遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

トラスト

2023年08月16日 11時44分13秒 | 読書

            トラスト     エルナン・ディアズ(著)2023年5月発行

 予備知識なしで読み始め、途中、戸惑いつつも、どんどん小説の魅力に惹き込まれ読了。

 素晴らしい小説でした。

 ニューヨークの大富豪の投資家「ベンジャミン」を主人公に、彼の投資手腕、

 彼の家族のルーツ、彼の妻について、異なる視点から4部構成で描かれているのだが、

 その描かれ方がとてもユニークで、感が鈍ってる母は軽くマジックに引っ掛かった気分

 になったり、そういうことか、と思ったり、ワクワクしながら一気に読みました。

 個人的にまだ謎が残っているけど、深いし、ほんとに上手いな〜。

 第4部、妻ヘレンが自ら選んだスイスの施設での療養生活の断片がリアルで辛すぎるが、

 それも含め見事。

 上質な小説を堪能し大満足。

     わがまま母

あらすじ
1920年代、ニューヨーク。
投資家ベンジャミン・ラスクは、冷徹無慈悲な読みでニューヨーク金融界の頂点に登り詰める。
一方、妻のヘレンは社交界で名声をほしいままにするが、やがて精神に病をきたす。
一世を風靡した夫妻の、巨万の富の代償とは一体何だったのか――。
こうして1937年に発表され、ベストセラーとなった小説『絆』

しかし、ここに描かれた大富豪夫妻には、別の記録も存在していた。
『絆』への反駁として大富豪が刊行しようとした自伝『わが人生』
『わが人生』を代筆した秘書の回想録『追憶の記』
そして、大富豪の妻の死後発見された日記『未来』
夫妻を全く異なる視点から描く四篇を読み進めるうち、浮かび上がる真実とは……。

— 以下、訳者あとがきより一部抜粋し転記します —

 略・・・・・

ゴールドラッシュと大恐慌という歴史的な出来事を主軸に据えている点、移民が主要な登場人物であること、ディアズ本人の言葉を借りれば「化石化された」アメリカの神話をテーマとしていることなど、作家の関心が共通して表れている。
 本書には、様々な企みと仕掛け、問いと答えがちりばめられている。四部からなる構成は、そうした企みのもっともわかりやすい例だ。第一部は、一九三七年に刊行されたハロルド・ヴァナーの小説『絆』である。第二部は、『絆』の主人公ベンジャミンのモデルとなったアンドルー・ベヴルによる自伝、『わが人生』。第三部はベヴルの秘書として自伝の執筆を手伝ったアイダ・パルテンツァによる手記、『追憶の記』。そして最後の第四部では、アンドルーの妻ミルドレッド・ベヴルが、日記という形を取って、すべての問いに答えはじめる。
 タイトルであるtrust という単語には、いくつかの意味がある。金融用語としては「信託」であり、法的用語としては「委託」であり、そしてもちろん、関係性や能動的行動としての「信頼」だ。ディアズは、インタビュー(〈パリス・レビュー〉誌、二〇二二年六月)で読者と作家間の信頼関係について問われると、このように答えた。「読むというのは信頼するということです。小説であれ処方薬のラベルであれ、そこにはかならず信頼という行為が介在します」ディアズは、文学におけるジャンルや語りの視点とは、すなわちこの信頼のことであると述べた。
 この四部構成は、読者が無意識に刷りこまれてきた、読むという行為に付随する無防備な信頼に揺さぶりをかけるための仕掛けだ。『絆』で描かれるベンジャミン・ラスクは、金融の天才でありながら、夫としては妻のヘレンに歪なまでに純粋な愛情を向ける。だが、このような人物像は、のちの第二部から第四部にかけてグロテスクなまでに変容していく。一方、夫と同様に天才的な頭脳を持ち、宗教や科学や芸術全般に深い造詣のあるヘレンは、結果的に夫からの愛情によって破滅させられる。しかし、そのように悲劇的な運命を受容した彼女についてもまた──ベンジャミンとは大きく異なる形で──、第三部から四部にかけて、前半で描かれた女性とはあまりにも異なる人物像が浮かびあがってくる。

 ・・・・・略

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