スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ハンセンのスタイル&第一部定理二五証明

2013-04-19 18:48:15 | NOAH
 僕の拙い認識では,人間発電所はパワーファイターに属します。彼のフィニッシュホールドはベアハッグでしたから,そうも間違ってはいないでしょう。一般的にこういうタイプのレスラーは受け身はうまくはありません。首折りというアクシデントの一因はこの点にあったとみるべきでしょう。
                         
 しかし不沈艦のプロレススタイルが,この件の大きな誘因になったということも,否定できない事実だと思います。馬場は超獣と比べたならハンセンは自分のスタイルに従う面があったとはいっていますが,基本的な認識としては計算できないタイプのレスラーということです。計算できないということは相手が思わぬ動きをするという意味であり,そのために受け身を取り損なうということがあったとしてもそれは不思議ではありません。そして実際に全日本プロレスのリングでも,そうしたことが生じていました。1993年10月23日の東京都体育館での三冠戦です。
                         
 当時の王者は三沢で,これにハンセンが挑戦しました。この試合中,リング上で腹這いになった三沢の背中に,ハンセンがエルボードロップを落とすというシーンがありました。三沢の回顧だと,ここでストンピングを仕掛けてくるのはプロレスのセオリーのひとつで,その心積もりはあったようです。しかしエルボーを落としてくるとはまったく考えていなかったため,十分にこれを受けることができませんでした。そのために胸の骨が折れてしまったのです。
 この試合は最後は回転エビ固めで三沢が勝ちました。僕は現地で観戦していましたが,このフィニッシュはかなり意外なものでした。ただ,三沢が骨折していたということはその場では分かっていませんでしたから,後でその事実を知り,なぜこのような結末になったのかが判明したのです。
 三沢は受け身には長けたレスラーです。それでもこうしたアクシデントを起こすようなスタイルで,ハンセンは戦っていたということで,対戦相手は非常に気を使う面があったのではないでしょうか。東京都体育館はおそらく三沢にとって特別の場所。そうした会場での試合がこういうことになってしまったのは,三沢にとって不本意であっただろうと思います。

 第一部定理二五は,次のような背理法によって証明することができます。
 もしもある事物があったとして,この事物の本性の起成原因が神ではないと仮定します。第一部公理四によれば,結果の認識は原因の認識に依存するのですから,この仮定の場合には,少なくとも神の認識がなかったとしても,この事物の本性は十全に認識し得るということになります。しかし第一部定理一五によれば,どんなものも神がなければそれを十全に認識するということは不可能です。よってこの仮定は,第一部定理一五に反しているということになります。つまりこの仮定は誤りであり,事物の本性の原因は神でなければならないということになるのです。
 しかし,実際にはスピノザが後続の備考で明らかにしているように,このことは,神の本性の必然性から無限に多くのものが生じるということを示した第一部定理一六からそれ自体で明らかであるといわなければなりません。どんな事物の本性であっても,それは無限に多くのものに含まれる一部を構成するのですから,第一部定理一六のうちに,神はあらゆる事物の本性の起成原因であるということが含意されていると考えられるからです。
 前者の証明が冒頭に既述した通り,背理法を用いたものであるとしたならば,後者の証明というのは,スピノザが論理展開の方法論として徹底する演繹法を用いた証明であるといえると僕は考えます。ですから,『エチカ』においてこのどちらが第一部定理二五証明としてより相応しいのかといえば,僕には後者の論証であるように思えます。
 ところで,スピノザの哲学において,自己原因と原因との間には,僕たちが一般的にそれらをイメージするのとは異なった特別な関係があるということはすでに指摘した通りです。すなわち,僕たちは自己原因というものを原因のようなものとしてイメージすることがごく普通であるといえるでしょうが,スピノザの哲学の場合,自己原因というのは,原因と結果といわれる場合の原因に対しては本性の上で「先立つ」ものであると考えなければなりません。したがって,自己原因が原因のようなものであるというより,原因とは自己原因のようなものであると理解する方が,より正しい姿勢であるということになるのです。
コメント
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