晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

リチャード・ノース・パタースン 『最後の審判』

2009-09-21 | 海外作家 ハ
作品名がミケランジェロの名画、聖書の黙示録に出てくる教義
ということで、今回のパタースンの小説は法廷サスペンスでは
なく、なにか宗教がかった内容なのかな、と思って背表紙の主
な登場人物を見てみると、著者の前の作品に登場した弁護士、
キャロライン・マスターズの名前があり、しかも裏表紙のあらすじ
を読むかぎりでは、裁判絡みの内容。

しかし、最後まで読むと、キャロラインの下した決断に「審判」
があてられたのかと納得し、前作「子供の眼」や、前々作「罪
の段階」で毅然と法廷論争あるいは冷静な判決を下すキャロ
ラインの過去にこんなことがあったのかと驚きと悲しみが胸を
打ちます。

サンフランシスコの弁護士、キャロライン・マスターズは、合衆
国最高裁判所の判事に任命され、長年の夢が叶うことに喜び
ますが、一本の電話が水をさします。それは、二十年間、会話
はおろか顔もあわせていなかった父親からの電話でした。

二十年ぶりに生まれ故郷のニューハンプシャーに戻り、生家に
着くと、二十年ぶりに異母姉のベティーとその夫ラリーと再会を
果たしますが、再会の喜びはお互いに見せず、事務的に用件の
詳細を訊ねます。ベティーとラリーの一人娘であるブレットが家近
くの湖のほとりで恋人ジェームスを殺害そた容疑で逮捕され拘留
されているのです。

ただちにキャロラインはブレットのもとへ向かい、叔母と姪は初対
面を果たします。ブレットから無罪の釈明を聞きますが、キャロラ
インは彼女が殺害したと確信します。そして、彼女は自分の弁護を
頼みますが、身内の弁護をすることは最高裁判所判事に任命され
るにあたり、印象が悪くなると懸念し、姪の弁護を断ります。
弁護を断った理由には、二十年前、まだこの地に住んでいた頃の
恋人だったジャクソンが今は州検察の検事で、キャロラインがジャ
クソンと再会した時にこの事件について話をするに、どうにも弁護
側に分が悪いということもあるのでした。
なんとか優秀な弁護士をつけてあげると約束し、帰ろうとしますが、
別れぎわに泣くブレットを抱き寄せると、キャロラインは気が変わり
ブレットの弁護をすることに…

二十年前にキャロラインと家族とのあいだに起こった悲劇が今でも
彼女を苦しめ、父親と異母姉夫婦とは冷たい壁を置いています。
はたしてブレットは無罪なのか、ならば真犯人は誰なのか、そして
キャロラインの抱えた過去は清算されるのか…

終始この物語を客観視して読んだ場合、そんなことで殺したのか、
そんなことで二十年も家族と疎遠だったのかと思ってしまうのでし
ょうが、登場人物に自分を投影しやすい構成や文章で、この家族
の一員でしかわからない感情や思いが心に染み入ってくるのです。

良くいえば伝統を守る、悪くいうと閉鎖的というニューイングランド
を極めて中立的に、敬意を持って描いています。じつはそれこそが
この物語の重要な部分であると思いました。
コメント
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