車のワイパーのアームが経年の錆でひどい状態になってきたので、塗装することにした。
古い車に乗っていた方なら分かると思うが、車のボディ等に付いた錆は、塗料をはがし、完全に錆を除去しないと、いくらその上に塗料を塗り重ねても錆が拡大し、上に塗った塗料を押し上げてしまうのである。
錆がひどくなると鉄部の内部まで進行しているからグラインダーなどで相当削らなければならない。しかし削ると板厚が薄くなってしまう。
そこで今回は、錆を削り取らなくても錆の上にそのまま塗布することが出来、かつ2度と錆が発生しないという、優れものの塗料を使った
この塗料の名前をPOR-15という。
最初、ポル15と呼ぶのかと思っていたが、正式名称はピー・オー・アール15というらしい。
POR-15との出会いは今から15年くらい前だろうか。
当時今乗っている車の前の車、これも小型の4輪駆動車だったのだが、1981年(昭和56年)製のその当時ではもうめずらしくなっていた2サイクルエンジンを搭載した車体の軽い車であった。
2サイクルエンジンというと、昔の軽トラックに使われ、スクーターなどに使うCCISという消費型エンジンオイルを使うのである。このエンジンオイルを燃やして出てくる排気ガスのにおいと、バイクのようなエンジン音が独特で、気に入っていた。
しかしこの車、何せ古いので故障が多かった。買った当日に早くも故障した。中古車として購入し、販売店から乗って帰る途中でエンジンが止まってしまったのである。原因はガソリンタンク内の錆をキャブレターが吸ってしまって、ジェットと呼ばれる針穴ほどの穴が先に空いた管を塞いでしまったのである。
いつ走っている最中にエンジンが止まってしまうのではないかという恐怖と戦いながら、通勤を始め、毎日この車を運転した。
この恐怖の車でフェリーを利用して、帰省のために北海道まで行ったことがあった。北海道内をこの車で2泊3日くらい旅をしたが、中山峠という長い峠道を登った時にはエンジンが壊れてしまうのではないかと冷や汗をかいた。
この車、錆はガソリンタンクだけではなかった。
ある日、この車に乗っていたら、アクセルを踏んでいる足先に何か冷たいものがポタポタ当たるのを感じたのである。雨降りだったので雨漏りであることは間違いなかったが、どこから漏っているのかなかなか発見できなかった。
その後しばらくして雨漏りの原因はフロントガラスの枠にはめ込まれているゴムが経年劣化で硬化し、隙間から雨が入り込み、下に垂れていたことが分かった。
さすがに足がびしょびしょになるのは不愉快だったので、考えた挙句、「バスコック」という風呂場で使う目止め材を買ってきて、これを窓枠に沿って塗って隙間を埋めたのである。これで雨漏りはしなくなった。
しかし災難はこれだけではなかった。
先の雨漏りで運転席と助手席の足元がびしゃびしゃになったのだが、足元にしいてあったカバーをある時剥がしてみたら唖然とした。床の金属部に硬いゴムのようなものが付いていたのだが、そのゴムが蜘蛛の巣のようにひび割れており、そのひび割れたゴムを取り除いていくと信じられないことに地面が見えるではないか、何と床に穴が空いていたのある。
雨漏りの雨がそのカバーと床との間に乾燥せずそのまま滞留し続けて、鉄板を腐らせてしまったのである。
とにかくこのままではまずいので、このひび割れた硬いゴムを撤去し、鉄板に付いた錆を完全に除去し、空いた穴はパテで埋めて再塗装しようと考えた。
はじめ錆を除去するために錆転換剤のスプレーを使ったが、錆を完全に除去するこは出来なかった。
何かいい錆止め塗料がないかと色々調べたら、POR-15という塗料が非常に優れているという情報を得た。
そして東急ハンズでこの塗料を入手し、運転席と助手席の床面の腐食部分だけでなく、ほぼ全域を塗りまくった。
穴の空いた部分は、初めは普通のパテ、次に金属パテなど色々なパテで試したり、銅や真鍮の金網を当てがってパテを盛ったりしたが上手くいかず、最終的にはFRPの繊維の入った補修用の布をエポキシ系の強力な接着剤で貼り付け穴を埋め、その上を確かFRP繊維入りのパテを盛って固定した。
最後にその上を2種類の塗料を塗り重ねてこの作業は完了した。休日を利用して少しずつ試行錯誤を重ねながらやったので、2か月以上を要した。
これ以外にもこの車はとんでもない補修を余儀なくされる事態になったことがあったが、これについて別の機会に述べたいと思う。
結局この車はキャブレターがいかれてしまって、走行中にまたエンジンが止まってしまうなどトラブルが起きたたため、手放し、現在の車に至る。
(下の写真が前の車に付いていた、いかれたキャブレター)
今の車のワイパー・アームの錆を補修するために、15年前に使ったPOR-15を東急ハンズに買いに行ったら売っていなかった。そこでインターネットで購入した。
色はブラック、シルバー、クリアー(透明)の3色のみで、今回はブラックを選んだ(前回はクリアー)。
今日の夕方、暑さが和らいだのを見計らって作業に着手した。
3本入りの筆を100円ショップで購入し、一番太いものを使う。缶のふたを開けようとタガネでこじったが、なかなか開かない。ふたの淵が変形してやっと開いた。
取説を読むと、誤って飲んだら死ぬという。恐ろしい塗料だ。東急ハンズに売っていなかったのはこのためかもしれない。
塗料は別の容器に移し替えなさいと書いてあるが忘れた。車の荷台を物色したら、運よく空のスプレー缶のふたがあったので、これを利用することにした。
10CC程このふたに入れて、ワイパー・アームに筆で慎重に塗る。マスキング・テープも忘れてしまったので、垂れないように下に紙を添える。
摺動部は塗らないように気を付ける。塗ってしまったら、塗料が固まって動かなくなってしまうからだ。
元の缶のふたはすぐに閉めなければならない。開けたままだと塗料が硬化してしまうからだ。
ふたをするとき、サランラップをふたの下に敷いて閉めないと2度と開かなくなるそうだ。サランラップは忘れなかった。
ついでに全面、錆だらけだったフォグランプと、ボディの亀裂の入った部分に塗る。ボディの色と変わってしまうが、気にしない。
(塗料を塗る前の状態)
(塗料塗布後)
30分程で作業は終わった。
このPOR-15は錆の上から直接塗れるところがいい。ものぐさな私にはピッタリの塗料だ。
錆も付いていないツルツルの鋼板に塗ってもすぐ剥がれるようだ。
取説には、「硬化後は他に類を見ない耐衝撃性、耐水性、耐薬品性を持つ、高硬度、無気孔の塗膜が形成され、同時に、温度変化による金属の伸縮に十分に対応する柔軟性をも兼ね備えているので、長期にわたり錆の発生を防ぐ」と書いてある。
手に少しこの塗料が付いてしまったが、1週間は取れないそうだ。
今の車は昔の車に比べて鋼板の防錆(ぼうせい)力は格段に進歩している。昔の車は錆との闘いだったのである。
※危険な塗料なので、この記事を読んで使用を考える方は十分に注意してください。