晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『海辺の扉』

2010-05-13 | 日本人作家 ま
個人的に起こった宮本輝マイブーム、これで4冊目の読了となったわけ
でありますが、ここまで読んでみて、たんなるストーリーテラーではなく、
登場人物の描写、機微の巧みさに魅了され、あるテーマを軸に物語が進行
してゆく合間に、警鐘というか、とても「ためになる言葉」がグサッ、グサッ
と心に突き刺さります。

ギリシャに住む日本人、宇野満典。彼は数年前、2歳の息子が食事中にレタス
を食べるのを嫌がり、つい手が出てしまい、それが当たり所が悪く、息子は夭折。
裁判では過失致死となるも、妻は夫を責め、離婚を切り出されます。
その後、逃げるように日本を飛び出し、シンガポールで出会ったギリシャ人女性
エフィーと恋仲になり、満典はエフィーとともにギリシャへ、そしてふたりは
結婚。

エフィーは日本語の勉強をしており、いつか日本で働きたいという夢があり、
今はアテネで日本人観光客のガイドの仕事。満典は、妻に日本企業から依頼さ
れた書類のギリシャ語翻訳の仕事を嘘をつき、じっさいは下っ端の「運び屋」
で日銭を稼いでいるのです。

そんなある日、いつものように「ブツ」の受け渡しのため、美術館に行く満典、
近寄ってきた男と合言葉を交わし、手渡します。しばらくしていると、馬に乗った
少年の像が目に入ります。その少年が、わずか2歳の生涯だった息子に見えた
のです・・・

このまま逃げてばかりの人生をやり直すために、妻エフィーとともに日本へ
帰ろうと満典は決意、運び屋からも足を洗おうとしますが、最後に大仕事を
まかされます。しかし、その大掛かりな運びの仕事は、途中、謎のドイツ人に
妨げられそうになったり、さらにそのドイツ人に大金を渡されたり、そして
これまた謎のアラブ人に脅されたり・・・

ん、これはアクション物語に発展していくのか?と思いきや、これは物語に
おける満典の、人生をやり直すにあたっての試練というか苦しみで、満典は
さまざまなことを考えそして悩みます。

そして、なんだかんだでエフィーを残し、ひとり日本へ戻る満典。
心配していた母、元妻の琴美、そしてかつてお世話になった元職場の上司
などに会い、それまで逃げっぱなしだった人生のリスタートをきろうとします。

人は歩んできた人生の長さだけ過去があり、そしてその過去の中には、いまだ
癒えぬ傷もあったりしますが、すべて清算することが正しいわけではありません。

前を向いて生きることだけが強さではなく、後ろを振り返ることもまた勇気なのだ、
ということを教わった気がします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする