晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『クロスファイア』

2010-03-25 | 日本人作家 ま
以前読んだ、黒武洋の「そして粛清の扉を」という作品の書評で
宮部みゆきが「作家が神になってはいけない」と述べていたこと
が印象強く残り、文中で神のごとく審判を下すのは踏み込んでは
ならない領域ということ。

『クロスファイア』では、ごく平凡なOLが実は念力で相手を焼き
殺すことができる超能力の持ち主で、いとも気軽に他人の命を
奪う傍若無人な若者を、司法の裁きの前に探し出して殺す、と
いうもので、一方的な正義感のもと「悪をくじく」のですが、これが
はたして正義なのか、単なる勧善懲悪で終わってしまわないとこ
ろに、作者が伝えたい部分があるのでは。

東京の下町にある、工場跡地で、縛られた人が複数の男によって
水槽に投げ入れられそうなところを、近所に住む青木淳子が目撃し、
若者をあっというまに念力で焼き殺し、一人は取り逃がしてしまい
ます。
縛られた人を救い出し、瀕死の状態ながら、恋人の安否を気づかい、
そして息を引き取ります。
どうやら、縛られた男は恋人とふたりでいたところを3人組の若者
に襲われ、女性は連れ去られ、男は工場跡で処分されるところだった
のです。淳子はその女性を探そうと、逃げたリーダー格の男を探します。

工場跡地で焼死体が見つかったことで警察が動き、警視庁放火班の
石津ちか子は、数年前に似たような焼死体があったことを思い出します。
それは今回と同様、かなりの高温で焼かれているにもかかわらず、死体
の周囲はどこも焼けていないという奇妙な点。
調べていくうちに、今回の焼死体は若者の不良グループだと判明。
数年前の焼死体も、当時世間を騒がせた連続女性暴行殺人の一味だと
判り、石津は関連性があるとにらみます。

警視庁ではこの件は殺人事件として扱うことになり、放火班の石津は
捜査に参加できず、上司に相談すると、数年前の焼死事件の担当だった
牧原刑事を紹介してもらいます。
そこで牧原は突拍子もないことを石津に話します。それは「念力放火能力」
“パイロキネシス”という超能力で、その持ち主がこの事件を起こしている
のではと、当時捜査会議で言ったところ、変人扱いされたという経験が
あったのです。
そして、今度は別の場所で焼死事件が起こり・・・

牧原の過去に、念力放火能力を信じさせる出来事があり、また物語で重要な
カギとなる女の子と家族もまた、この不思議な力に翻弄されます。

悪事を働きながら捕まらずにのうのうと生きている輩に正義の裁きが
下されるというのは痛快ですが、淳子は、自分の行いは正義だと肯定
しなければならないことに、一抹のやりきれなさを感じます。
正義のためなら何をしても許される世の中ってどうなんですか?という
問いかけに、考えさせられます。


コメント (2)
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