晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

垣根涼介 『ワイルド・ソウル』

2010-05-16 | 日本人作家 か
2006年、東京地裁で画期的な判決が出ました。それは、1956年から59年
にかけて、当時、戦後の引き揚げ者で国内人口が急増したことで、政府が
行った「人減らし政策」、いわば棄民政策で、夢のような謳い文句で国民を
中南米へ移住させたことについてです。
しかし、その計画のずさんさはあまりに酷く、ろくすっぽ現地調査も行わず、
「肥沃な大地を無償譲り渡し」とは真っ赤な嘘で、塩の浮き出た荒れた土地
であったり、あるいは未開のジャングルだったのです。
この棄民政策のひとつで、ドミニカ移住があり、前述のとおり、政府の詐欺
行為にあった移住者たちは、ハイチとの国境沿いに入植させられ、まさにそれは
「人間の盾」としての移住でした。

そして、2004年、当時の総理大臣小泉純一郎は、政府の不手際を認め、
2006年、当時の政府の棄民政策は違法とした判決が出て、和解案として、
移住者ひとり当たり最高200万円の「見舞い金」を支払い、現職首相が正式
にドミニカ移住者にたいして「謝罪」することで解決。
しかし、その悪の根源である外務省は、いまだ謝罪をしていません。

『ワイルド・ソウル』は、そんな「棄民政策」に騙されブラジルに渡った日本人
移住者たちが政府に「復讐」をするといった話なのですが、まずプロローグ、
そして物語のはじめに、当時の移住者たちの過酷な状況が描かれます。
譲り渡された土地は、アマゾンの奥地の未開のジャングル。日本人たちはそれ
でも懸命に開墾にいそしみますが、なかには栄養失調死ぬ人もいて、そして
耐え切れずに逃げ出す人も。
衛藤という男も、妻と弟が死に、もう限界とみて、アマゾンから逃げ出すことに。
そして、日本領事館に苦情を訴えようとしますが、けんもほろろの状態。
衛藤は、金鉱で働きはじめるも、強盗に遭い、命からがらふもとの街まで出て、
そこで未来の妻となるブラジル人女性と出会います。
その後、衛藤はサンパウロへ渡り、野菜の市場の仲買として頭角をあらわし、
成功を収めます。

しかし、衛藤には心残りがあったのです。それは、アマゾンの奥地から出るとき
に、いつか必ず戻ってくると約束した他の一家がどうなっているのか。
アマゾンへ船で向かう衛藤。そして、かつて住んでいた場所へ着きますが、そこ
には人はだれもいません。しかし、少年の姿が見え、話しかけると、片言の日本語
は解するらしく、その少年はともに移住してきた野口さんの息子だったのです・・・

ここから話は日本が舞台となり、野口啓一、通称“ケイ”は、同じくブラジル帰り
の山本、そして、ケイが少年時代にジャングルでともに遊び、それから流れ流れて
コロンビアマフィアと関わりを持つことになる松尾、この3人である「計画」の遂行を
企てるのですが・・・

もう、読み始めてから物語にぐいぐいと引き込まれ、スケール感に圧倒されっぱなし。
読み終わってからしばらく、興奮冷めやらぬといった状態でした。
こんなに心震えた日本のアクション&ミステリー作品は、服部真澄の初期作品か、
真保裕一「ホワイトアウト」を読んで以来なのではないでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする