晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

夏目漱石 『倫敦塔』

2010-01-30 | 日本人作家 な
『倫敦塔』は、表題作としての短編小説で、イギリス留学中に
ロンドンにあるロンドンタワーを見学した漱石が、その歴史に
惹きつけられ、数百年前の国王や、バラ戦争などに想いを馳せて
幻想に包まれてゆく、といった作品。

他にも、エッセイ的なロンドンの博物館を描いた「カーライル博物館」
や、ヨーロッパの歴史古典物語を描いた作品などがあり、どの作品も
全体的に散文寄りかな、と。

しかし、「琴のそら音」や「趣味の遺伝」などは、物語形式となって
いて、とくに「趣味の遺伝」という作品は、ある青年が駅で、日露戦争
の帰還兵を出迎える式典に出くわすところから始まる、物語性を
重視した作品。
そこに、戦争で死んだはずの、仲の良かった先輩の姿があったのです。
しかしそれはうりふたつの男で、青年は先輩を思い出し、墓参りに
出かけます。
すると、そこに妙齢の女性が先輩の墓参りをしています。
なんでも腹を割って話し合った先輩からは、こんな女性の存在など
聞いたこともなく、亡き先輩の御母さんに聞いてみますが、やはり
知らないと言うのです。
そこで青年は、戦地から送られてきた日記を借りることにします。
日記には、郵便局で出会った女性に惹かれてしまい、もし戦地で
死ぬことがあれば、あんなような女性に墓参りしてもらいたいもの
だ、ついては、自分の好きな白菊でもたむけてほしい、と書いて
あったのです。
先輩の墓参りをしていた女性は、白菊をたむけていた・・・

タイトルの「趣味」とは、男女間の相愛関係をさすそうです。
この作品で特筆すべきは、物語の筋も面白いのですが、なんと
いっても漱石のユーモアのセンス。
これは、人物描写を大事にする漱石作品ならではの面白さで、
文章そのもののユーモアではなく、登場人物のユーモアが
頭に容易に思い浮かべられるのです。



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