遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

襷がけの二人

2024年07月01日 13時58分32秒 | 読書

           襷がけの二人     島津 輝(著)2023年9月発行

   大正末から昭和〜終戦直後の時代を背景としているせいか、どこか懐かしい雰囲気が

   漂っていて、不思議な安心感を覚えつつ、面白く一気に読んだ。

   最近は、こんな風な小説読んでいなかったから懐かしさを感じたのかも。

   バブル前のテレビ番組に、こんな設定のドラマがあったような記憶が、、、。

   登場人物は、主人公の「千代」と、嫁ぎ先で一緒に暮らすことになる

   粋で、チョイと訳ありげな「お初さん」こと「初衣」、若い女中「お芳」と、

   ほぼこの女性三人が中心。

   とかく難しいといわれる「女三人」も、尊敬できて、互いを思いやれれば、

   こんないい関係を築きながら絆を深め、成長していけるのですよねえ。

   また、三人が協力し合う台所で作られる料理、家庭料理ながらも、気持ちが

   こもって、手間暇かけられている様子が素晴らしく、たまらなく美味しそう。

   特に印象的なのが、昭和初期に手間暇かけて作る牛タンシチューのインパクト!

   登場人物も話も地味、でも、書き手の上手さのおかげか、充分堪能させて

   もらいました。

      わがまま母

— 以下 好書好日 より転記 —

  評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2024年01月06日

  「襷がけの二人」 [著]嶋津輝

 正月に向田邦子の新春ドラマスペシャルが放送されなくなって随分経つ。きっと条件反射なのだろう、この時期になると昭和初期の物語を欲してしまう。
 戦後四年目、独り身の中年が女中の仕事を求めて目見得(めみえ)に訪ねるところから物語ははじまる。千代というのが主人公だが、およそ主人公らしくない。近所の人にも顔を覚えてもらえないほど、見た目の凡庸さが繰り返し綴(つづ)られる。
 一方、千代が住み込みで働きはじめた家の主、初衣(はつえ)の描写は念入りだ。長身ですっきりした佇(たたず)まい、ただ者でないと思わせる粋な所作を伝える一文一文には魂がこもる。千代の目に映った初衣の美しさ、女が女を憧憬(しょうけい)するまなざしだ。
 空襲のときに火の粉で視力を失い、今は三味線の師匠として生計を立てている初衣に、千代は素性を隠して仕える。敗戦によって日本の天地がひっくり返ったように、この二人もかつては正反対の立場にあった。戦前は千代が奥様で、初衣が女中だったのだ。
 前述の向田ドラマが家族を描いてきたのとは対照的に、千代は家族と縁がうすい。母とは折り合い悪く、愛情を感じたことがない。身に余る嫁ぎ先で奥様の座に納まったものの、夫とは心身ともに交わることがついぞない。イエはあるが、家族からははぐれている。
 代わりに千代が築いたのは女中たちとの絆である。家事を執り行う連携によって、信頼は磨き上げられる。とりわけ女中頭の「お初さん」こと初衣は、メンターのように頼れる存在だ。賑々(にぎにぎ)と日々の食事の支度に精を出しているうち、いつの間にか戦争がはじまっている。「新しい戦前」と言われる今、この呑気(のんき)さは非常にリアルである。
 三界に家無し。そんな世界の片隅に、やがて女だけで暮らすことになる千代と初衣。家父長制の色濃い時代を背景に、血縁や男女の婚姻関係で作られる家族の形に異を唱えた、静かなる反逆の物語でもある

   

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