ひこばえに咲く 玉岡かおる(著)2013年11月発行
生涯をひっそりと、青森津軽の自宅の離れにある土蔵をアトリエとし、
地元津軽の風景と人、特に林檎の木、花、林檎とともに生きる人を題材に
あくまでも「自分のため」に絵画を描き続けた孤高の画家がいた。
ある時、偶然彼の画集を目にして以来、気になったしようがなくなる
銀座の画廊の娘「香魚子」が、津軽を訪れてみるところから話が始まる。
その老画家は、津軽のゴーギャンとも言われていたが、
描く事以外には無頓着なため、作品を発表せず、売る事もせず、
倉庫の二階に150点以上の絵画をビニールシートで覆い無造作に置いていた。
「こんなところに押し込むしかない繪を、どうして一生懸命、描いているんですか?」
という香魚子の質問に、
「そりゃあ絵描きは絵を描くだろ。船頭が船を漕ぐようなもんだ」
― おれはただ・絵を描ければ・それでよい ―
「生活ってが? 食ってぐぐらい、なんとしてもでぎるべ」
そんな言葉に衝撃を受けた様子の香魚子に、気の毒そうにこういう。
「描くためだけの絵もあるんでねえか」
この衝撃の出会いから、香魚子の働きによって
津軽の画家「ケンさん」こと「常田健」の個展が銀座の画廊で開催されることとなる。
入場者数もうなぎ上り、作品は絶賛され、彼の名が世に広く知られる事となった。
そんな異色の画家「常田健」の生涯を描きつつ、
「ケンさん」と幼い頃に運命の出会いをして、自分も絵描きとなり、
後に「ケンさん」を「オヤブン」と呼び生涯慕う「ふく」や
画家の従兄弟、家族、、、彼を支えた人々の人生もそれぞれに、感動的。
あくまでも小説なので、彼の伝記として描かれているだけではなく、
香魚子の仕事や恋、父親との葛藤などもスパイスとして加味されているので
とても面白く、あっという間に読み終わりました。
小説として、人物や設定にも様々なアレンジがされている訳ですが、
それを踏まえつつも
こんな画家もいたのか、、、と、人の生き方の有り様に想いを馳せ、
厳しい自然環境なはずの津軽も楽園となることに、感慨深いものがありました。
著者自身が、「ケンさん」の絵に惚れ込んだからこそ、
これだけ面白い小説となっているのでしょう。
わがまま母