ということで、金曜日のダブル日本タイトルマッチ感想に戻ります。
メインイベントはスーパーバンタム級、強打の久我勇作に、三度目の日本王座挑戦となる古橋岳也が挑んだ一戦は、想像を超えた大激戦になりました。
一昨年の大晦日、ジュンリエル・ラモナルに敗れた久我にとっては再起戦が即、指名試合。
その敗戦を「ネタ」に挑発コメントを出した古橋は、相手を揶揄するというより、自ら退路を絶った印象。
そこへもってきてコロナ渦により、試合から遠ざけられたボクサー同士の、闘志のぶつかり合いが見られるだろう、と思ってはいたのですが...。
初回は久我が打ち抜きの利いた強打をコンビで放ち、優勢。
ただ、攻めるスタイルの久我は、どうしても防御が甘い傾向にあり、それは相手との距離が近いときでも、あまり変わらない。
以前から不安視され、それ故に試合ぶりがスリリングなものにもなる、久我勇作の姿は、ブランクを経ても変わっていませんでした。
対する古橋岳也は、ガードを高く、締めて構えつつ前進、ボディブローを返していく。
パワーでは見劣りするが、防御の堅さでは上。久我の強打を耐え凌ぎ、果敢に打ち返し続け、久我に楽をさせない闘いぶり。
2回、3回も久我が連打。しかし、一発二発はヒットしても、その後は古橋が懸命にガードする。
左ガードはことに意識しているようで、久我の右強打をかなり防いでもいる。
ハイペースで、かつクリンチをよしとしない者同士による、途切れることのない打ち合いが続き、声援自粛を呼びかけられた場内からは、断続的に拍手が沸き起こる。
4回、久我の右アッパー、右クロス迎え撃ちに怯まず、古橋がボディ攻撃。打ち合いの中、古橋が左右フックの連打をヒット。
久我、初めて?自分からクリンチに行く。ダメージあった模様。初めて古橋が取った回。
5回も古橋が手数と攻勢、そして左フックのヒットで取ったように。
途中採点は3対2が二者、4対1が一者で、いずれも久我リード。
久我のパンチ力のぶんだけ優勢、という感じではあるが、内容的にはまだまだわからんぞ、というところ。
6回、久我が左右アッパーを増やす。右アッパー上、左フック下のコンビが良い。
7回も久我の右クロス決まる。古橋左右フックで打ち合うが、カウンター気味のタイミングで久我の右を食う。
8回も久我の右が良いタイミングで入るが、古橋、怯まず打ち返す。
ここまで、継続的にヒットしてきたボディブローをさらに増やし、10発以上連打して前進、さらに攻める。
場内、拍手が鳴り止まない。ことに、手を止めるタイミングがない古橋の攻めに、好打を重ねている久我が後退を強いられる。
この回終了前、それこそラスト5秒くらいか。久我の連打が決まったが、直後に古橋が左フック、続いて右クロスを打ち返す。
これがヒットして久我、止まる。ここでゴング。
このダメージがどれほどのものか、見た感じでは測りかねたのですが...。
9回、開始から古橋が出る。インサイドからボディ、顔面へ連打し、久我が一歩下がったのを追うような右ストレート。
久我が、糸の切れた人形のように真下に崩れかけ、踏ん張ろうとしたがコーナーの方によろけていく。
即座にレフェリーストップがかかって、TKOとなりました。
勝敗については、もう、紙一重のものだったと言えるでしょう。
試合後の古橋は、勝者とは思えない疲弊した様子で、セコンドが椅子を出す前に、コーナーに座り込んでしまうほどでした。
毎ラウンド、開始前に両手を広げて天を見上げるポーズをとっていた古橋は、何ごとかメンタル面での指導でも受けていたのでしょうか。
詳しいことは分かりませんが、久我の強打に耐え抜き、懸命に攻めて、好機を逃さず、終盤に勝負をして倒しきった闘いぶりは、その「心の構え」あればこそ、と認めざるを得ません。
強打を再三再四決め、それでも倒しきれずに逆襲を受け「決壊」してしまった久我は、試合後、古橋の右手を掲げて、新王者を祝福していました。
当然、結果は残念でしょうが、今の自分自身を全て出し切った結果、というところでしょうか。
敗れてもなお、その強打と攻撃力が提供するスリルには、蠱惑的な魅力があったと思います。
それにしても、まるで昭和の後楽園ホール、伝説的に語られる激闘の令和版、というような試合でした。
両者とも、激しく打ち合いながらもクリンチは僅か。
クリーンかつ激しい打ち合いが終始続き、これぞプロボクシング、という、それこそ昭和的な感慨を持ちました。
その上で、新型コロナに揺れる令和の時代ならばこそ、これほどの試合になったのでは、という気もします。
様々な苦境、不条理とも言える形でリングから遠ざかった多くのボクサー、その思いを代表するかのような、熱い闘い。
普段なら熱狂の声が渦を巻いていただろう後楽園ホールには、声援の代用としての拍手が鳴り響いていました。
本当に、凄い試合を見せてもらいました。
久我勇作、古橋岳也の両選手に、モニタのこちら側からも、拍手を送りたいと思います。
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ということで、一曲。
the pillows “LITTLE BUSTERS” です。
攻撃力で解決出来る試合かと序盤は思いましたが、久我の手応え以上に古橋がタフで、粘って、弱りませんでしたね。古橋、ダメージは心配ですが、打たれている反面、防御についてもかなう限り堅く構えていたのも確かで、それでなければ勝てなかったでしょうね。小國、和氣戦は、このご時世でもあるし「日本タイトル挑戦者決定戦」と銘打ってやれば良い、と思います。さすれば注目度もアップするだろうと。
この試合を境に打たれ脆くならないかと心配ですが、もしまだまだ行けるなら、小國さんとワケさんの勝者ともやって欲しいです。