晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

2010-04-01 | 日本人作家 な
小説において勝ち負けや優劣というものは、なんといっても内容
の面白さで決める以外ないのですが、しかしその内容は、買って
(あるいは借りて)読んでみないとわからないものです。
そこで「これは面白そうだぞ」と思わせる要因は、なんといっても
タイトルと本の装丁でしょうか――○○賞受賞作というハクもあり
ますけどね――。

そういったことをふまえると、『西の魔女が死んだ』というタイトル、
もうこれは勝ち。料理名を聞いただけで美味しそうだと思わせる
ような魅力を持っています。

内容は、幼いころに日本の魅力を聞いたイギリス人女性が日本
にやってきて、日本人男性と結婚、田舎に住みます。
その孫が祖母と田舎の家でひと夏過ごした思い出を、祖母の死
によって回想するといった話です。

孫のまいは、いわゆる不登校児で、しばらく祖母の家で面倒を
見てもらうことになります。
母からは「あの人は本物の魔女」と打ち明けられたことがあり、
母娘は祖母のことを、その家の方角から「西の魔女」と呼んで
います。
とはいっても、ハリーポッターのように人間を動物に変えたり
箒にまたがって浮遊したりといった魔法が使えるおばあちゃん
ではなく、そんなおおっぴらではない魔女としての能力の持ち
主なのです。
まいにもその素質があるかどうかはともかく、魔法を使えるよう
になりたいと思えばなれると祖母はアドバイスします。
しかしその訓練は、早寝早起き、お手伝いをし、よく食べる、と
いった「よい子」であることなのですが・・・

祖母の家の庭には畑があり、小屋で鶏を飼い、山奥に行けば
野いちごを採ってジャムにして、といった「スローライフ」を実践。
その文体と表現から、どことなくイギリスの湖水地方を描いて
いるような感じで、なんとも不思議な世界観です。

都会のカラーはそれぞれ違いますが、田舎の原風景はどこの国
でもそれほどの差異はありません。というのは、多くを求めるより
も、「これでいい」と足るを知る、自然からの恩恵を体と心で受け
取り、人間も大いなる自然のサイクルに仲間入りさせてもらって
いる、それが少なくとも「間違いではない生き方」だという経験則
を持っていることが共通しているからでしょうか。

この物語を読んで、「価値観」という言葉の大切さを知ったような
気がします。大前提として、ひとりひとりが違う価値の見出し方を
持っていて当然であり、他者の価値観に敬意を持つことがいかに
大切なのかを学ばせてもらいました。


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