晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

奥田英朗 『サウスバウンド』

2009-09-23 | 日本人作家 あ
奥田英朗の小説は、どことなくラジオのネタハガキを思わせる部分が
あり、この書評でも前に述べたこともあるのですが、随所に笑いどころ
を散りばめ、それに物語的要素を加えて小説化した、といったような、
全体的に飽きさせないように構成させれているような印象を持つので
す。

話の内容は、東京の中野に住む元活動家の父と、それを許容している
母、姉と妹をもつ小学六年生の二郎が、家族や学校の仲間たちとの
日常を描く前半、そして後半は、父の思いつきにも近い突然の沖縄
移住計画から、実際に八重山の島の廃墟を改装して暮らしはじめ、そ
こで巻き起こる騒動を描く後半となっていて、物語は二郎の視点から
語られています。

十二歳という微妙な年齢、大人の自覚が芽生えはじめて、しかし周り
は子供扱い、自身もそれを利用して都合のいいように立場を使いわけ
ていたりして、同級生には、妙に大人びていたり、まだ子供だったり、
あきらかに「背伸び」してつっぱっていたりと、これらを上手に個性とし
て描いていて、そして十二歳から見える大人たちの行動や発言は、
ときに冷静に、ときに皮肉的に分析判断したりして、子供を主人公に
した小説にありがちな、無理やり大人びさせている、というのも無くて、
良くも悪くも子供の純粋さに感情移入させられます。

そして沖縄での生活は、現代人の憧れともいるスローライフを実践する
のですが、電話はない、テレビもない、それどころか電気すらない日常
は何がしか支障をきたすのですが、村の人たちは親切だし、両親は楽
天的で、子供たちも徐々に感化されてゆくさまが面白いです。

この小説は、私見ですが、世の中の「ギャップ」をテーマにしているので
はないか、と思ったのです。国家や社会の不満分子の父と、争いごとは
避ける世間や学校の温度差のギャップ、大人と子供のギャップ、都会と
田舎のギャップ、経済優先と自然保護のギャップ。
正義か悪か、あるいは優劣といった判断は立場によって違うことの相互
の不理解や温度差をコミカルに表現しているように思えます。
これが自然破壊や都会に対するアンチテーゼを匂わせたら、この物語の
コミカルさが失われてしまいます。

「暴走と冷静のギャップ」が最後には崩れてしまう、というオチも、その前
にさまざまなギャップが絡んで最終的にそうなるのね、と納得。
コメント
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