表されたものですから,一つひとつを独立した文芸評論として読むことも可能です。
 これはいずれ詳しく説明しますが,僕は文芸評論というものは,作家の思想や信条,また生活などを背景として評論するタイプと,そうしたことには依拠せず,単に書かれたテクストを読解していくというふたつのタイプに,大まかには区分できると思っています。仮に前者を作家論,後者を作品論と名付けるとするならば,この本は作品論に該当します。というよりも,この本に限らず,石原千秋の手法は基本的に作品論的であるといえると思います。
 僕は個人的にいいますと作家論というものにはあまり興味がなく,むしろ作品論の方を好みます。ですから僕にとってはこれは非常に読み応えがある,とても面白いしまた参考になるようなものでした。僕がいう作品論というのがどのようなものであるのかということは,この本をお読み頂くだけでも分かってもらえるだろうと思います。ただし,作家論の方を好む方には,不満を感じるような内容ではあるかもしれません。

 第一部定理二五証明と,『エチカ』ないしはスピノザの哲学における自己原因と原因との関係が,どのように関連してくるのかということについては,ある程度の説明が必要かと思います。
 まず,第一部定理二五証明のうち,演繹法を用いた論証Demonstratioは,第一部定理一六を援用することによって帰結しています。第一部定理一六というのは,神Deusの本性naturaの必然性necessitasから,無限に多くのinfinitaものが無限に多くの仕方で生じるということを示しています。したがって,第一部定理二五の対象となっているのは事物の本性essentiaですから,事物の本性というものは,神の本性の必然性から生じるということになります。つまりここには原因causaと結果effectusとが明示されていると理解するべきなのであって,原因というのは神の本性の必然性であり,結果というのは事物の本性であるということになるのです。
 一方,第一部定理一一第三の証明というのは,単に神の定義Definitioである第一部定義六に依拠することだけによって帰結しています。すなわち,神が実在するということが,神の定義だけから導出されるのです。これは,端的に神の定義のうちに,すでに神の存在existentiaが含まれているという意味です。しかるに,スピノザの哲学では,事物の定義というものは,その事物の本性を示すのでなければなりません。よってこれらのことから,神の本性には神の存在が含まれていると考えなければならないことになります。つまり第一部定義一により,神は自己原因causa suiでなければならないのです。もっとも,このこと自体は,神を絶対に無限な実体substantiaであるといっている第一部定義六と,実体は自己原因であるということを示した第一部定理七からも導くことができます。どのように帰結させるにしろ,神は神自身の本性の必然性によって存在するということは明らかでしょう。
 このことから理解できるように,神の本性の必然性というのは,神が自己原因として実在する場合の原因を構成するとともに,あらゆる事物の本性の原因でもあることになります。いい換えれば,事物の本性の原因と,神の存在の原因は,神の本性の必然性という同一のものなのです。つまり第一部定理二五備考でスピノザが示しているように,神が自己原因であるといわれるのと同一の意味で,神は万物の原因であると理解されなければならないのです。

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