こんにちは。
2月ももう終わりだと言うのに真冬のような寒い1日でした。
でももうすぐ春がやってきます。
さて今日はブラジルの生んだ大作曲家であるエイトル・ヴィラ・ロボス(Heitor
Villa Lobos 1887-1959)が作曲した、ギターのための12の練習曲の第1番の
運指について考えてみたい。
この12の練習曲の第1番を初めて聴いたのがギターを始めて間もない頃の中学
2年生の時です。
初めて買ったクラシック・ギターのレコードにその曲が録音されていました。演奏
者はナルシソ・イエペス。まだ6弦ギターを弾いていたときの録音で、1950年代
の終わりから1960年代の初め頃の録音だと思われます。
この演奏を聴いたときの衝撃は凄かったですね。複雑なアルペジオ(分散和音)を
信じられないようなスピードで弾いているだけでなく、中間部から和音が徐々に下降
していく部分では②弦のタッチを強烈に強調するだけでなく、こだまのように響か
せていました。私の兄はこのこだまの部分は電気処理している、と言っていたが
それは明らかに間違い。youtubeで10弦ギターでこの曲を弾いたイエペスのライブ
が見られますが、レコードと同じ弾き方をしています。
イエペスは10弦ギターに持ち替えてから12の練習曲全てを録音したが、第1番
の演奏は6弦時代の方が微妙に早い上に迫力があります。
とにかくこのイエペス以上の速さで弾ける演奏家はいないのでは。この練習曲第1番
を聴いてから、エレキギターでロックの速弾きを自慢していたクラスの連中の言う事
が幼稚に思えるようになった。クラシック・ギターこそがギターの中でテクニックが
最も難しいジャンルなのだと確信した。
中学生だったその当時、私はこの曲が弾きたくて楽譜が欲しかったのですが、札幌
まで出かけて、YAMAHAセンターに置いてあった輸入楽譜を何度も見に行きました。
当時の値段で2,900円。買えなかったですね。
この楽譜、私の記憶では白い粗末な表紙に濃い青の字で標題等が印刷してありました。
多くの人がその楽譜を買わずに見るだけだったようで、表紙をめくる所が黒ずんで
いましたね。
その後大学1年生になってやっと楽譜を買えるようになり、YAMAHAに行き、そ
の欲しかった楽譜を買いにいきましたが、売り切れていました。
がっかりしましたが、札幌のかさはらギター店(現在はありません)に行き、マックス
エシッグ社の輸入楽譜をとうとう手に入れました。
この楽譜、中学生の時にYAMAHAで見た楽譜とは違いました。店の人にこの楽譜
本当に本物ですか、と聞いたら、ヴィラ・ロボスの楽譜は全てこのマックス・エシ
ッグ社のものしかない、と言われました。
ではYMAHAで見たあの楽譜はどこの出版社だったのだろうか。表紙も違うし、
中の譜面の書き方も違っていました。海賊版だったのだろうか。そういえば評論家の
濱田滋郎氏もヴィラ・ロボスの楽譜の海賊版を手に入れたと現代ギター誌に書いて
いたのを見たことがある。
確かドレミ楽譜出版社から出ていたギター曲集、グレードA,B,Cの中で80
年代初めに出版されていたものには、マックス・エシッグ社とは別の版で12の
練習曲の中の1番と11番が掲載されていた。この曲集は実家に置いてあるので
版元を確認できないが、マックス・エシッグ社が版権を独占していた中でも違う
版があった可能性があります。
最近ではギタリストのフレデリック・ジガンテが運指付きの12の練習曲集を出した
ので、マックス・エシッグ社の版権が切れたのかもしれない。
さて、この第1番の難所は、中間部の分散和音が下降しきってから再び上昇して直ぐに
始まる下降スラーのパッセージです。ここは運指の取りかたで弾きやすさが全然違って
きます。
その運指も弾き手によって様々であり、これがベストというものはないようです。
マックス・エシッグ社の譜面では7フレットでの押さえを経由して12フレットから
下降スラーが始まるように記載されています。アンドレス・セゴヴィアのライブ演奏
の映像を見ても、原譜どおりに弾いていることが分かります。
私が始めてこの曲を練習した頃、楽譜に運指が皆無と言っていいほど書かれていなかっ
たので、試行錯誤しながら自己流で運指を決めていました。当時は近くに教室など
なく、頼るものはNHKギター教室や現代ギター誌、教本しかありませんでした。
しかし大学時代に現代ギターの臨時増刊でヴィラ・ロボスの特集が出版され、その
本に部分的に掲載された運指が参考になりました。独習者にとっては大変ありがたい
ことでした。
自己流の運指のあとはこの運指で弾きました。でもこの運指、12フレット上の左
指がちょっときついのと、②弦上での移動距離が長いので、なんとなく弾きにくい
ものでした。
次に試したのは、96年に現代ギターが再びヴィラ・ロボスを特集した臨時増刊号
に掲載されていた運指。
この運指も12フレット上での左指が中指と薬指を使用しているので弾くずらく、
長続きしませんでした。④弦上での移動距離も長いので、ミスしやすいものでした。
その後、下のような変わった運指も試しましたがどうもしっくりこない。
そこで色々考えて、
・同一弦上での移動距離をできるだけ短くする。
・スラーは人差し指(1)と中指(2)の交互で統一する。
・12フレット上での左指の押さえが窮屈または不自然にならないようにする。
・スラーを復弦で行うような安易なことはしない(確かアルバロ・ピエッリがして
いたかな)。
以上の4点を満たす運指を施行錯誤を繰り返して自分に最もしっくりくる運指となった
のが下の譜面です。
今のところこの運指で落ち着いています。
ヴィラ・ロボスの練習曲は運指を考える機会をたくさん与えてくれる優れた練習曲
集だと感じざるを得ません。
【追記】
2011年8月に録音した音源を参考に貼り付けておきます。
ヴィラ・ロボスの練習曲第1番 2011年8月18日 北海道の実家にて(使用楽器:山野輝慈1972年)
2月ももう終わりだと言うのに真冬のような寒い1日でした。
でももうすぐ春がやってきます。
さて今日はブラジルの生んだ大作曲家であるエイトル・ヴィラ・ロボス(Heitor
Villa Lobos 1887-1959)が作曲した、ギターのための12の練習曲の第1番の
運指について考えてみたい。
この12の練習曲の第1番を初めて聴いたのがギターを始めて間もない頃の中学
2年生の時です。
初めて買ったクラシック・ギターのレコードにその曲が録音されていました。演奏
者はナルシソ・イエペス。まだ6弦ギターを弾いていたときの録音で、1950年代
の終わりから1960年代の初め頃の録音だと思われます。
この演奏を聴いたときの衝撃は凄かったですね。複雑なアルペジオ(分散和音)を
信じられないようなスピードで弾いているだけでなく、中間部から和音が徐々に下降
していく部分では②弦のタッチを強烈に強調するだけでなく、こだまのように響か
せていました。私の兄はこのこだまの部分は電気処理している、と言っていたが
それは明らかに間違い。youtubeで10弦ギターでこの曲を弾いたイエペスのライブ
が見られますが、レコードと同じ弾き方をしています。
イエペスは10弦ギターに持ち替えてから12の練習曲全てを録音したが、第1番
の演奏は6弦時代の方が微妙に早い上に迫力があります。
とにかくこのイエペス以上の速さで弾ける演奏家はいないのでは。この練習曲第1番
を聴いてから、エレキギターでロックの速弾きを自慢していたクラスの連中の言う事
が幼稚に思えるようになった。クラシック・ギターこそがギターの中でテクニックが
最も難しいジャンルなのだと確信した。
中学生だったその当時、私はこの曲が弾きたくて楽譜が欲しかったのですが、札幌
まで出かけて、YAMAHAセンターに置いてあった輸入楽譜を何度も見に行きました。
当時の値段で2,900円。買えなかったですね。
この楽譜、私の記憶では白い粗末な表紙に濃い青の字で標題等が印刷してありました。
多くの人がその楽譜を買わずに見るだけだったようで、表紙をめくる所が黒ずんで
いましたね。
その後大学1年生になってやっと楽譜を買えるようになり、YAMAHAに行き、そ
の欲しかった楽譜を買いにいきましたが、売り切れていました。
がっかりしましたが、札幌のかさはらギター店(現在はありません)に行き、マックス
エシッグ社の輸入楽譜をとうとう手に入れました。
この楽譜、中学生の時にYAMAHAで見た楽譜とは違いました。店の人にこの楽譜
本当に本物ですか、と聞いたら、ヴィラ・ロボスの楽譜は全てこのマックス・エシ
ッグ社のものしかない、と言われました。
ではYMAHAで見たあの楽譜はどこの出版社だったのだろうか。表紙も違うし、
中の譜面の書き方も違っていました。海賊版だったのだろうか。そういえば評論家の
濱田滋郎氏もヴィラ・ロボスの楽譜の海賊版を手に入れたと現代ギター誌に書いて
いたのを見たことがある。
確かドレミ楽譜出版社から出ていたギター曲集、グレードA,B,Cの中で80
年代初めに出版されていたものには、マックス・エシッグ社とは別の版で12の
練習曲の中の1番と11番が掲載されていた。この曲集は実家に置いてあるので
版元を確認できないが、マックス・エシッグ社が版権を独占していた中でも違う
版があった可能性があります。
最近ではギタリストのフレデリック・ジガンテが運指付きの12の練習曲集を出した
ので、マックス・エシッグ社の版権が切れたのかもしれない。
さて、この第1番の難所は、中間部の分散和音が下降しきってから再び上昇して直ぐに
始まる下降スラーのパッセージです。ここは運指の取りかたで弾きやすさが全然違って
きます。
その運指も弾き手によって様々であり、これがベストというものはないようです。
マックス・エシッグ社の譜面では7フレットでの押さえを経由して12フレットから
下降スラーが始まるように記載されています。アンドレス・セゴヴィアのライブ演奏
の映像を見ても、原譜どおりに弾いていることが分かります。
私が始めてこの曲を練習した頃、楽譜に運指が皆無と言っていいほど書かれていなかっ
たので、試行錯誤しながら自己流で運指を決めていました。当時は近くに教室など
なく、頼るものはNHKギター教室や現代ギター誌、教本しかありませんでした。
しかし大学時代に現代ギターの臨時増刊でヴィラ・ロボスの特集が出版され、その
本に部分的に掲載された運指が参考になりました。独習者にとっては大変ありがたい
ことでした。
自己流の運指のあとはこの運指で弾きました。でもこの運指、12フレット上の左
指がちょっときついのと、②弦上での移動距離が長いので、なんとなく弾きにくい
ものでした。
次に試したのは、96年に現代ギターが再びヴィラ・ロボスを特集した臨時増刊号
に掲載されていた運指。
この運指も12フレット上での左指が中指と薬指を使用しているので弾くずらく、
長続きしませんでした。④弦上での移動距離も長いので、ミスしやすいものでした。
その後、下のような変わった運指も試しましたがどうもしっくりこない。
そこで色々考えて、
・同一弦上での移動距離をできるだけ短くする。
・スラーは人差し指(1)と中指(2)の交互で統一する。
・12フレット上での左指の押さえが窮屈または不自然にならないようにする。
・スラーを復弦で行うような安易なことはしない(確かアルバロ・ピエッリがして
いたかな)。
以上の4点を満たす運指を施行錯誤を繰り返して自分に最もしっくりくる運指となった
のが下の譜面です。
今のところこの運指で落ち着いています。
ヴィラ・ロボスの練習曲は運指を考える機会をたくさん与えてくれる優れた練習曲
集だと感じざるを得ません。
【追記】
2011年8月に録音した音源を参考に貼り付けておきます。
ヴィラ・ロボスの練習曲第1番 2011年8月18日 北海道の実家にて(使用楽器:山野輝慈1972年)