緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

2023年太田キシュ道子ピアノリサイタルを聴く

2023-08-18 22:50:52 | ピアノ
今日(8月18日)、東京渋谷区のタカギクラヴィア松濤サロンで、太田キシュ道子さんの「大作曲家の遺言」と題するピアノリサイタルを聴きに行ってきた。

太田キシュさんのコンサートを初めて聴いたのが2017年6月、千葉市美浜文化ホールで聴いたときであったが、間近で聴くピアノの生の音のあまりにも美しい音に感動して以来、コロナで来日できなかった年を除いて毎年、リサイタルを聴かせてもらっているのである。
今年は6月4日にも美浜文化ホールでリサイタルがあったのだが、この日は母校マンドリンクラブ55周年記念演奏会の東京合奏練習会があったため、聴きにいくことはできなかった。

タカギクラヴィア松濤サロンは渋谷から京王井の頭線で1つ目の神泉という駅から歩いて5分くらいのところにあった。
恐らく初めて神泉というところに行ったのであるが、東京の中心部なのにやたら急な坂の多い、住宅やら飲食店やらホテルなどが密集する不思議な感じのするところであった。
1時間前に着いて、夕食をどこかで食べようと思ったが駅前には高そうな店しかないので、ちょっと歩いて道玄坂まで出て松屋を見つけたので、そこで焼き肉定食を食べることにした。

しかし今日は猛暑だ。夥しい量の汗が全身からしたたり落ちる。
タカギクラヴィア松濤サロンに着いたのは開演15分前。
50席ほどの小さなホールだが、この小さなホールだからこそ、ピアノの本当の美しい音をすぐ間近で堪能出来るのである。
太田キシュさんが小さなホールにこだわっているのは、恐らくであるが、聴く人にピアノの本物の音の素晴らしさを近くで聴いて欲しいという気持ちがあるからではないかと思う。
そしてこのピアノの本物の、しかもドイツ仕込みのヨーロッパ音楽の本場で長い間研鑽を積んで来た太田さんならではの音を聴くために毎年、この時を楽しみにしているのである。

さて、今日のプログラムは以下のとおり。

シューマン:3つの幻想小曲集 Op.111
ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番 Op.111
ショパン:ノクターン第15番 Op.55-1
ショパン:3つのマズルカ Op/59
ショパン:幻想曲 Op.49
ショパン:バラード第4番 Op.52

ベートーヴェンのピアノソナタ第32番は日本での彼女のコンサートで演奏する曲としては初めてではないかと思う。
ベートーヴェンのピアノソナタの中でも最後の曲であるが、ベートーヴェンが最晩年に自らの生き様を振り返ったときに生まれた音楽ではないかと思う。
それは苦悩に満ちた人生であり、その苦悩を超越して得られた悟りの境地、苦悩を乗り越えたものだけが到達しうる至福の極みを音楽で表現したものに他ならない。
そのような崇高な要素を持つ完成度の極めて高いこの曲を音楽的にも技巧的にもハイレベルで演奏することは極めて困難な作業であろう。
今日の太田さんの演奏はレパートリーにして間もないということもあるのか、私としてはまだ求める域に達していないと感じたが、それでもほぼノーミスでこの難曲を弾き切ったことは素晴らしいことである。今後、この曲を是非、深めてまた再演してくれることを期待したい。

休憩をはさんで2部のプログラムはショパンオンリーの曲目。
今日の演奏会を聴いた感じたのは、太田キシュさんが最も得意としている作曲家はショパンではないか、ということだった。
この2部の演奏は彼女の本領が存分に発揮されたどれもが素晴らしい演奏だった。
とくに圧巻だったのは、幻想曲 Op.49。
今までも何度かこの曲を彼女のリサイタルで聴いたが、今夜の演奏が最も素晴らしかった。
大袈裟でなく、聴いていて本当に鳥肌が立った。
しかしよくここまでピアノという楽器から最大限の音を引き出せるものだ。しかも技巧も完璧な状態で。
特に低音はどんな強弱レベルでも、重厚な、それもその層の重なりがその時々で変化する音を聴かせてくれるのである。多分、私が毎年、太田キシュさんのリサイタルを聴きにいくのは、この生の、再生装置からでは絶対に得られないこの独特の重厚で多層的な低音を聴きたいがためではないかと思ったのである。
そう、ピアノであろうとギターであろうと、楽器から最大限に引き出された魅力ある本物の音を聴きたければ、今日のような小ホールに足を運ぶということなのだ。
今日のような演奏の音を聴くと、再生装置、それも加工されたり、別物に幾重にも変換されてアウトプットされた音での演奏に対する、あれこれ評論することの無意味さを実感するに違いない。

今日、このリサイタルに聴きに行って本当に良かった。
また来年も6月に来日しリサイタルを開くようだ。
今日のアンケートで、弾いて欲しい曲として、ベートーヴェンのピアノソナタ第1番、8番、23番、31番、シューベルトのピアノソナタ第21番、フォーレの夜想曲第13番を書かせてもらった。あと、後から気が付いたが、リストのピアノソナタロ短調も聴いてみたい。

コンサート終演後に話をする機会もあったが、消え入るように会場を後にした。
道玄坂まで戻り、大きな酒屋を見つけて、そこで「菊姫」という日本酒を買って家で飲むことにした。
明日はゆっくりできるが、多分ギター三昧だな。





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