晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

馳星周 『漂流街』

2010-05-20 | 日本人作家 は
これまで読んだ馳星周作品で、『漂流街』は4作目となるのですが、
「不夜城」、「鎮魂歌~不夜城<2>~」、「夜光虫」いずれも、人間の
奥深くから抉り出したグロテスクをこれでもかと描いて、まあそれは
それはえげつないものなのですが、『漂流街』は、前に読んだ作品を
凌ぐ、メチャメチャのドロドロのグッチョングッチョン。

毎回、読み終わるたびに、見たくないものを見てしまった、知らない
ままでいたかった、と軽い後悔に包まれるのですが、それでも本屋に
行って、未読の作品があると、つい買ってしまうんですね。

ブラジル移民3世のマーリオ。祖父は鹿児島から移住、マーリオと
今は亡き弟にとって祖父は恐怖の存在で、事あるごとに暴力をふるい
ます。
兄弟の母は自殺、父も弟も死に、マーリオは従姉妹をたよりに日本へ
渡ります。しかし、日本語をまともに話せないブラジル人は、ただの
「ガイジン」扱いで、まともな仕事にありつけず、失意のままブラジル
へ戻る仲間も多く、それでも日本に残る日系たちは、たくましく地べた
を這いずるようにして生きています。

マーリオは、デリバリー風俗の送迎係と、客とトラブルになった場合の
用心棒役という仕事。事務所の店長はギャンブル狂で借金まみれ、ヤクザ
からの取立てに怯えます。
マーリオも日系の仲間であるリカルドから金を借りていて、50万円を
返さなくてはならず、風俗嬢の美沙の貯金を借りようとするも断られ、
逆上したマーリオは美沙を殺してしまいます。

死体を始末しなければならず、中国系のマフィアに頼むことに。しかし
それにも金がかかり、にっちもさっちもいかなくなります。
そこで、マーリオを気にかけてくれているケイという風俗嬢の上客で、
関西のヤクザが、近々、大金が動く取引をするらしいという情報をつかみ、
しかもその取引相手が、マーリオが死体を始末するのに頼った中国マフィア。

なんとか中国マフィアの懐に入り込むことに成功するマーリオ。関西ヤクザ
との麻薬取引の金と麻薬両方をなんとかしてぶん取ろうと画策します。

ケイと風俗事務所の店長、そしてケイを知る銃の売人の山田と4人でこの
無謀な計画は進行して・・・

店長の兄は服役中で、ヤクザの組に世話になっていて、ケイはその服役
している男の妻。その組にいる伏見という男にマーリオはなぜか目をつ
けられてしまいます。

マーリオの母の自殺は、じつは祖父が母を陵辱して、弟の死も、マーリオ
がついカッとなり殺してしまった、というもの。マーリオは祖父の汚れた血
を自覚するように、衝動を抑えきれず、同じ南米出身のペルー人を見下して、
彼らの店を襲撃したり、アトランタオリンピックのサッカーでブラジルが日本
に負け、どうしようもない怒りが湧き、喜びに浮かれる日本人たちを襲ったり、
つまり、自分のせいで次々にトラブルを背負い込み、逆ギレして、また新たな
トラブルに見舞われ・・・という状態。

コロンビア人の風俗嬢と、その家に住む盲目の少女とのつかの間の平穏な時間
は、この物語中にある唯一といっていい清涼剤的な役割。
しかし、このふたりも伏見に捕まってしまい・・・

「不夜城」を読んだとき、怖くて歌舞伎町には行けないと思ってしまったのですが、
『漂流街』は、なんというか、東京という町そのものが怖くなってしまいました。
コメント
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