「見る」ときの脳での連絡網
連載1 連載2 連載3 連載4 連載5
オステオパシー(手指で行なう治療法)を使って、頭蓋骨を調整するときには、脳の動きを感じながら行いますが、それを感じるようになるには、それなりの訓練が必要ですし、人によっても「感じるようになる時期」が違うようです。
それは、感性が磨かれた人とそうでない人の違いではないかと考えていて、音楽を始めとした芸術を達成した人、武道、剣道、柔道、その他スポーツをある領域まで達成した人、あるいは何か一つの事柄に打ち込んで研究した人などは早いようです。
これは多分、脳での回路の問題で、一度何かの回路が繋がった人は、脳での「感覚分野」の回路も繋がりやすくなっているのではないかと考えられます。
となると集中力の問題も出て来るのですが、集中力のある人も「感じるようになる時期」は早いように思われます。
しかし、早い遅いが問題ではなく、「感じること」が重要ですので、感じるためには何をするといいのかと考えてみます。
人は多くがイメージで動きます。
理屈では動きにくいのです。
たとえば、99円と100円というのは、99円のほうがはるかに安いというイメージがあるのですが、同じ1円の差でも、1116円と1117円というのは、差がないように感じてしまいます。
人はイメージで考えるからですが、たとえば、学習することでイメージがしやすくなりますので、最初に理論的なことを学び、それから「実際にやってみる」という行動をとることが達成の時期を早めることになります。
そのほうがイメージしやすいので、達成しやすいからです。
オステオパシーは、「第一次呼吸」(脳脊髄液の動き)と「第二次呼吸」(肺呼吸)を分けて考えており、第一次呼吸での「脳脊髄液の循環」を感じる事が基本になっています。
※第二次呼吸とは普段我々が行っている普通の肺呼吸のことです。
それは、第一次呼吸は以下のように頭蓋骨と関係しているからです。
① 脳脊髄液の循環を保護しているのがクモ膜の外側にある硬膜
② 硬膜は頭蓋骨に張り付いている
③ 脳脊髄液の圧力が高まると硬膜がが動く
④ その結果として頭蓋骨が動く
という機序があるので、手で頭蓋骨の動きを感じる事で脳脊髄液の動きを感じることが重要になるわけです。
オステオパシーでは、脳脊髄液の動きを感じながら、(私の感触では)脳脊髄液が穏やかな動きになると、「正常な機能になった」と判断して治療を終了します。
さてそれでは、「見る」ということについて考えてみます。
我々が「見る」という行為は、脳で多くの情報連絡網が関わっていて、自然科学研究機構・生理学研究所の吉田正俊 助教・伊佐正 教授らの共同研究チームは、「視覚野」が障害を受けた場合には、中脳の「上丘」を介して脳の中に無意識に情報が伝わっていく事を発見しました。
つまり、眼の「網膜」で見た情報は、「視床」を経由して、「視覚野」に送られ、「見ている」として意識されるわけです。
そのとき、硬膜自体に異常があるときも、「目の異常」として自覚するわけです。
たとえば、眼球の大部分は、硝子体という物体で満たされていますが、光が角膜と水晶体を通して入ってくると、この硝子体を通過してもう網膜に達して映像を作ります。
そのとき、硝子体が老化などの原因で劣化すると、硝子体の中の繊維組織が壊れて行き場を失い、水の塊が線維クズと一緒に硝子体の中に浮いて、黒い点として自覚するわけです。
これは「生理的飛蚊症」と言われるもので、その他に「後部硝子体剥離」、「網膜裂孔」、「硝子体出血」、「硝子体混濁」というのもあります。
さて、後頭葉に送られた情報ですが、後頭葉は4つの大脳葉の中で最も小さく、上のイラストで示すように頭蓋内で最も後方に位置しています。
・後頭葉は大脳と小脳の間を仕切る硬膜である小脳テントに接しています。
・大脳縦裂によって左右それぞれの大脳半球に分かれています。
・前方には頭頂後頭溝があり、これを境に頭頂葉と接しています。
・側面では後頭葉と側頭葉の境界はあいまいです。
飛蚊症やその他の眼病がある患者さんの、後頭骨や、後頭骨と頭頂骨が縫合するラムダ縫合を触っていますと、硬い感じがして、ラムダ縫合を動かすと、「ものすごく気持ちいい」と言います。
これは視覚野が後頭部にあるので、目の異変は後頭部やラムダ縫合にも影響を与えていると考えることができます。
ただ、頭蓋骨縫合を調整するのは、多くの頭蓋骨が関わって、頭蓋骨全体を調整していくことが基本になりますので、ここの文章だけを読んで「ラムダ縫合を調整すればいいのか」と思わないようにして下さい。
それは、これから書いていきますが、視覚に関しては脳の(頭蓋骨の)いろいろなところが関係しているからです。