Sの継承 堂場瞬一(著)2013年8月発行
50年前の日本と現在の日本で、よく似たクーデター事件が起こる。
いづれの事件でも、幸運にも被害は最小限にとどまる未遂事件として終わる
のだが。
『誤った政治は誤った歴史を生む。誤った政治は倒さなければならない。
そうしないと、過ちが長く続き、歴史が歪んでしまうからだ。一度失敗しても
次の世代が引き継いで挑戦すべきだ』
東京オリンピック開催前年、ある財界大物が、この理念に同意するメンバーを選び、
政府転覆及び議員総辞職を掲げたクーデターを計画し実行しようとする。
この時は、ある事情により実行直前に取りやめとなるのだが、
毒ガス開発を担っていた青年は、その後もクーデターを諦められないまま時期を
伺うようにしながら、ひっそりと田舎で塾講師をしながら暮らしている。
そして、2013年の東京で事件が発生。
Sと名乗る毒ガス犯が、国会議員総辞職を要求、国会議事堂裏で車に立てこもり
都内各所への毒ガスを仕掛けたと、前代未聞のテロ事件を起こす。
どちらの場合も、選挙を介しての議会制民主主義では、真の民主主義とはいえず、
国の将来を危うくするのみ、選挙で政権交代しても、格差はなくならず、
民意は反映されるわけではない、そんな政治不信からクーデター未遂事件へと
駆り立てられていく。
前半は、財界大物「国重」と、彼が選抜した優秀な理系学生「松島」を中心に、
メンバーとクーデター計画の推移が描かれ、
後半は、ネット上でクーデターを発表し実行する「S」を名乗る、
松島の教え子「天野」の挑戦と、毒ガス散布を阻止しようとする警察の闘いが
息詰るスピーディな展開。
一見、ありえないストーリーのようにも思えるが、不可能ではない・・・
2020年のオリンピックも刻々と近づくなか、少々怖くなる。
本書中、古い時代に書かれたとしている体制批判、民主主義の在り方、理想から
顧みるに、50年以上経た現在の政治状況にも充分通用しているのが悲しい現実。
なんとなく不気味な政治犯罪の小説でした。
母としては滅多に読まないタイプの小説ですが、面白かったです。
わがまま母