遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

Sの継承

2014年03月31日 15時04分22秒 | 読書

          Sの継承   堂場瞬一(著)2013年8月発行

    50年前の日本と現在の日本で、よく似たクーデター事件が起こる。
    いづれの事件でも、幸運にも被害は最小限にとどまる未遂事件として終わる
    のだが。
    
    『誤った政治は誤った歴史を生む。誤った政治は倒さなければならない。
    そうしないと、過ちが長く続き、歴史が歪んでしまうからだ。一度失敗しても
    次の世代が引き継いで挑戦すべきだ』
    東京オリンピック開催前年、ある財界大物が、この理念に同意するメンバーを選び、
    政府転覆及び議員総辞職を掲げたクーデターを計画し実行しようとする。
    この時は、ある事情により実行直前に取りやめとなるのだが、
    毒ガス開発を担っていた青年は、その後もクーデターを諦められないまま時期を
    伺うようにしながら、ひっそりと田舎で塾講師をしながら暮らしている。

    そして、2013年の東京で事件が発生。
    Sと名乗る毒ガス犯が、国会議員総辞職を要求、国会議事堂裏で車に立てこもり
    都内各所への毒ガスを仕掛けたと、前代未聞のテロ事件を起こす。

    どちらの場合も、選挙を介しての議会制民主主義では、真の民主主義とはいえず、
    国の将来を危うくするのみ、選挙で政権交代しても、格差はなくならず、
    民意は反映されるわけではない、そんな政治不信からクーデター未遂事件へと
    駆り立てられていく。

    前半は、財界大物「国重」と、彼が選抜した優秀な理系学生「松島」を中心に、
    メンバーとクーデター計画の推移が描かれ、
    後半は、ネット上でクーデターを発表し実行する「S」を名乗る、
    松島の教え子「天野」の挑戦と、毒ガス散布を阻止しようとする警察の闘いが
    息詰るスピーディな展開。

    一見、ありえないストーリーのようにも思えるが、不可能ではない・・・
    2020年のオリンピックも刻々と近づくなか、少々怖くなる。
    本書中、古い時代に書かれたとしている体制批判、民主主義の在り方、理想から
    顧みるに、50年以上経た現在の政治状況にも充分通用しているのが悲しい現実。
    なんとなく不気味な政治犯罪の小説でした。

    母としては滅多に読まないタイプの小説ですが、面白かったです。

       わがまま母
    
    
    
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ヴァティカンの正体

2014年03月31日 10時20分49秒 | 読書

   バティカンの正体  
        ― 究極のグローバル・メディア
                         岩渕潤子(著)2014年2月発行

   興味を持って読んだせいか、すごく面白かったです。
   国の将来を描き、政策方針を決める立場にある人々に是非参考にして欲しい。
   自分は学生時代から、表面的にだけれどキリスト教の教理や文化に触れてきたし、
   随分前から『塩野七生』の著作を読んだりして、
   カソリックの大本山であるヴァティカンの組織、運営、人材の凄さは知って
   いたので(善き所悪しき所は別として)、ずっとこんな本が出る事を待って
   いた。本書を読み、ようやく書いてくれる人が現れたか・・・という思いだ。
   カソリック信者として描くヴァティカンはさまざまあり、小説の題材にも
   なってきたが、ヴァティカンを多角的に分析し考察し、そこから日本が学ぶべき
   ことを検証している、という点が本書が意義深いところだろう。

   内容は、ヴァティカンとは何か、というヴァティカンの成り立ちや本質から始まり、
   2,000年に渡るヴァティカンの成功、挫折、試行錯誤の歴史を経て存在しつづける
   術を探りながら、少子高齢化が進む今後の日本の生き残る方法のヒントを模索する、
   というもの。
   上手く要約できないので、本書の案内文を転載しておく。

   ・・・日本は、急激な少子高齢化を避けて通れず、国際競争に生き残って行けるとは
   到底思えない。そういう時代だからこそ、地上の権力を失った時にヴァティカンは
   何をしたのかを考察することは、我が国が後世に及ぶ文化的存在として生まれ変わる
   上で大きな示唆を与えてくれるような気がするのだ。・・・・

   ―
   19世紀半ばに至まで、広大な教皇領の支配を通じて宗教的支配者としてのみならず、
   地上における君主としても絶大な権力を振るったヴァティカン。黎明期より多くの
   地域に特派員を派遣し、情報収集、編集して世界へ向けて再発信する国際的メディア
   という側面を持っていた。激動の転換期を幾度となく生き延びてきたヴァティカンの
   メディア戦略を歴史軸で俯瞰し、宗教改革、対抗宗教改革における生き残り策に
   焦点を当て、いま日本が学ぶべきことを検証する。現世での支配権を失った後、
   文化的存在へと変容を遂げることで、普遍的地位を強固なものにした経緯について、
   多角的に考察を行う。
   ―
   そして、 あとがき より
   ・・・  産業競争力の衰えと共に、世界への影響力がて行かしつつあることを実感
   している日本。
   その日本が、これから進むべき道を考える上で、知的プロフェッショナル集団であり、
   文化的存在であるヴァティカンは一つの興味深い参考例であることは間違いないだろう。
   ただし、そう簡単に真似の出来るモデルではないかもしれない。
    ローマを永遠の都とするため公共事業に投資して、インフラ整備、教会の修復や新築、
   美術品を発注し続けた教皇たちの慧眼と深謀遠慮は、目先の節約よりも大きな利益を後代
   の人々にもたらした。そのことは、もっと話題に上ってしかるべきだし、多くの示唆に
   富んでいる。壮大な都市計画や芸術は無駄な贅沢ではない。それは後代の人々を養うため
   の健全な投資だと考えることもできるのである。・・・

   昨年に娘とした2回の海外旅では、特にスペインの世界遺産の数々を目にし歩きながら、
   その素晴らしさに感動しつつも、そこに暮らす人々の姿を見て、色々と考えさせられる
   ことが多かった。
   たとえ失業率30%でも、歴史遺産を守りながらノンビリと生活している人々の幸せそうな顔、
   経済的に最先端で豊かといわれる日本人の通勤ラッシュの様子、幸せとはいえないような
   イライラした顔の波、、、この違いは何なのか? どこからくるのか?

   また著者は「クール・ジャパン」を世界に売り出そう!という政府の恥ずかしくも馬鹿げた
   政策に対しても、厳しい忠告を述べていて、そこにも大いに共感した。
   そんな私の個人的な想いや考えと重なり共感する部分もあり、
   且つ、新たに気づかされる指摘もあり、読んでいて面白く有意義な時間を過ごせました。
   お薦めの一冊。

     わがまま母
   
   
   
   
   
   
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