クラシックギターの教則本はこれまで数多くのものが出版されてきたが、私が使ってきたものの中で、1.取り組み易い、2.本気で取り組めば著しい成果を期待できる、3.独習者でも習得可能な配慮がなされている、といった諸条件を満足するものとして特に印象に残る教本は以下の3冊である。
①現代奏法による「カルカッシ・ギター教則本」阿部保夫著(全音楽譜出版社)
②演奏家を志す人のための「クラシック・ギター教本」1~3巻 鈴木巌著(全音楽譜出版社)
③演奏家のための「ギター基礎技法」鈴木巌著(全音楽譜出版社)
クラシックギター教則本の入門編としてよく知られるカルカッシ・ギター教則本にはこれまでさまざまなものが出版されてきたが、①の阿部保夫著「現代奏法によるカルカッシ・ギター教則本」は半世紀以上の超ロングセラーである。
この教則本がこれだけ長い間、一度も絶版にならず生き残ってきたということは、それなりの理由がある。
この本の特徴は左指のみならず右指の運指を細かく丁寧に付けているところにあり、指使いをどう決めてよいか判断できない初学者が迷うことなく、正しい運指を学んでいけるのはとくに独習者には大変助けとなる。
②の鈴木巌著「演奏家を志す人のためのクラシック・ギター教本」はさらにあらかじめ用意しておくいわゆる「影の運指」についても丁寧に記載、解説しており、これも独習者にとっては大変役に立つ教えであった。
この本も①と同様に超ロングセラーだ。
ギターを始めて6年間くらいまでは、このようなあらかじめ用意された基礎的な土台となる指使いを盲目的に習得する必要はあると思う。
しかしそれをクリヤーした後は、自分で運指を考え決めていく学習方法が望まれる。
それを満たすのが③の鈴木巌著「演奏家のためのギター基礎技法」なのであるが、この本において、読者が自分の頭で運指を考え、決める練習課題はスケール(音階)しかない。
それも十分な学習効果があるのであるが、これに加えて望みたいのは、運指を全く付けていない練習曲を掲載し、その練習曲に読者が自分で考えた運指を施す訓練を目的とした内容を盛り込んで欲しいということだ。
練習曲は可能な限り、著者が作曲したものの方が良いが、古典時代の練習曲でもいい。
とにかく全く白紙の状態から、学習者が知恵を絞って、いろいろと試行錯誤を重ねて考えて運指を決めていくという訓練が、その後演奏会用の曲に取り組むときに非常に役に立ってくれると思う。
演奏会で演奏されるような曲は大抵、作曲者や献呈者の運指が付けられており、演奏者の多くは楽譜に示された運指をそのまま使用することが多いと思うが、必ずしもその運指通りに弾かなければいけないというものではなく、演奏者の音楽解釈や技巧のレベルに応じて運指の付け替えをすることはよくあることだ。
例えば、ファリャ作曲の「讃歌 ドビュッシーの墓」に出てくる下記のフレーズの運指は、譜面に付された運指通りではなく、熟考されたうえであれば開放弦を中心としたローポジションで弾く運指でも構わないのである(数年前の東京国際ギターコンクール本選でこのローポジションでの運指で演奏する参加者を見たことがある)。
ソルの有名な練習曲op.60の4番ハ短調の運指も、ローポジションではなく、ハイポジションを多用した音質重視の運指がある(玖島隆明編、好楽社ピース)。
こういう運指を変更したり、全く運指の付いていない楽譜に対し、自らが考えて合理性と音楽性の両方を満足する運指を付けていくためには、やはりそれを可能とする訓練、学習方法が必要であろう。
巻末か別冊でいくつかのバリエーションでの模範解答を示し、それぞれのバリエーションの運指の元になった考え方を機能面と音楽面の両面からの解説を掲載してあるのが理想だ。
学者者は極力回答をすぐ見ようとせずに、これ以上はもう考えられないまでに考えつくして、運指を決めていくのがベストだ。
こういう「考える」学習方法を盛り込んだ教則本は殆どないように見受けられる。
昔、80年代前半の現代ギター誌で、「運指クイズ」なる連載記事があった。
愛好家が頻繁に取り上げる有名な曲や練習曲などの運指を読者から募って、プロの演奏家が模範解答を示す、という内容であったが、こういうのも面白いし、練習に役立つなと思ったものだ。
あと2つ目は、リズムを正確に取れる能力を鍛える教材を盛り込んでくれることを望みたい。
③の鈴木巌著「演奏家のためのギター基礎技法」には、このリズムを正確に刻めるような能力を身につけるための課題が豊富に掲載されているが、どのようにしたらリズムを正確に刻めるようになるか、拍を正しく数えられるようになれるか、という視点では解説してくれていない。
確かにメトロノームを使って練習していけば、体で覚えていけるようになるのかもしれないが、そうはいってもリズムの取り方にはそれなりのノウハウがあるはずだ。
そのノウハウ、数え方のコツのようなものを教えてくれる教材はギター教則本の中では皆無のように思える。
だけどこれは結構、重要なことではないかと思う。
クラシックギター奏者の中には、リズムに弱い人がたくさんいる。
それはこのような練習、訓練が不足しているためだと思われる。
以前、80年代初めにエジンバラ音楽祭でブリームがM.バークリーの「一楽章のソナタ」という曲を演奏したライブ録音を、楽譜と照らし合わせて聴いたとき、そのリズムの正確さに驚嘆したことがあったが、ブリームはギター以外に音楽の基本を幼い頃から習得していたからこのような演奏が自然に出来ていたのではないかと思う。
以前、パウル・ヒンデミット著「音楽家の基礎練習」(音楽之友社)という本を買って、基礎的なリズム、和声等を勉強しようと思ったけど、出来なかった。
一人では難しい。
今はオンラインで低料金でこういうことを専門に教えてくれる人(音大生?)がいるようなので、今度習ってみようかと思っている。
①現代奏法による「カルカッシ・ギター教則本」阿部保夫著(全音楽譜出版社)
②演奏家を志す人のための「クラシック・ギター教本」1~3巻 鈴木巌著(全音楽譜出版社)
③演奏家のための「ギター基礎技法」鈴木巌著(全音楽譜出版社)
クラシックギター教則本の入門編としてよく知られるカルカッシ・ギター教則本にはこれまでさまざまなものが出版されてきたが、①の阿部保夫著「現代奏法によるカルカッシ・ギター教則本」は半世紀以上の超ロングセラーである。
この教則本がこれだけ長い間、一度も絶版にならず生き残ってきたということは、それなりの理由がある。
この本の特徴は左指のみならず右指の運指を細かく丁寧に付けているところにあり、指使いをどう決めてよいか判断できない初学者が迷うことなく、正しい運指を学んでいけるのはとくに独習者には大変助けとなる。
②の鈴木巌著「演奏家を志す人のためのクラシック・ギター教本」はさらにあらかじめ用意しておくいわゆる「影の運指」についても丁寧に記載、解説しており、これも独習者にとっては大変役に立つ教えであった。
この本も①と同様に超ロングセラーだ。
ギターを始めて6年間くらいまでは、このようなあらかじめ用意された基礎的な土台となる指使いを盲目的に習得する必要はあると思う。
しかしそれをクリヤーした後は、自分で運指を考え決めていく学習方法が望まれる。
それを満たすのが③の鈴木巌著「演奏家のためのギター基礎技法」なのであるが、この本において、読者が自分の頭で運指を考え、決める練習課題はスケール(音階)しかない。
それも十分な学習効果があるのであるが、これに加えて望みたいのは、運指を全く付けていない練習曲を掲載し、その練習曲に読者が自分で考えた運指を施す訓練を目的とした内容を盛り込んで欲しいということだ。
練習曲は可能な限り、著者が作曲したものの方が良いが、古典時代の練習曲でもいい。
とにかく全く白紙の状態から、学習者が知恵を絞って、いろいろと試行錯誤を重ねて考えて運指を決めていくという訓練が、その後演奏会用の曲に取り組むときに非常に役に立ってくれると思う。
演奏会で演奏されるような曲は大抵、作曲者や献呈者の運指が付けられており、演奏者の多くは楽譜に示された運指をそのまま使用することが多いと思うが、必ずしもその運指通りに弾かなければいけないというものではなく、演奏者の音楽解釈や技巧のレベルに応じて運指の付け替えをすることはよくあることだ。
例えば、ファリャ作曲の「讃歌 ドビュッシーの墓」に出てくる下記のフレーズの運指は、譜面に付された運指通りではなく、熟考されたうえであれば開放弦を中心としたローポジションで弾く運指でも構わないのである(数年前の東京国際ギターコンクール本選でこのローポジションでの運指で演奏する参加者を見たことがある)。
ソルの有名な練習曲op.60の4番ハ短調の運指も、ローポジションではなく、ハイポジションを多用した音質重視の運指がある(玖島隆明編、好楽社ピース)。
こういう運指を変更したり、全く運指の付いていない楽譜に対し、自らが考えて合理性と音楽性の両方を満足する運指を付けていくためには、やはりそれを可能とする訓練、学習方法が必要であろう。
巻末か別冊でいくつかのバリエーションでの模範解答を示し、それぞれのバリエーションの運指の元になった考え方を機能面と音楽面の両面からの解説を掲載してあるのが理想だ。
学者者は極力回答をすぐ見ようとせずに、これ以上はもう考えられないまでに考えつくして、運指を決めていくのがベストだ。
こういう「考える」学習方法を盛り込んだ教則本は殆どないように見受けられる。
昔、80年代前半の現代ギター誌で、「運指クイズ」なる連載記事があった。
愛好家が頻繁に取り上げる有名な曲や練習曲などの運指を読者から募って、プロの演奏家が模範解答を示す、という内容であったが、こういうのも面白いし、練習に役立つなと思ったものだ。
あと2つ目は、リズムを正確に取れる能力を鍛える教材を盛り込んでくれることを望みたい。
③の鈴木巌著「演奏家のためのギター基礎技法」には、このリズムを正確に刻めるような能力を身につけるための課題が豊富に掲載されているが、どのようにしたらリズムを正確に刻めるようになるか、拍を正しく数えられるようになれるか、という視点では解説してくれていない。
確かにメトロノームを使って練習していけば、体で覚えていけるようになるのかもしれないが、そうはいってもリズムの取り方にはそれなりのノウハウがあるはずだ。
そのノウハウ、数え方のコツのようなものを教えてくれる教材はギター教則本の中では皆無のように思える。
だけどこれは結構、重要なことではないかと思う。
クラシックギター奏者の中には、リズムに弱い人がたくさんいる。
それはこのような練習、訓練が不足しているためだと思われる。
以前、80年代初めにエジンバラ音楽祭でブリームがM.バークリーの「一楽章のソナタ」という曲を演奏したライブ録音を、楽譜と照らし合わせて聴いたとき、そのリズムの正確さに驚嘆したことがあったが、ブリームはギター以外に音楽の基本を幼い頃から習得していたからこのような演奏が自然に出来ていたのではないかと思う。
以前、パウル・ヒンデミット著「音楽家の基礎練習」(音楽之友社)という本を買って、基礎的なリズム、和声等を勉強しようと思ったけど、出来なかった。
一人では難しい。
今はオンラインで低料金でこういうことを専門に教えてくれる人(音大生?)がいるようなので、今度習ってみようかと思っている。