晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

村上龍 『半島を出よ』

2009-08-05 | 日本人作家 ま
表紙は、福岡市の上空から撮った衛星写真、さらに毒々しい
カラフルなカエルが大小いっぱい。まずこの表紙のインパクト
だけで「何かただ事ではない」雰囲気を漂わせています。

内容は、近未来の日本、設定は2011年、日本経済は崩壊
し、アメリカは日本を見捨てて中国との連携を強化。そんな中
北朝鮮の特殊部隊が「反乱軍」を装い日本に上陸。たった9人
のコマンドで福岡ドームを占拠します。数万人を人質にとられた
政府はなすすべもなく、福岡を封鎖します。
さらに北から500人の「反乱軍」が飛行機で上陸、彼らは福岡
を拠点にし、新国家樹立を掲げようとするのです。
政府は福岡を見捨てた格好となり、アメリカにテロだと訴えます
が、アメリカはテロとはみなさず、在日米軍を動かそうとしません。
そして、数日後には10万人規模の「反乱軍」が船で日本に来る
との情報が・・・
やることなすこと後手後手にまわる無策な政府と官僚、もはや
世界での発言力も求心力も失った日本を助けようと動く他国は
なく、このまま九州を切り離すことになるのか。
そんな中、社会から不適合の烙印を押された人たちの集まる
グループが、この「反乱軍」に戦いを挑むのですが・・・

設定や話の筋が、福井晴敏の描く世界観に似ていなくもないの
ですが、福井晴敏作品は息つくひまもないほどグイグイと物語
に引き込まれて、全力疾走をしているような気持ちになるのです
が、「半島を出よ」も、途中途中は迫りくる臨場感で息つかせぬ
ほどですが、適度に疲労を感じてきた頃にインターバルをもうけ、
閑話休題、シリアスな場面にもどります。この緩急のバランスが
絶妙で、全力疾走もそれはそれで心地よい疲労感なのですが、
緊張と弛緩の配合具合が、村上龍クラスの作家の「技術」を感じ
させます。

文中で、ああ、ここが作者が読者に伝えたいことなんだな、という
部分を見つけられますが、けっして力強いアプローチではなく、さり
げなく登場人物によって語られる、押しは強くないですが、それでも
読後に印象的なシーンとして心に残ります。

設定は2011年、あと2年後の日本を描いているのですが、日本
経済の崩壊、それに乗じて北の軍隊が日本を襲撃、九州を占領
といったことが、あながち荒唐無稽な虚構ともいえない、そんなう
っすらと恐怖さえ感じてしまいました。
コメント
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