晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

恩田陸 『Q & A』

2009-09-03 | 日本人作家 あ
恩田陸の「夜のピクニック」を読んで、とても面白かったのですが、
それ以降、他の作品を読む機会はありませんでした(それはもう
たんなるこちらの都合ですが)。別に避けていたわけでもないんで
すけど。
そういったわけで『Q&A』を読んだのですが、この作品ははじめか
ら終わりまですべて質問と応答形式になっており、この一対一で
のやりとりは一組だけではなく、さまざまな組み合わせがあり、聞
き手あるいは答える側のどちらかの身分が説明されていない場合
もあったりして謎につつまれたまま別のQ&Aがはじまり、具体的
に描かないぶん、ミステリー度合が増してゆき、煙の中を手探りで
這い歩き、視界のきかない彼方に答えはあるのか、見つけることは
できるのか、真実をすべて知ることは必ず正しいのか、そんな気分
になりました。

東京の郊外にある大型ショッピングセンターで、火災が発生したと
の通報があり、しかし建物からは煙が出ている様子はなく、そのう
ち有毒ガスが撒かれたとの情報も入り、錯綜します。
結果、火災も有毒ガスもなく、しかしこの情報にパニックに陥った店
内にいた客たちは一斉に逃げ、下の階にいた客は上へ、上の階に
いた客は下へエスカレーター付近でごった返し、六十数名の死者を
出したのですが、その全員が人の波による圧死あるいは転落死。
複数の階で不審な人物の目撃情報が多数あったのですが、その不
審者が建物に火をつけたわけでもなく、ガスを撒いたわけでもありま
せん。

この事件の渦中にいて生き残った人物、報道関係者、被害者家族、
傍観者、その他いろいろな人物がこの事件についての思いを述べて
いきます。
犯人のいない事件。原因のわからない大勢の死者を出した事件。
被害者の苦しみ、当事者ではない人たちの心情、これらが淡々と
語られていくことで読者は感情移入しにくくなり、あくまで「傍観者」
という立場でこの話を知ることになります。しかし全貌は分かりません。

こういった形式は別段目新しいものでもないのでしょうが、この作品
ではたして著者は何を伝えたかったのか、そしてなぜこの形式を選
んで書かれたのかと考えると、これは近年のメディアと視聴者との
関係性に近いのではないか、という感じがしました。
送る側と受け取る側の意識の乖離とでもいいましょうか、それは日常
でたまたま隣りあわせた他人に対する意識でもあり、その意識の希薄
さがスマートであるという風潮に対する警鐘なのか。
コメント
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