緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ギタリスト兼作曲家 シュテファン・ラックのギター曲について

2011-11-27 18:37:28 | ギター
こんばんは。
暖かく天気のいい日が続いています。
このブログを初めてから半年ほどになりますが、自分が今まで出合った音楽で
印象に残る曲、感動する曲はできるだけ伝えていきたいと考えています。
皆が知っている名曲でも感動する曲であればそれでもよいのですが、できれば
あまり知られていないけど、すごくいい曲や隠れた名曲などを紹介していきたい。
そのことで何か役に立ってもらえればと思っています。

さて今回は、ギタリスト兼作曲家であるシュテファン・ラックのギター曲を紹介
したいと思います。
ラック(Stepan Rak)は1945年チェコスロバキア生まれと言われています。
ラックの曲は同じチェコのギタリストであり、ラックより5歳年下のウラジミー
ル・ミクルカによって広く知られるようになりました。
1970年代終わりにミクルカにより「クレンピルの主題と変奏曲」が録音され、
楽譜は全音のギターピースから出版されました。
下の写真はクレンピルの主題と変奏曲が録音されたミクルカがまだ20代のころ
のレコードと全音の楽譜です。





このレコードが出たころはラックはこのクレンピルの曲(オリジナルはラック
の作曲ではなくクレンピルというチェコ人の曲)しか知られていなかったし、
この曲の旋律そのものは彼自身の作曲によるものでなかったのですが、1980
年代になってから彼自身のオリジナル曲がどんどん作曲され、また楽譜も出版
されていきました。

私がクレンピルの次に聴いたのが「ロマンス」という曲です。この曲の短調の
部分はものすごく美しい曲です。始め兄が聴いていたのですが、すごくいい曲
だというので聴いてみたらそのとおりでした。録音はウラジミール・ミクルカ
によるもので超名演です。ミクルカ独特の力強いタッチが素晴らしい。楽器は
1979年製のフレタで弾いています。



この録音を聴いてから、早速楽譜を買いに行き弾いてみました。
下の写真はロマンスの楽譜ですが今は絶版のようで、近年GSPから出版された
ラックの曲集の中に収められているので楽譜は手に入れることができます。





楽譜にコーヒーかな? しみをつけてしまいました。

この曲の短調の部分はすごくロマンティックでいい曲なのですが、転調して
ホ長調になると曲想はがらりと変わります。私はこの転調してからがあまり好き
ではありません。ホ短調の受ける感じとあまりにもかけ離れているからです。
後で述べる「プラハの想い出」のホ長調のような感じで転調して欲しかったです
ね。この「ロマンス」があまり録音等で取り上げられないのはこの辺に理由が
あるのかもしれません。

この「ロマンス」と同じく比較的親しみやすく、ロマンティックな曲想で、技巧
的にも難しくない曲として「プラハの想い出」があります。
ホ短調で途中ホ長調に転調するアルペジオの曲で、少し禁じられた遊びの愛の
ロマンスと似た感じがします。この曲もいい曲です。



弾き語りの曲で、楽譜には所どころチェコ語による文が挿入されています。
youtubeに中年の頃のラックがこの曲を弾き語りで演奏する映像があったはずで
す。
下の写真はラックの自作自演CDです。この録音でのプラハの想い出は弾き語り
ではなく、ギター演奏のみです。1988年の録音です。CDのジャケットに
ヤマハのギターを弾くラックの姿が写っていました。
演奏は3弦トレモロ(トリプルトレモロ?)の部分がすごく情熱的です。
ラックのように演奏に全てのエネルギーを注ぐような弾き手はなかなかいない
ですね。現代のギタリストにとっては彼の演奏は大いに参考になるのではない
でしょうか。





ラックのこの「プラハの想い出」の他に良く演奏される曲として「ルネッサンス
の誘惑(Temptation of Renaissance)」があります。



古典的な雰囲気を持つ曲ですが、わかりやすく親しみやすい曲であることや、
テンポを早くすることで、技巧的なアピールのできる曲ということで彼の曲の
中では人気があるようです。
ラックの曲の中では他にも古典的な曲想と技法を持つ曲があります。古典を
随分勉強したのではないでしょうか。その点、ラックと同じくギタリスト兼
作曲家であるキューバのレオ・ブローウェルとも共通していると思います。

ラックの曲はこのように親しみやすい曲もあるのですが、10分以上の長い曲
のなかには彼独特の個性が現れる難曲があります。
まず「The Sun」という曲があります。恐らくラックが太陽がまだ昇らない時
に外に出ていて、太陽が昇っていく姿を見てその時に感じた心象を曲にしたに
違いありません。



それはどんな太陽? 燦然と輝く明るい太陽? 私はラックが見たのは灰色
の空に丸く写る朱色の太陽ではないかと感じています。どこか寂しい感じの
する太陽。
冒頭のハーモニックスのアルペジオで太陽が次第に昇っていく様を表現して
いますが、所々に哀愁が漂うフレーズが挿入されています。
そして中間部でラスゲアードのような早いアルペジオが続き、それが強烈な
ラスゲアードに変わり、だんだんと力と速度を落としていきます。
そしてその次のフレーズが何ともやるせない哀愁に満ちた気持ちを感じさせ
ます。哀しいのですが、単純な哀しさではなく、人生や人間の影の部分、
過去に自分に起きた不幸なことをふと感じて、どうすることもできない無力
感を感じているような寂しさを感じます。
ラックは太陽を見ながら何を感じたのでしょうか。



「The Sun」以外の大曲として、個性的な曲に「深淵からの声(Voces de
Profundis)」があります。



この曲の副題に「Inspired by the film Psycho(映画「サイコ」に霊感を
得て?)とあります(訳がちょっと怪しいが)。
ギターの特殊技法をあまねく用いて、人間心理の深層を表現しようとした
力作だと思います。
上の写真はスプーンを使って特殊な音を出す部分の譜面の一部です。

下の写真は「The Sun」と「深淵からの声」の楽譜の表紙です。
デザインがちょっと異様な感じがしますね。



下のCDはミクルカが1988年にラックの曲だけを集めて録音したものです。
「深淵からの声」はこのCDに収められています。



しかし不思議なことにこのCDの曲は、先の1988年に録音されたラックの
自作自演集の曲と1曲も重複していません。
この2枚のCDの曲以外にもラックの曲はたくさんあります。

ラックの曲は現代音楽とも性質が異なり、彼独特の彼にしか表現できない世界
を感じさせてくれます。
特殊技法を用いた曲は初めて聴いたとき、抵抗があるかもしれませんが、
何回も聴いてみることを薦めます。それでも抵抗があるのならばラックの曲
が自分に合わないのかもしれませんが、ラックの曲からは色々なことを
学ぶことはできると思います。


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第54回東京国際ギターコンクールを聴いた

2011-11-20 23:20:45 | ギター
こんばんは。
今日は年1回開催される東京国際ギターコンクールを聴きに、東京大手町
の日経ホールまで行ってきました。
東京国際ギターコンクールは故小原安正氏が創設したコンクールで、最初
は国内のみの小規模なものであったようですが、現在は世界各国からレベル
の高い奏者が集まる、まさにハイレベルな国際コンクールにまでなりました。
一昨年まで上野の東京文化会館小ホールで開催されていましたが、昨年から
日経ホールに変更されました。しかし来年はまた東京文化会館に戻るようで
す。
日経ホールは周りに店がないし、地下鉄の駅から離れている上に、乗り換え
にも時間がかかりかなり不便です。
本選の演奏が終わり、審査結果に1時間かかるとアナウンスがあったので
外にでて、そばを食べにいって、1時間後にもどったらもう審査結果の
発表が終わっていました。








震災の影響で外国からの参加者が少ないのではと心配されていたようですが、
意外に外国からの参加者も多く、今日の本選は6名中外国人は4名でした。

本選に出場した6名は以下のとおり。

①Andrey Parfinovich(ロシア)
②小暮浩史(日本)
③Oegmundur Thor Johannesson(アイスランド)
④Florian Larousse(フランス)
⑤Andres Campanario(スペイン)
⑥藤元高輝(日本)

審査員は次の11名。(三善晃、野田暉行、稲垣稔氏は欠席。)

①草薙 嵯峨子(ヴァイオリニスト)
②堤 俊作(指揮者)
③霧生トシ子(ピアニスト)
④濱田滋郎(音楽評論家)
⑤野坂操壽(箏奏者)
⑥池田卓夫(評論家)
⑦福田進一(ギタリスト)
⑧小原聖子(ギタリスト)
⑨鈴木一郎(ギタリスト)
⑩荘村清志(ギタリスト)
⑪兼古隆雄(ギタリスト)

いつもは作曲家の野田暉行氏が審査委員長を務めるのであるが、今年は
欠席。また作曲家の三善晃氏は毎年顔を出さない。
審査員の約半数がギタリストです。



審査結果は、
1位:⑥藤元高輝(日本)
2位:④Florian Larousse(フランス)
3位:②小暮浩史(日本)
4位:①Andrey Parfinovich(ロシア)
5位:③Oegmundur Thor Johannesson(アイスランド)

6位がいないのは、⑤Andres Campanario(スペイン)が演奏時間になって
も現れず、棄権とされたため。

私の審査予想は、
1位:⑥藤元高輝(日本)
2位:④Florian Larousse(フランス)
3位:①Andrey Parfinovich(ロシア)
4位:②小暮浩史(日本)
5位:③Oegmundur Thor Johannesson(アイスランド)

私の評価は、
1位:④Florian Larousse(フランス)
2位:①Andrey Parfinovich(ロシア)
3位:⑥藤元高輝(日本)
4位:②小暮浩史(日本)
5位:③Oegmundur Thor Johannesson(アイスランド)

下記に本選審査員の採点表を示します。(採点は増沢方式)



次に私が聴いた感想を。
まず一番素晴らしい演奏だと感じたのは、④Florian Larousse(フランス)
です。
残念なのは1曲目の弾き始めからしばらくして、極度の緊張からかフレーズ
をど忘れしてしまい、曲の最初から弾きなおしたことである。このような
ことは東京国際では見たことがありません。この弾き直しが採点にどのく
らい影響したかわかりませんが、もしこれが無ければ恐らく優勝だったので
はないか。1位の合計得点が259点、2位が254点なので僅差である。

私はこの弾き直しがあっても、優勝してもいいほどの演奏であったと感じて
いる。
音楽表現、音の響かせ方、音量、技巧、どれをとっても群を抜いていた。
このFlorian Larousseは過去に、ドイツ・コブレンツ国際ギターコンクール
やGFA国際ギターコンクールで優勝しており、かなりの実力の持ち主で
あることがわかる。
とくに、課題曲の武満徹作曲「エキノクス」は他の奏者も弾く同じ曲であり
ながら、全く違って聴こえた。いろんな表現、多彩な音、高い集中力を感じる
ことができた。
自由曲のダンジェロ作曲「2つのリディア旋法の歌」も前奏者と重なったが、
全く違った音楽に聴こえた。
古典の難曲であるレゴンディの「序奏とカプリス」も超絶技巧の中に音楽的
表現を入れるほどのレベルの高い演奏であった。
並の奏者であれば、超絶技巧のパッセージは弾くだけで精一杯であるはずだ。

久しぶりにコンクールで音楽を聴かせてもらったという感じがしました。
次に、①Andrey Parfinovich(ロシア)であるが、1曲目のバッハ作曲「プ
レリュード、アレグロ BWV998より」のプレリュードは、途中テンポが走って
しまう部分があり、これはいただけないと思った。
過去にもバッハのリュート組曲第2番のプレリュードの最後の部分を速く
弾いたり、リュート組曲第4番のプレリュードのある特定部分のみを遅くし
たりしていた奏者がいたが、かなりのマイナス評価になっていると思われる。
実際、審査員の後ろの席に座って審査員を観察していたが、審査員がこの
テンポのくずれる部分を聴いて不愉快な表情を見せていたのをみたことが
ある。
しかし、自由曲のアグアド作曲「序奏とロンド」は適切なテンポで、テクニック
も素晴らしく、それ以上に音楽的表現が良かった。この曲はスペインギター
音楽コンクールでも数多く聴いてきて、技巧的にほぼ完璧な演奏もみてきた
が、今日のこの奏者の演奏が一番聴き応えがあった。
ロドリーゴの「ソナタ・ジョコーサ」の演奏もリズム感があり、いい演奏だと
思ったが、この奏者の楽器の高音の鳴りが悪く、全体的に高音が硬く、響き
が足りないので、それがマイナス評価に繋がったのではないかと思う。
もっと響きのいい楽器を使えば審査員の評価も変わってきていたと思う。
コンクールは楽器の選択も重要だと感じさせられる。
このロシアの奏者は4位であったが、2位を付けた審査員が2人いた。鈴木一郎
氏と兼古隆雄氏である。

2位のフランスの奏者に1位を付けた審査員は、野坂操壽、堤 俊作、霧生トシ子、
兼古隆雄の各氏である。
このフランスの奏者は1988年生まれというから未だ20代前半である。
しかし見た感じと演奏から受けた感じでは30歳以上に感じた。

1位の藤元高輝氏の演奏は音に芯があり、殆ど破綻のない力演であったが、
私が受けた感じでは少し音楽表現がもの足りない感じがした。2位のフランス
の奏者と同じ自由曲となったレゴンディの曲では、フランスの奏者のほうが
音楽表現においては数段上だったと思う。
しかし藤元高輝氏もまだ若い奏者であり、人生経験を積み重ねることにより
きっともっと良い表現ができる奏者になれると思う。
この東京国際ギターコンクールでの優勝を糧に今後の精進を願っています。

因みに第2次予選の審査結果は以下のとおり。



同じ奏者で審査員により10点くらいの開きがあるのが結構ありました。
やはり審査員の感じ方により、評価に大きく差がでるものであることを改めて
認識した。
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ギター練習曲の名曲 F.ソル作曲 Op6-11

2011-11-20 00:27:24 | ギター
こんばんは。
今日は1日中雨降りでした。だんだん寒くなってきましたね。
今年初めてストーブを点けました。
今日は雨降りということもあって1日中家にいました。
明日は楽しみにしていた東京国際ギターコンクールの本選があり、聴きに
いきます。
今日はクラシックギターの練習曲の名曲の話をしたいと思います。
クラシックギターの練習曲集としては、中級レベルのものとして最も有名
なのはカルカッシが作曲した「25の練習曲 Op.60」があります。
下の写真はミゲル・リョベートが運指を付け、伊藤翁介が解説を施した
楽譜です。



マテオ・カルカッシは19世紀に活躍した作曲家兼ギタリストで、カル
カッシギター教則本(Op.59)やこの25曲の練習曲が有名です。
それ以外にディオニシオ・アグアドやナポレオン・コストといった作曲家
の練習曲がありますが、何といってもスペインの作曲家でフランスに没した
フェルナンド・ソルの練習曲が最も豊富であり、また音楽的にも技巧面に
においても優れた内容を持っています。

このフェルナンド・ソルの練習曲の中から有益なものを選び出し、練習曲
集として編集したギタリストとしてアンドレス・セゴビアとナルシソ・イ
エペスが有名です。
特にセゴビアが編集した20のソルの練習曲集はギターを勉強する者に
とってはバイブルともともいえる教材であり、長い間、今でも中級から上級
にかけてのレベルにあたる練習曲集として絶対的な存在であると言えるで
しょう。



一方イエペスは独自の理論的解釈から運指を付けた24曲からなる練習曲
集を編集し、出版しました。



イエペスの運指はセゴビアのものとはかなり異なっていますすが、しかし
大変合理的で音楽的な熟慮の結果にもとづいて付けたと考えられるもので
あり、大変勉強になります。
セゴビア編だけを学んだ方は是非このイエペス編も弾いてみて下さい。

このソルの練習曲のなかで私が最も好きなのは、Op6-11 ホ短調です。
三連譜のアルペジオからなる短いシンプルな曲ですが、ものすごくいい曲
です。
この曲を初めて聴いたのは、ギターを始めてまだまもない中学2年生の頃
で、ナルシソ・イエペスのレコードを初めて買って聴いたときです。
イエペスの演奏するこの曲を聴いて、素朴で短く、簡素な曲でありながら、
すごく深いものを秘めていると思うようになりました。




ソルはこの曲を作曲した時にどんな人生を歩んでいたのだろう。またどんな
気持ちを味わっていたのだろう、と思います。
この曲を聴くとソルという人物は、生まれながらにして音楽的感覚に鋭かっ
たこともあるが、それだけでなく苦しいことや人生のどん底、絶頂感、幸福、
安らぎ、これ以上ないという喜びなど、あらゆる経験と感情を味わってきた
のではないかと思う。
このOp6-11を聴くとソルの人生の縮図を感じます。特にホ長調に転調
してからが素晴らしい。このホ短調とホ長調の対比がすごい。
この曲は非常に簡素であり、虚飾が全く無く、無駄な音など1音もない。
しかし1音1音の意味するものは非常に深いものを感じさせられます。
下の写真はホ短調の冒頭部とホ長調の最後の部分です(セゴビア編)。





特にホ長調の最後の部分は何ともいえない、何というか、長いトンネルをやっ
と抜け出してつかんだ幸福感、やすらぎ、といったものを感じさせます。

ところで、セゴビアもイエペスもソルの原典の音を少し変更している部分
があります。
下の写真は6小節目ですが、原典の1拍目と4拍目の低音はファ#ですが、
セゴビア編は1拍目がミ、4拍目がドに変更しています。イエペスは1拍目
が原典と同じファ#ですが、4拍目はセゴビアと同じドにしています。写真は
イエペス編です。



しかし面白いことにイエペスは6弦時代の録音も10弦になってからの録音
も両方ともセゴビア編と同じで弾いています。
これと同じようなパターンで33小節目の4拍目の低音をセゴビア編はミ
♭を付けていますが、この音は原典には無く、イエペス編にもありません。
しかしイエペスは先と同じように6弦時代も10弦時代の録音もセゴビア
編と同じに弾いています。
イエペスは若い頃セゴビア編をベースにして独自の運指を取り入れてこの
曲を練習していたのではないかと思う。
それは60小節目の1拍目低音をセゴビア編の初期の楽譜ではラ音となって
おり、イエペスの6弦時代の録音もこの部分をラ音で弾いているからです。
その後セゴビア編はこの音を原典のド#に直しましたが、イエペスの10弦
になってからの録音は原典どおりド#で弾いています。



イエペスの10弦ギターの録音(1967年)は、6弦時代の録音に比べ
ゆったりとしたテンポで、丁寧な名演とも呼べるものですが、私は6弦時代
の演奏が好きです。6弦の演奏の方がソルの心情をそのままに表現している
と感じられるからです。
イエペスの6弦時代の録音で、ホ長調の最後の部分のメロディを②弦のみで
演奏していますが、この部分の表現が凄いです。
セゴビア編はこの部分のメロディを①弦と②弦を指定していますが、この
部分に秘められたソルの心情を表現するにはイエペス編のほう優れていると
思います。
恐らくイエペスはソルのこの部分の気持ちを表現するために、どの運指に
したら出来るのか考え抜いたに違いありません。

下の写真は10弦時代のイエペスの録音とセゴビアの録音のCDです。





この練習曲を聴いてから35年以上になりますが、本当に何度聴いても深く
感動させられます。
ギターを聴く方も聴かないかたも是非聴いて欲しい名曲です。
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グラナドス作曲 「詩的ワルツ集」の名演について

2011-11-13 21:33:48 | ピアノ
こんばんは。
今日も前回に引き続きピアノ曲を紹介したいと思います。
ピアノ曲の中でもクラシックギターに何らかの関連のある曲です。
スペインのピアノ作曲家で最も有名なのは、イサーク・アルベニスとエンリケ・
グラナドスです。2人とも19世紀の後半に活躍した国民学派の作曲家で、
スペインの民族性を素材とした曲、特にピアノ曲が数多く作曲されました。
そして彼等のピアノ曲がクラシックギターに編曲されています。
有名なのはアルベニスのグラナダやアストゥリアスや、グラナドスのスペイン
舞曲第5番、第10番などですね。

ところでこのグラナドスのピアノ曲の中で「詩的ワルツ集」という曲がありま
す。7つの短いワルツに前奏と終曲を加えた9曲からなる珠玉の大変美しい
曲で、私の最も好きなピアノ曲の1つです。

この詩的ワルツ集のピアノの名演は何といっても、スペインが生んだ偉大な
女流ピアニストであるアリシア・デ・ラローチャの演奏に他なりません。
スペイン音楽研究家の濱田滋郎氏によれば、アリシア・デ・ラローチャはグラ
ナドスの直弟子にピアノを習ったということである。またラローチャの母や
伯母がグラナドスに直接ピアノを習っていたということであるから、グラナ
ドスの音楽を一番身近に知ることができる環境で育ったと思われるのです。

ラローチャの詩的ワルツ集の録音は、彼女が44歳の時の1967年(写真
上)と71歳の時の1994年(写真下)があります。





これ以外にもあるかもしれませんが、詩的ワルツ集の録音で、私の手持ちのCD
はこの2枚だけです。

1967年の演奏は若いときだけあってエネルギーに満ち溢れ、力強いものです。
初めて詩的ワルツ集の録音を聴くのであれば、この1967年盤をお勧めします。

1994年の演奏は70歳を超えた時であり、さすがに音に力がありませんが、
丁寧に弾いています。ただ私の聴いた感じでは、もっと円熟した鋭い音、感性、
表現力が欲しいです。少し物足りない感じがします。パワーが無くてもそれを
十分補う何かが。



同じく70歳を超えてフォーレのピアノ曲全集を録音したフランスのピアニスト
であるジャン・ユボーも、その演奏を聴くと音に力が無くなっていますが、曲に
よっては円熟した表現力を感じさせるものがあります。でも正直いってせめて
50代くらいで全集を録音して欲しかったですね。恐らくその年代は凄い演奏
だったに違いないと思うからです。

横道にそれましたが、この詩的ワルツ集もクラシックギターに編曲されています。
古くはジョン・ウィリアムスが若いときに第1、3、4番を録音しています。
そして1982年にセゴビア、イエペス亡き後の巨匠であるジュリアン・ブリー
ムが2番と7番を除き録音しました。
その演奏は超名演です。ブリームが最盛期のときの録音で、ヴィラ・ロボスの12
の練習曲、ブラジル民謡組曲の録音と並んで私の最も好きな録音の1つです。



最初の前奏の出だしからもうその演奏に引き込まれてしまいます。これほどギター
の表現力を最大限に発揮した演奏があるでしょうか。ブリームの演奏を聴くと
ブリームの人間性、ギターを弾くことにこの上なく喜びを感じていること、
クラシックギターという楽器に対する尊厳や敬意、そして演奏を超える深い感情
を感じ取ることができます。是非この録音を聴いて欲しいです。
特に第3番の26小節目からのフレーズ、第5番の35~50小節目、第6番
の全て、は音が心に食い込んできます。

第6番の演奏はすごいです。編曲も素晴らしいですが、この悲しく感傷的な曲
をこれほど見事に弾いている演奏家を聴いたことがありません。インスピレー
ションで弾いているとしか思えないような演奏です。
下は福田進一の編曲によるギター版の譜面です(第6番)



ラローチャには悪いのですが、ジュリアン・ブリームの演奏の方が正直言って
感動します。

因みにこの詩的ワルツ集のギターの編曲は、第3番で6弦をD音に下げて、
第6番から終曲に移る時に今度は6弦をD音からE音に戻すために調弦しなけ
ればならないのですが、ブリームは録音をとぎれさせることなく、この調弦を
音を出すことなく糸巻きを早業で回すだけで行っています。
録音に使用された楽器はスペインのホセ・ルイス・ロマニリョス1973年製
のはずです。
私が大学時代に、兄がこの曲をFMラジオからカセットテープに録音したので
すが、兄が「曲の切れ目で糸巻きを聞こえないくらいの音で回して調弦して
いるようだよ」と言ったのです。
大抵、6弦をD音に下げるとしばらくすると音が上がってしまい、逆に6弦
をDからE音に戻すと音が下がってしまうので、音が安定するまでしばらく調弦
に時間をとらなければならないので、本当か?そんなことできるわけがないだろ、
と言っていた記憶があります。

しかしブリームが1995年に来日し、東京文化会館大ホールで演奏会を開き
私も聴きに行ったのですが、その日のプログラムでこの詩的ワルツ集が演奏され、
確かに曲の切れ目で、全く音を出さずに糸巻きをすごい速さで回して、曲の流れ
を損なわないようにしていました。驚きましたね。こんなことできるのはブリ
ームしかいないのではないか。





ブリーム以外で詩的ワルツ集のギター編曲を録音したギタリストとしてジョン・
ウィリアムスがいますが、1991年に全曲を編曲して録音しました。
しかしこの演奏は私はあまり好きではありません。編曲も好きではありません。
ジョンは1980年代頃から音が変わってしまったんですね。この録音の音も
軽くて薄っぺらくて、高音はキンキンしている時もある。
第7番の音などのっぺらーとしています。
昔のジョンの音は全然違っていた。アグアドやフレタを弾いていた頃のジョンは
打ち付けるような鋭く冴えわたるような音で、聴いていて爽快だった。また時に
ブリームとの2重奏でソルのアンクラージュマンで聴かせてくれたような、暖かく
澄んだ、本当に美しい音も出していた。
楽器はオーストラリアのグレッグ・スモールマンであるがこの楽器を弾くように
なってからあまりジョンの録音を聴かなくなってしまった。



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ロドリーゴのピアノ曲自作自演録音を聴いた

2011-11-12 23:50:10 | ピアノ
こんばんは。
11月も半ばになりましたが、暖かい日が続いていますね。
このところギターや合唱ばかり聴いていて、私の好きなもう一つのピアノ曲
とは疎遠になっていました。
そこで久しぶりにピアノ曲を聴いてみようという気持ちになりました。
ピアノ曲では私はガブリエル=フォーレやフェデリコ=モンポウの曲を聴く
ことが多く、彼らの音楽について以前のブログで紹介したことがありましたが、
今日はスペインの作曲家であるホアキン=ロドリーゴのピアノ曲を聴いて
みました。
ロドリーゴというと多くの方がご存知だと思いますが、有名なギター協奏曲
である「アランフェス協奏曲」を作曲した人です。
特に第2楽章冒頭の美しいメロディーは殆どの人が耳にしたことがあるのでは
ないでしょうか。

下の写真は、第2楽章の冒頭部とカデンツアの最後のラスゲアードの部分の
譜面です。





このアランフェス協奏曲があまりにも有名になりすぎたのか、ロドリーゴの
他の曲、それもギター曲以外は殆ど知られていないと思います。

かなり前ですが、秋葉原の石丸電気でロドリーゴのピアノ曲のCDでロドリ
ーゴ自身が演奏した録音を偶然見つけ、迷わず買いました。
あのロドリーゴがピアノでどんな演奏を聴かせてくれるのかとても興味が
湧きました。



1960年の録音でロドリーゴが60歳手前で演奏したものです。
どうせ作曲家の演奏なんだから、たどたどしい演奏に違いないと、あまり期待
していなかったのですが、聴いてみたらびっくり。ものすごいエネルギッシュ
な演奏でテクニックが完璧なんです。聴く前の予想との落差に驚きました。

ロドリーゴは3歳のときに病気で目を失明し、全く目が見えないにもかかわ
らず作曲家を志し、ギター曲、ピアノ曲、協奏曲を中心に多くの曲を作曲
してきました。
今回聴くピアノ曲の自作自演は演奏家としても超一流であることを感じさせられ
れる名演だと思った。

今回10年以上経過して改めて聴いてみて、印象に残ったのは次の3曲。

①Cuatoro danzas de Espana Ⅳ Fandango del Ventorrillo
 (4つのスペイン舞曲よりⅣ ヴェントリーリョのファンダンゴ)

②Pastoral (パストラル)

③Sonatas de Castilla con Toccata a modo de Pregon
 (カスティーリャのソナタ プレゴン風のトッカータによる)

訳が上手くできないのですが、ご容赦を。

②のパストラルはロドリーゴの作風とは思えない曲。簡素な曲ですが、
暖かく親しみやすい曲です。いい曲ですね。素朴で繊細な感じ。ロドリー
ゴの演奏も気持ちがこもっています。
この曲は演奏会などでもっと弾かれてもよいのでは。

このピアノ曲の自演録音を聴くとロドリーゴという作曲家は、非常に繊細
で叙情的であり、内省的で、感覚的なものを大切にしていることが感じ
られます。
それは目が見えないことにより感性が研ぎ澄まされているからではないか
と思う。
フォーレも晩年に耳が殆ど聞こえなくなり、その頃に作曲されたピアノ
曲、特に夜想曲は異常なほど内省的であり、深い精神性を感じ取ることが
出来ます。

今回このCDを聴いて、ロドリーゴに対する認識を新たにすると共に、彼の
ピアノ曲をもっと聴いてみたいと思うようになった。
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