チェコのギター奏者でパリコンの優勝歴のあるウラジミール・ミクルカのライブ録音を見つけた。
曲目はあのソルの練習曲で優れた名曲でもある「Op.6-11ホ短調」だ。
ミクルカは1990年代にBISというレーベルからシュテファン・ラックの録音を出したが、この録音の出来は非常によく、彼の最盛期の演奏と思われる。
しかしその後は目立った録音が続いていないようだ。
強靭な音とテクニック、楽器から芯のある音をあまねく引き出す能力は昨今のギタリストには見られない。
彼のレコードやCDはかなり入手したのであるが、現在は新譜も無く(現在73歳)、さらに聴くとなると中古のレコードなどをこつこつと探していくしか、Youtubeの劣化した投稿を聴くしかない。
彼のような実力者がクラシックギターファンの中でも忘れられた存在になりつつあるのはちょっと残念だ。
しかしラックやコシュキンなどの作曲家の曲を開拓し、録音した功績は大きい。
スペインものやバリオスなどの曲ではなく、現代音楽作曲家の曲をもっと取り上げていけばクラシックギター界において異色の存在として注目されたかもしれないし、狭いクラシックギター音楽界を拡げることも出来たかもしれない。
バルタサール・ベニーテスにしてもユッカ・サビヨキにしても渡辺範彦にしても、物凄い実力者なのにレパートリーが拡大していかなかった。
ミクルカの弾く練習曲Op.6-11はセゴビア編に基づいていると思われる。
次のような箇所はセゴビアが音を改変したことでわかる。
上の譜面はイエペス編であるが、イエペスも6弦時代、10弦時代の両方の録音は上の譜面通りに弾いておらず、セゴビア編で弾いていることは興味深い。
ミクルカの演奏で注目すべき点は、55小節目から56小節目にかけてrallentandoで弾いていることだ。
セゴビア編もイエペス編もデ・ラ・マーサ編もこの55~56小節目にはrallentandoの記載はない。
しかし原典版(Tecla社の初稿譜)にはこの箇所にrallentandoが記載されているとのことだ。
ミクルカはこの曲の原典版を確認したのだろうか。
ソルの練習曲は編集者により音や速度などがかなり改変されているから注意が必要だ。
あとミクルカの演奏で素晴らしいと感じるのは、最後の部分、イエペス編では②弦で奏される箇所だ。
セゴビア編など普及している楽譜ではこの部分の旋律が軽くアルペジオのように聴こえてしまうのは避けられない。
しかしミクルカの演奏はこの旋律を巧みに浮きだたせている。
ミクルカはこの曲の旋律の殆どをアポヤンドで弾いていると思われる。
これはイエペスの指定と同じだ(イエペスの6弦時代の録音は超名演)。
このミクルカのライブ録音は今まで多数聴いてきたこの曲の中で、イエペスの録音とともに最上位に挙げられると思っている。
この曲はバリオスの「最後のトレモロ」とともに、人間心理の「陰」と「陽」をシンプルな構成でありながら純度の高い表現で実現した、ギター曲の名曲中の名曲である。
F.Sor: Study in E minor Op.6 No.11
蛇足だが、以前録音した私の録音も下に挙げておくことにした。(楽器はいつものではなく、表面板が松のペンペン楽器)。
2021年11月13日の録音(ペンペン楽器にて)
曲目はあのソルの練習曲で優れた名曲でもある「Op.6-11ホ短調」だ。
ミクルカは1990年代にBISというレーベルからシュテファン・ラックの録音を出したが、この録音の出来は非常によく、彼の最盛期の演奏と思われる。
しかしその後は目立った録音が続いていないようだ。
強靭な音とテクニック、楽器から芯のある音をあまねく引き出す能力は昨今のギタリストには見られない。
彼のレコードやCDはかなり入手したのであるが、現在は新譜も無く(現在73歳)、さらに聴くとなると中古のレコードなどをこつこつと探していくしか、Youtubeの劣化した投稿を聴くしかない。
彼のような実力者がクラシックギターファンの中でも忘れられた存在になりつつあるのはちょっと残念だ。
しかしラックやコシュキンなどの作曲家の曲を開拓し、録音した功績は大きい。
スペインものやバリオスなどの曲ではなく、現代音楽作曲家の曲をもっと取り上げていけばクラシックギター界において異色の存在として注目されたかもしれないし、狭いクラシックギター音楽界を拡げることも出来たかもしれない。
バルタサール・ベニーテスにしてもユッカ・サビヨキにしても渡辺範彦にしても、物凄い実力者なのにレパートリーが拡大していかなかった。
ミクルカの弾く練習曲Op.6-11はセゴビア編に基づいていると思われる。
次のような箇所はセゴビアが音を改変したことでわかる。
上の譜面はイエペス編であるが、イエペスも6弦時代、10弦時代の両方の録音は上の譜面通りに弾いておらず、セゴビア編で弾いていることは興味深い。
ミクルカの演奏で注目すべき点は、55小節目から56小節目にかけてrallentandoで弾いていることだ。
セゴビア編もイエペス編もデ・ラ・マーサ編もこの55~56小節目にはrallentandoの記載はない。
しかし原典版(Tecla社の初稿譜)にはこの箇所にrallentandoが記載されているとのことだ。
ミクルカはこの曲の原典版を確認したのだろうか。
ソルの練習曲は編集者により音や速度などがかなり改変されているから注意が必要だ。
あとミクルカの演奏で素晴らしいと感じるのは、最後の部分、イエペス編では②弦で奏される箇所だ。
セゴビア編など普及している楽譜ではこの部分の旋律が軽くアルペジオのように聴こえてしまうのは避けられない。
しかしミクルカの演奏はこの旋律を巧みに浮きだたせている。
ミクルカはこの曲の旋律の殆どをアポヤンドで弾いていると思われる。
これはイエペスの指定と同じだ(イエペスの6弦時代の録音は超名演)。
このミクルカのライブ録音は今まで多数聴いてきたこの曲の中で、イエペスの録音とともに最上位に挙げられると思っている。
この曲はバリオスの「最後のトレモロ」とともに、人間心理の「陰」と「陽」をシンプルな構成でありながら純度の高い表現で実現した、ギター曲の名曲中の名曲である。
F.Sor: Study in E minor Op.6 No.11
蛇足だが、以前録音した私の録音も下に挙げておくことにした。(楽器はいつものではなく、表面板が松のペンペン楽器)。
2021年11月13日の録音(ペンペン楽器にて)
お問合せのソルの練習曲ですが、Op.6-11ホ短調です。
前半のホ短調と後半のホ長調の曲想の対比が見事な名曲だと思います。
同様の曲想のギター曲としては、バリオスの「最後のトレモロ」があります。
(ベートーヴェンのピアノソナタ第32番とか第27番も2楽章形式ですが同じように感じますね。)
別件ですが、緑陽ギターさんは、このブログを無料でやっておられますか?それとも有料でやっておられますか?読んでくれた方とやり取りできる形式ですと、有料になりますか?また、書いた、原稿は印刷するとか何らかの方法で保存されていますか。これからもこのブログを続けて下さるよう希望しています。
ソルのこの練習曲Op6-11、聴いた感じでは易しそうですが結構難しい曲ですね。私も手が小さいので左手の押さえで難しい箇所は苦心させられます。
おっしゃるように、ソルの曲って意外にベートーヴェンに影響されているのかもしれません。ともに同じ時代に生きた方ですし、「ソルはギターのベートーヴェン」と言うたとえは、あながち的外れではないと思います。
ブログですが、無料で提供されるものを使用しています。コメントのやり取りも無料です。原稿はとくに保存していません。
最近なかなか時間がとれず更新の頻度が減ってしまいました。
内容も薄いものが多くなったように思います。昔の記事を読むと自分で言うのもなんですが結構熟考して書いていたんだなと思うときがあります。
しかし、しゃべるよりも書く方が好きな人間なので、多分死ぬまで投稿を続けるのではないかと思っています。
>返信ありがとうございました。私が今習っているギターの先生は、ギターの前にピアノをやっていました。タレガはショパンの影響を受けていると、おっしゃっています。私も、口頭で話すより、文章を書く方が好きです。文章の方が、専門的な込み入ったことを表現するのに向いていると思います。緑陽さんのブログは毎回楽しみにしております。