スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

宗教問題&自己満足と名誉

2017-09-04 19:15:23 | 哲学
 グレフィウスの報知に対するライプニッツの返事について,『宮廷人と異端者』で指摘されているのは,ライプニッツのスピノザ評のほかにもう一点あります。それはこの書簡において,ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizがスピノザの哲学はキリスト教を覆すといっていることと関係しています。
                                     
 スチュアートはライプニッツのこのいい方から,ライプニッツが関心を抱いているのは,スピノザの哲学が齎す影響すなわちキリスト教の転覆なのであって,事柄の真理性ではないと考えています。要するにライプニッツにとってのスピノザ問題とは,それが真理であるか否かという点にあったのではなくて,キリスト教ないしはその教義と合致しているか否かという点のみに存在していたのだとスチュアートはいいたいのです。したがって,スピノザの哲学が真理を示しているということをライプニッツは必ずしも否定しているわけではないということがここから出てくることになります。
 実際にライプニッツがどう認識していたのかということは僕にはよく分かりません。なので僕はスチュアートの見解については肯定はしませんが否定もしません。ライプニッツは後に独自の哲学を構成し,その哲学によってスピノザの哲学と対抗しようとしました。この点だけでみれば,ライプニッツは自身の哲学が真理であって,スピノザの哲学は誤っていると認識していたと解するのが自然ではあります。
 ところが,ライプニッツは自身が宮廷人でしたから,キリスト教を転覆させないような哲学を必要としていたというのも事実です。ですから何が真理であるのかということよりも,キリスト教を転覆させないような哲学を構築しなければならないという目的ないしは使命が先にあって,それに合致するような哲学を構築したのだという見解,これはスチュアートの見解ですが,この見解を絶対的に否定するということは難しいのです。
 僕はライプニッツが,それは真理でないと思いつつ自身の哲学を構築したとは思えません。しかし一方で,キリスト教に適合する哲学を構築する必要があったということは,歴史的な事実であったと考えます。

 現実性を巡る考察はここまでとして,次の課題に移ります。『スピノザ哲学論攷』との関連ではこれが最後の課題です。といっても,これは河井のいっていることと大きく関係するわけではありません。
 第九章の第一節の中で,河井は愛amorと自己満足acquiescentia in se ipsoというふたつの感情affectusについて言及しています。河井はここで愛を外部の原因の観念を伴った喜びといっています。これは第三部諸感情の定義六と一致します。これに対して自己満足は,内部の原因の観念を伴った喜びとしています。第三部諸感情の定義二五には,内部の原因を伴っているといわれてはいませんが,河井の分類自体が誤っているというわけではありません。というのも,スピノザは第三部定理三〇の備考Scholiumでは,確かに自己満足という感情が,内部の原因を伴った喜びlaetitiaであるという主旨のことをいっているからです。実際に河井が論考において言及しているのもこちらの個所です。
 ただ,この言及の仕方は少しだけ不十分さがあります。というのは,スピノザは外部の原因の観念ideaを伴った喜びに関してはそれをすべて愛と定義するのですが,内部の原因を伴った喜びに関していえばそのすべてを自己満足であるとは定義しないからです。第三部定理三〇備考の中でもそのように記述されているのですが,河井はそのことについては何もいっていません。この点は不十分であるといわざるを得ないと僕は考えます。
 第三部諸感情の定義三〇に示されている名誉gloriaという感情もまた,内部の原因の観念を伴った喜びです。つまりスピノザは,内部の原因の観念を伴った喜び,要するに自分自身の観念を伴った喜びに関しては,それを名誉と自己満足というふたつの感情に分類しているのです。どのように分類されるのかは,各々の定義Definitioが明らかにしているといえますが,このこともまた第三部定理三〇備考で示されています。そしてそこでは,ある人が他人から賞賛されていると信じる場合に感じる喜びが名誉で,そうでない場合は自己満足だとされています。このゆえに僕は二種に分類されているとみます。つまり名誉を自己満足の一種としてみるのではなく,別の感情であるとみるのです。まずこれについて考えます。
コメント
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