晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ベルナール・ウエルベル 『蟻(アリ)』

2010-05-10 | 海外作家 ア
はじめは、昆虫生物学かなにかの本かと思い、裏表紙を見てみると、
読者からの好評価の反響、さらに各紙誌絶賛の書評もあり、ああ、
これは小説なんだと分かり、読んでみることに。
タイトルどおり、主人公は「アリ」なのですが、著者は幼少の頃から
アリに魅了されていたそうで、その生態の描写は多少のフィクションも
織り交ぜてはいるものの、リアリティある迫力で、読むものをミクロの
世界に誘い、飽きさせません。

フランスのパリで鍵の会社をクビにされたてのジョナサンと妻のルシー、
息子のニコラは、亡くなった伯父エドモンの遺産が手に入り、古いアパ
ートに引っ越すことに。
しかしジョナサンはエドモンのことをあまり憶えておらず、祖母に聞く
と、子供のころからそれは変わり者だったとのこと。
そして、祖母はエドモンからジョナサン宛ての手紙を手渡します。
そこには「何があっても絶対に、地下室には行ってはならない!」
という、たった一行の文章があったのです。

引っ越したアパートには確かに地下室に行く扉があり、伯父のメッセージ
どおり、ジョナサンは自分も家族も誰も地下室に行けないように、封鎖
します。
しかし、飼い犬がある日行方不明になり、封鎖した地下室の扉が少し開いて
いて、犬は地下室に行ってしまったということで、ジョナサンは地下室に下
りてみることに。すると、階段の途中、血まみれになって死んでいる犬が・・・

一方、パリ郊外のフォンテーヌブローの森にある、赤アリの都市“ベル・オ・
カン”での話が、人間界の話と交互に描かれていきます。
ベル・オ・カンはこの地域の六十余ある都市連合最大の「巣」で、その近く
には赤アリの敵である小型アリの都市や、宿敵白アリもいて、さながら戦国
時代の様相。
ベル・オ・カンに住む327号(327番目に親アリから生まれた)は、遠征
の帰り、仲間たちが死んでいるのを発見、それは未知の兵器によるものと考え、
かつて「ケシの丘の戦い」で小型アリとの壮絶な戦争があって以来の、ふたたび
小型アリとの戦争が始まるかもしれないと、急いでベル・オ・カンに戻って報告
するのですが、兵隊アリたちや見張りアリたちは327号の言う事を信用せず、
327号は女王アリに直接報告することに・・・

一体、地下室には何があるのか。ジョナサンは地下室に下りてみることに。
はじめの調査から戻ってきたジョナサンは明らかに様子がおかしく、妻ルシー
は、地下へ下りるのをやめさせようとしますが、ジョナサンはふたたび地下へ。
そして、ジョナサンは戻ってこなくなり、ルシーも夫の安否を確認しに地下へ
行き、また戻ってきません。警察と消防隊もこの部屋の地下室に下りて、その後
上がってくることはありません。
孤児になってしまったニコラは孤児院に預けられてしまいます。

物語は、人間界の地下室にまつわる話、アリの世界の話、そしてジョナサンの
伯父のエドモン・ウエルズが生前書き残した「相対的かつ絶対的知識のエンサイ
クロペディア」の、アリの生態に関する説明、その他、地球の大自然の観察があ
いだあいだに書かれていて、読み進めていくうちに、だんだんと人間界とアリの
世界が混同してきます。

地球が誕生して、陸上に動物が進出して、さいしょの「社会組織」を形成した
のは、アリの祖先である生物で、かれらは弱く、捕食の対象でしかなかったの
ですが、他の昆虫とちがって、たとえばトンボのように羽を持たず、カマキリ
のように武器を持たず、ガのように擬態もせず、生き残る術として「集団で行動
しよう」ということになったのです。

社会組織すなわち「群れ」とは、そこに暮らす仲間たちが幸せに生きることが
基本目的ですが、中には利己的な目的で動くものが現れて、内部崩壊、はては
絶滅となってしまいます。
しかし、過去の間違いを教訓に「社会組織」はさらにより良い暮らしを手に入れ
ようと模索し、少しずつですが前進していると信じたいものです。

コメント
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