晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

加賀乙彦 『湿原』

2009-09-17 | 日本人作家 か
以前、加賀乙彦の「海霧」という作品を読んだのですが、舞台は
北海道の東部で、主人公の女性心理士の勤める病院がある町
のすぐそばには釧路湿原がひろがり、その茫漠としたさまを印象
深く物語に登場させるのですが、『湿原』でも表題ズバリ、湿原が
やはり関わってきます。

湿原という土地状態は、開拓は困難で、人間からしてみれば、
使い道のない無用な代物。しかしそこには様々な生態系が存在
し、そして湿原自体も四季の移ろいとともにその表情を変えてゆ
き、べつに使い道があろうがなかろうが、ただそこに力強く「存在」
する…
形而上学的に湿原を考えるのか、それともただ作家が湿原に魅せ
られているだけなのか、そういった考察は読んだ個々人の判断に
おまかせします。

おおまかな物語の内容は、時代は学園闘争華やかな昭和40年代、
前科持ちの自動車整備工、雪森厚夫が大学生の女性池端和香子と
出会い、やがてお互いに惹かれあって北海道の厚夫の故郷である
根室近くを旅行したりしますが、東京に戻るとふたりは逮捕されます。
容疑は、新幹線爆破事件で、厚夫は学生運動の過激派セクトの要
望で爆弾を作り、和香子とふたりで新幹線車両内に爆弾を置いて逃
走した、ということ。
まったく身に覚えのない事件の容疑者となった厚夫は警察の執拗で
陰湿な取調べで嘘の自白をしてしまいます。和香子は組織そのもの
に嫌悪を抱いて黙秘を続けます。
過激派セクトの数人も自白をし、裁判の結果、厚夫は死刑、和香子
は無期懲役。
そしてここから控訴審での無罪放免を勝ち取るための法廷サスペン
スといった様相となるのですが、物語は弁護士と厚夫の善側、対す
る検察や警察の悪側の対決をメインストリームにするのではなく、国
家とはなにか、法律とはなにか、そして犯罪とはなにか、といった哲
学を、この無実の死刑囚と、その人を作り上げた権力との対極構図
を用いて読者に問います。

漠然とテーマは何かと考えると「冤罪」、それに付随する司法のあり
方の批判、メディア批判となるのでしょうが、家族の愛の普遍性とい
うテーマもあったりして、まあ一元的に考えなくてもいいんでしょうけど。

そういえば、芸能人が薬物で捕まり、保釈がどうのと連日テレビで
大騒ぎしておりますが、ある番組を見ていたら、レポーターの女性が
「仮釈放となったら大変な騒動が予想されます」と話していました。
その大変な騒動はあなたがたが勝手に作り上げているのだろう、と
思い、彼らの厚顔無恥と間違った正義感に笑ってしまいました。
ぜひとも報道関係者にはこの本を読んでもらいたいものですが、残念
ながら彼らの頭の中には滲み入らないでしょう。
コメント
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