橋村萬象襲名記念展:近鉄四日市8階画廊
江嵜企画代表・Ken
木具師、橋村萬象さんの三代襲名記念展が近鉄四日市店8階画廊で10月1日まで開催されるというご案内をいただき楽しみにして出かけた。神戸の自宅を出てJR、地下鉄、近鉄と乗り継ぎ、約3時間で現地に着いた。
地元ケーブルテレビCTYでも放映され、土曜、日曜日は沢山の方が会場に来られたと画廊の方から聞いた。近鉄四日市店は父上と二代続きの個展開催である。この日は比較的訪問客が少なく、橋村萬象さんからお時間を戴き貴重なお話をお聞きすることが出来ラッキーだった。
今年2月に三代萬象を襲名されてからは特にご多忙で休まれたのはお盆の日をいれて2日しかない。四日市のあとは札幌、青森、盛岡、静岡、広島での個展開催を予定しておられることもご披露いただいた。
会場に着いてまず目に入ったのが赤の傘、赤い毛氈が敷かれた茶席である。これは絵になる。着くなり会場の様子をスケッチした。この日は松尾 刑部蒼白先生のご担当でおうすとお菓子を頂戴した。
画面右の掛け軸は曲尺,つまり寸法が書かれている。銘に元久元年(1204)七月十七日、後鳥羽院下賜とある。橋村家は奈良から京都に遷都したとき天皇にお供して京都に来た。桁外れに由緒ある家系である。
今回は80点の作品が並んでいた。ほとんどの作品をひとつひとつ丁寧に解説いただき恐縮した。その中に猪熊佳子先生が絵を添えられた作品が6点もあった。猪熊先生は森の作家の異名を持つ画家であるが猪熊先生の絵が持つ木のぬくもり、優しさが橋村先生の木具に自然に溶け込んでいると素人ながら感じる。今回は日本画家、川島睦郎さんの作品も見られた。中でも牡丹の花は見事だった。
木具は字の如く道具である。絵は見て楽しむものである。道具は絵とそこが違う。何に使われるか。どういうところに置かれるかについて構想がまず生まれるのだという。
今回、橋村先生から「用の美」という言葉をはじめて聞いた。
道具は手で持つところからはじまる。茶道の所作、振る舞いにも美しさが求められる。「用の美」がそれである。周りの世界に邪魔にならない。道具はオーケストラの楽器にも例えられると話された。
猪熊先生との出会いは6年前に遡る。画家は時間をかけて木具師の作った道具を見てきた。木具師は画家の絵を見てきた。気心の知れた絵師と木具師ならではの作品がそこではじめて生まれる。
気心は木心に通じる。気心の知れた友に恵まれることは人生の醍醐味のひとつではなかろうか。橋村さんから何か大切な宝物をお土産にいただいたような気持ちになって、会場を後にした次第である。(了)