新設クラスというものは、スーパーチャンプの手により発展する、という典型例かもしれません。
スーパーバンタム級、マガジンのエントリー、一回戦は以下の通り。
ウィルフレッド・ゴメスvs西岡利晃
ウィルフレッド・バスケスvsジェフ・フェネック
エリック・モラレスvsギジェルモ・リゴンドー
ダニエル・サラゴサvsマルコ・アントニオ・バレラ
スーパーバンタム級の価値を高めたボクサーとして、そして脅威のKOモンスターとして知られる「プエルトリコのバズーカ砲」ウィルフレッド・ゴメス。
何しろ17連続KO防衛という、問答無用の偉業です。このクラスはこの人抜きには語れません。
若い頃から晩年まで、たぶん30試合近く見てますが、王座獲得後、初期の頃は、攻防共に緻密で丁寧。
天性と強打を存分に発揮し、鮮やかで、かつ豪快な勝利を重ねていました。
日本でもロイヤル小林戦で、その実力を存分に見せつけています。
しかし減量苦もあり、フェザーに転じたがサンチェスに敗れ、スーパーバンタムに戻った前後から、力ずくの闘いぶりが目に付くようにもなりました。
あと、試合の数を多く見たせいで、色々と要らんとこまで見えてしまって、正直、実力や強さとは別に、あまり好ましい印象が持てない面があります。
肘打ちやなんかも、けっこう目に付きますし、ゴング後やダウン後に打つ頻度がかなり高い。
それどころか、試合終了後に、たった今、自分が打ち込んでストップした相手に、さらに襲いかかったこともありました。
また、キャリア晩年、フェザーやジュニアライトでの苦闘も、歴戦の疲弊故とはいえ、見ていて辛いものがありました。
とはいえ、このクラスではやはり凄いです。ことに若い頃の試合ぶりは。
動画はまず、主要試合のハイライト。負けた試合は外してあるやつです。
キャリア最大の星はやはりこれか、カルロス・サラテ戦。
この試合の時点で、王者ゴメスが26戦25勝(25KO)1分、サラテは54戦54勝(53KO)。
全世界注目の大一番、今ならアメリカのプロモーターが、かっさらっていくカードです。
ご覧の通り、ゴメスの地元サンファンの会場は異様な状況。
ゴメスがしっかり集中して足を使い、敏捷に外すのに対し、サラテが見るからに重く、不調。
試合としては若干、残念なものでもありましたが、ゴメスの方は切れ味鋭く、見事な出来でした。
フェザー級でサンチェスに敗れたが、スーパーバンタムの防衛は17回にまで伸びる。
最後の防衛戦は大激戦。元バンタム級王者ルペ・ピントール戦。
これはフルラウンド探して見て貰いたい一戦です。ピントールの奮戦も感動的。
ちなみにこの試合はセミで、メインがハーンズ、ベニテス戦。豪華!
対するは日本のスピードキング、早熟の天才にして大器晩成、西岡利晃。
新人王時代から関西ローカルのボクシング番組で取り上げられていましたし、手撮りのデビュー戦映像から、そのキャリアはほぼ全て、つぶさに見てきました。
これまでも色々と書いてきた選手ですし、付け足すことはありません。
まずは日本バンタム級王座を獲得した試合、渡辺純一戦。
初防衛、仲里繁戦。今思えば世界戦で通るカードだったわけですね。
高砂の会場です。懐かしい。
続いて、世界戦を全部網羅した動画。ありがたい作りです。助かります。
こうして見ると、抜群に切れる左、詰める際の爆発力が光ったバンタム級から、ウィラポン戦の苦闘を経て、海外進出に至る過程で、波の少ない安定感と、決め手の威力をバランス良く発揮するボクサーとして、スーパーバンタムを制した過程がよく分かりますね。
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こちらもプエルトリコの「ウィルフレッド」バスケス。
ベニテス、ゴメスと並び、プエルトリコの「三大ウィルフレッド」と言われるそうです。
初めて見たとき、そんな「大を成す」選手になるとは、全然思わなかったですが...。
ハードヒッターで知られるが、技術に欠け、ミゲル・ロラやアントニオ・アベラルに負けていて、コンテンダーとしても一流とは言えない。
87年、韓国でWBAバンタム級王者、朴讃栄に挑んだときのバスケス評はそういうものでした。
なんでも、王者の朴がランカー10人のビデオを見た中から「この選手にする。スピードが無いから勝てる」と自ら選んだのだそうです。
しかし朴は好調に攻めていた5回、ロープ際から放ったバスケスの右で倒れ、ダメージ甚大、セコンド陣がインターバルを引き延ばしたりと、見苦しい真似をしたもののかなわず、10回KO負け。
新王者となったバスケスは、この試合の次に、大阪で六車卓也と引き分け。その後、タイで陥落。
イスラエル・コントラレスにも初回KO負けを喫するなどして、もう浮上してこないのだろうと思っていました。
なので、一度負けている、メキシコの長身ラウル・ヒバロ・ペレスを倒しての戴冠と、その後の躍進は正直言って予想外でした。
その実力に対しても、葛西雄一戦までは、どこか軽く見ていた面もあります。
しかし、ロラや朴と闘っていた頃から、劣勢でも勝負を投げず、ロープ際からの右で倒したり(朴戦)ダウン応酬の激戦を闘ったり(ロラ戦、アベラル戦)ロープに押され続けても粘り強く打ち返したり(六車戦)、不器用そうに見える反面、その勝負強さは光ってもいました。
フェザー級も制し、ハメド戦に進むまで、カニサレスやエロイ・ロハスに勝つなどの戦績は、歴戦の経験を糧にしての開花、というべき、堂々たるものでした。
動画あれこれ探しましたら、「日本人キラー」としての特集動画がありました。これも有り難い。
展開どうあれ、相手を良く見て、しっかり狙っているところが強みですね。
対するはダウン・アンダー初の三階級制覇、ジェフ・フェネック。
バンタムからライトまで世界戦をやってますが、上の二つではネルソン、フィリップ・ホリデーに阻まれ戴冠ならず。
バンタムからフェザーまでの中で、スーパーバンタムではタイの天才サーマートを倒した殊勲があるが、正直、どのクラスを切り取っても、史上ベスト8選出には不足あり、という気がします。
キャリア全体を見て、合わせ技、ってことなんですかね。
このクラスで、という分け方なら、ブヤニ・ブングとかの方が上だと思います。
ただ、ネルソン戦で見せたスタミナとタフネス、闘志は飛び抜けていて、ネルソンやサーマート相手に、それで押し切っているところは凄いですね。
試合ぶりは、とりあえずご覧ください、としか。
こんな感じです。好みに合うか合わないかは人それぞれですが...。
一応内訳。新垣諭(二戦目)、ジェローム・コフィーまでがIBFバンタム級。
三試合目がサーマート・パヤカルン、WBC王座奪取。次がカルロス・サラテ戦。
その次がビクトル・カジェハス戦で、WBCフェザー級です。
タイロン・ダウンズ戦、そしてマルコス・ビジャサナ、アサバチェ・マルチネス、そしてネルソン第一戦です。
ところで私、一度この人、直に見たことあります。
確か、石田順裕がナデル・ハムダンと対戦したときだったと思います。
府立の地下の会場で、ハムダンのセコンドについていました。
試合後、ハムダンそっちのけ(笑)のファンに囲まれ、握手や撮影に応じていました。まんざらでもない風でした(笑)。
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続いて王国メキシコから「エル・テリーブレ」恐怖の男、エリック・モラレス。
活躍の場はスーパーバンタムに留まらず、バレラやパッキャオともライバル関係でしたが、ベストがここと言われればそれも納得。
見た目、ちょっとぎくしゃくしてるようにも見えますが、痩身から繰り出す強打で倒しまくりました。
動画はHBOハイライト。サラゴサを沈めた右ボディストレートは強烈です。
このハイライトで主要キャリアは見られますが、入ってない試合で、印象的なのが猛毒ジュニア・ジョーンズ戦。
国境の町ティファナで生まれたメキシカンが、地元のリングで、アメリカの強打者を迎え撃ち、倒す。
メキシカンが「売れる」ための、絶好のロケーションで見事に勝利して、スター街道に乗った試合です。
試合後、モラレスが勝ったのに、何故か客席から椅子が飛んできて、えらい騒ぎになってました。
フルラウンドの動画なら、確認出来ると思います。
対するは「闘う馬耳東風」ギジェルモ・リゴンドー。40歳だか41歳だか、とにかく現役。
世界選手権と五輪を連覇し、プロ転向後も、負けたのは二階級上のロマチェンコ戦のみ。一種の怪物ですね。
今はバンタムに下げて、井上尚弥戦を熱望していると伝えられますが、エントリーは当然こちら。
現役だし、拙ブログでもあれこれ思うところを書いていることもあり、動画もあれこれ貼ることはないでしょうね。
これはHBOと切れる前に作られた映像みたいですが、中頃から。
BGMの歌声が「打てー打てー♪」と聞こえるのがいとおかし、です。
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さて、若い頃から「老雄」ぽかった技巧のサウスポー、ダニエル・サラゴサ。
この人も王座から転落したあと、復帰してくるとは思ってなかったという点で、バスケスと通ずるところがあります。
バンタム、スーパーバンタムでWBCタイトルを獲ったものの、いずれも決定戦。
メキシカン優遇の匂いが強く、試合内容も「部外者」の目にも鮮やかな、とはいかず。
90年、ポール・バンキに敗れて転落したあと、1年のブランク。この間、33歳になっていました。
しかしそこに、日本から畑中清詞挑戦のオファーが来て、8回戦をひとつやってから来日。
日本側の目論見は、当時、人材豊富で充実期にあった世界のスーパーバンタム級ランカーの中で、一番弱いと見て選んだ、というものだったそうですが、判定勝ちで王座奪取。
その後も王座転落と奪回があり、その中で辰吉丈一郎に2勝したり、ウェイン・マッカラーに勝ったりと、長く活躍を続けました。
名匠ナチョ・ベリスタインの指導を受け、その名がヒルベルト・ローマンと共にジム名に冠されるなど、その技巧としぶとい闘いぶりは、ひとかどの名ボクサーとして認められたものです。
動画はこれまた日本人キラーもの。凄いなぁ...。
最後は、逆に、ベテランになっても少年の面影が残った「ベビーフェイス・アサシン」マルコ・アントニオ・バレラ。
最初は、川島郭志の王座を狙う、指名挑戦者候補として名前を知った選手です。
メキシコの次期スーパーチャンプと目されるということで、これはえらいことやと思っていたら、挑戦者決定戦で体重超過。
一気に二階級上に上がってしまいました。
WBOタイトルを獲る前から、その試合ぶりが見られた(WOWOWのみならず、NHKのBSでも)ほどで、タイトル獲ったあとは、短期間で試合を重ねて倒しまくる。
そのハードスケジュールが祟ってか、ジュニア・ジョーンズに連敗して停滞したが、ほどなく復帰して、宿敵モラレスと激突。
惜敗するも勝っていたような内容で評価を上げると、その後はナジーム・ハメドに初黒星をつけるなど、王国メキシコの看板スターとして大活躍を続けました。
こちらは第一次王座のときの、ケネディ・マッキニー戦。激戦でした。
ハメドに初黒星をつけた一戦。よく見て、打つべき時は惜しまず打ち、見るべきときはしっかり手控えて勝つ、という風。
単なる強さだけで無い、バレラの知性を見た一戦。
一度、後楽園ホールで直に見た(当然、試合ではなく、観戦してるとこ)ことがありますが、穏やかな様子で、試合まで間があったので全体的に丸かったせいもあり、本当にボクサーぽく見えませんでした。
輪島さんが、リング上で紹介されて挨拶するバレラを「このお兄ちゃん、誰?」という感じで、不思議そうに見つめていたのを覚えています(笑)。
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さて、対戦ですが...ベストの比較をしたら、やはりゴメスの正確さと威力が、西岡を上回るか。
バスケスvsフェネック、大柄なフェネックが押し、猛ラッシュ。バスケスの強打に耐え抜いて、かろうじて押し切る。フェザーで当たれば保たないかもですが。
モラレスvsリゴンドー、残念ながらリゴンドーの足捌きをモラレスが止めきれない。リゴンドー。
サラゴサvsバレラ、バレラの攻勢にサラゴサ押され、こちらは捌ききれず、止められず。バレラ。
準決勝、ゴメスvsフェネク、ゴメスの強打とラッシュに、粘るフェネックも終盤、倒される。ゴメス。
リゴンドーvsバレラ、攻勢を取りつつ正確さを見せるバレラだが、捉えきれず、リゴンドーのカウンターで止められる。リゴンドー。
決勝、ゴメスの切れ味に対し、その分、集中を増すリゴンドーが先制し、捌いて、またカウンターでリードを重ねる。リゴンドー。
ありゃ、ゴメス一択かと思っていたら、リゴンドーになってしまいました。しまいましたって何だ...。
正直、誰ぶつけても、良いとこまで行くかもしれませんが届かない、という風にしか思えなかったんですね。まあこればかりは、それぞれにご意見ありましょうし。
カバジェロ級が相手なら、リゴンドーは締めてくる...んでしょうかね。意外に「ついうっかり」食ったりしますが、効くような食い方はしない構造になってますよね。そういう体勢を取ることがないというか。
そう言えばカバジェロでしたか。日本で細野さんと戦った、この階級では破格の長身。その馬耳東風さんは大きい天笠さんにダウン取られた様に、同じく大きく、よりスムーズなカバジェロなら何がしか、という気もします。
と思ったらカバジェロ入ってないんですね。ライト級あたりから「あれこの人は?」が私増えてますね。まあそれも含めてこういう企画は面白いんですよね。