できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

もしも私が今日、「新成人」に何かあいさつするとしたら

2012-01-09 20:36:52 | いま・むかし

今日は「成人の日」。全国各地の自治体で成人式が行われる・・・・ということは、大阪市では橋下市長がいわゆる「新成人」を前に、いろんなことを語ったのでしょう。

もうすでにツイッター上では、橋下市長が成人式に来た若者たちに、「政治に無関心だと、(若者に)お金は全然回ってこない。自分たちに回ってくるように、政治に参加してもらいたい」とか言ったという話が流れています。「ほんと、こんなこと、よくいうよな~」って思います。なぜなら、「これってまさに利益誘導の政治。一部の地域ボスみたいな人たちがすすめてきた、古いスタイルそのものじゃないの?」ということですね。

今、若者たちが求めている社会や政治のあり方は、そういう「自分のところにお金がまわるかまわらないか」というだけの、狭い自分の欲望をどう実現するかというような、そんな次元のことだけを展望するものではないでしょう。

むしろ、自分たち若い世代が将来に希望を持ちつつ、自分と同世代、および世代の異なる周囲の人たちが落ち着いて、平和に共存していけるような、そんな社会のあり方。それを実現するための政治や行政のあり方。それを展望していけるような理念や思想と、それを実現するために自分に何ができるのか、という具体的な取り組み方。こんなことを求めているのではないでしょうか。

たとえば、すでに東京電力福島第一原発の事故を見てしまった以上、「これから原子力エネルギーに頼らない暮らしをどう実現していくのか? それを実現していくために社会や政治をどう変えていくのか?」ということは、単純に「自分のところにカネがまわるようになるか、ならないか」という次元を越えた「この時代とどう向き合うのか?」という思想的な話を含んでいます。

あるいは、東日本大震災後の被災地域の復興に関しても、これから先、経済成長最優先の社会をつくっていくのか、それとも、誰もが穏やかに暮らしていけるような、安全・安心の地域コミュニティをつくっていくのかで、ずいぶんと目指すべき復興の方向性はちがってきます。

特に、最近、私は福島県で学校ソーシャルワーク(SSW)活動にかかわる人々の書いたものを読む機会があったのですが、それを読む中で、被災した地域の復興については、やはり「安全・安心」のコミュニティ形成が重要だと感じました。結局、日頃からどのような立場の人も切り捨てず、できる限り落ち着いて生活できるような環境づくりに取り組んでいる地域のほうが、いわゆる「災害弱者」と呼ばれるような人たちにも対応が早いし、きめ細やかな動きを示せるのではないか、と考えたからです。

こういう震災後の復興や地域防災といった課題についても、実は「カネになるか、ならないか」という次元の話ではなくて、「政治や行政がいったい、だれの生活を支えるためにあるのか?」という、きわめて基本的な理念、思想的な次元の話ほうが、いまは大事なのだということを示している、と思うわけです。

逆に言うと、いま、これだけ政治や行政を支える理念、思想的な次元の話のほうが大事な状況のなかで、それを語れず、「自分ところにカネがまわるようになるか、ならないか」ということしか言えないような政治家は、それ自体、見識を疑われてしかるべきかと考えます。

それこそ、「自分のところにカネがまわるようになるか、ならないか」という次元でしか政策を考えられない政治家であれば、今述べたような地域防災や災害弱者に関する対応も、原子力にかわる新たなエネルギー開発も、それが「カネになる」と判断しない限り、放置してまったく対応をしないということになるでしょう。と同時に、それが「カネになる」と判断すれば、この手の政治家は、今までの問題だらけの社会のしくみを温存し、自分たちの都合の悪い不正・不公正な問題も隠ぺいし、それに抗議する人々を抑圧する、ということでもあります。

これって、今までの日本社会、日本の政治や行政のあり方と、どこがちがうのでしょうか? 若い人たちが「何かおかしい」と疑問を感じている社会や政治のあり方と、どこがちがうのでしょうか?

そういうことから考えても、今、若い人たちが求めているのは、このような「自分のところにカネがまわるようになるか、ならないか」ということを基準にして政策をつくって、導入していくような、そんな政治家たちの言葉ではないでしょう。

若い人たちがほんとうに今、求めているのは、そういう政治家たちのこれまでを批判し、乗り越えて、自分たちが自分の仲間と、世代の異なる人たち、生まれ育った文化の異なる人たちなどと、ともに手を取り合って生きていけるような、そんな社会を展望する・構想するための思想や理念、その思想や理念に基づく政治や行政の新たな手法なのではないでしょうか。

もしも今日、私が「新成人」に何かあいさつをするとしたら、きっと、こういうことを軸にして、「みなさんといっしょに、これから私も勉強していきましょう」というと思います。間違っても私なら、「自分たちのところにカネがまわってくるように、政治参加を」などとは呼びかけないでしょうね。そして、みなさんの世の中を変えたいという思い、政治や社会はこのままではダメだという思いを利用し、まったく違う方向に持っていこうとする人か、それとも、自分たちの願っている方向をいっしょにつくろうとしている人か。政治家のいう言葉を吟味し、よく確かめていけるようなかしこさを磨いてください。そのためには、大学や短大、専門学校での学び、いま働いている職場での学び、ひとりで、あるいは家族や仲間とともに過ごす時の学び、それがとっても大事です」と、若い人たちには呼びかけるでしょうね。


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