非国民通信

ノーモア・コイズミ

両方よこせ

2012-12-25 22:57:52 | 雇用・経済

 経済成長は万能薬である、と敢えて掲げてみます。実際のところ、景気の良さは社会制度上の不備を覆い隠すものです。例えば誰もが就職先に困らない世界であれば失業者のための社会保障に不備があっても問題は顕在化しにくい、昔から日本の社会保障は穴だらけでしたが、経済成長が穴を埋めていたが故に貧困や福祉の欠落は現代に比べれば随分とレアなケースで、存在はしていても目立つことが少なかったと言えます。

 私の勤務先の場合に限ったことではないと思いますが、下請け会社と元請け会社の関係なんかでも、発注元から要求される仕事量次第で力関係は大きく揺れ動くようです。案件が少ないときは下請けから「何でも良いから仕事を回してください」と乞われる形になる一方で、逆に発注元から無茶な納期と案件を突きつけられているときには、逆に下請け会社に「スケジュールは厳しいと思いますが、何とか何日までに○○と○○をお願いします」と頭を下げることになったりと(下請けの全面的な協力がないと絶対に納期が間に合いませんので)、とかく問題になりがちな元請けと下請けの関係も景気次第で左右されるわけです。

 日本では「経済成長が格差を拡大させる」みたいな論調が極めて強いですけれど、実際のところはどうなのでしょう。確かに、経済成長と同時に貧富の格差が拡大している国もあります。しかし日本は、むしろ経済衰退と格差拡大が歩みを揃えてきたはずです。少なくとも経済成長を否定すれば格差を縮小できるものではない、その現実は受け入れるべきなのではと思います。

 経済的な豊かさと格差は連動するものではなく、相互に独立して動きうるものです。経済成長か格差是正か、という二者択一は全くのナンセンスで、経済成長と同時に格差を是正するという道もあれば、日本が選んできた経済衰退と格差拡大という道もあるのです。まぁ世界に目を向けても「貧しく格差の大きい国」というのは多いような気がしますね。経済成長と格差是正は共存しうるものですし、逆に片方を選べば片方が損なわれる、もしくは片方を否定すればもう片方を確保できるというものではないわけです。

 この十数年の日本の政治が経済成長を追い求めて失敗を重ねてきたのか、それとも雇用主優位の力関係の構築や格差拡大を意図して成功を続けてきたのか、まぁ解釈はお任せします(とはいえ、これまでの明白な「結果」を見てもなお前者と信じ続ける人は、ちょっと盲目的に過ぎるような……)。ともあれ次期内閣は現行の構造改革路線から金融緩和/財政出動路線へと重心を移す構えで、財界筋や経済系の論者の主張とは裏腹に市場の感触は悪くない様子です。私もまぁ、痛みを伴う何とやらよりは格段に良いと思いますが、構造改革/規制緩和路線に否定的な人でも金融緩和/財政出動路線に良い顔をしない人がいて、じゃぁどうしたらいいのでしょうかね。

 人間の体に例えるならば、経済成長とは体力の増進のようなものです。体力があれば病気への抵抗力も強まる、病気にならなければ薬もいらないで済む、と。反対に社会保障は治療薬に例えられそうです。何かあったときに役に立つ、個別の症例に力を発揮するわけです。そして健康な人に薬を服用させる意味がないように、重病人に体力を付けろと言っても順序が違う、経済成長と社会保障では対応できる範囲が異なります。そこで個別の症例に対応できないことを理由に経済成長を否定的に扱う人が目立つのですが、だから自民党に勝てないんだよ、と率直に思うところです。

 経済成長が止まれば社会保障の財源が不足するだけではなく社会保障を必要とする人が増えるばかり、そこで増税したところで根本的な問題を先送りするだけの話です。経済成長と社会保障は豊かな社会の両輪であって、二者択一のものではありません(現に経済成長と社会保障の両方を投げ出してきたのがこの十数年来の日本だったのですから!)。にもかかわらず、社会保障を軽視して経済成長側に重きを置く政策(人)を批判する中で、経済成長をも否定的に扱う論者が結構いるわけです。社会保障軽視と経済成長軽視のどちらかを選べと迫られたら、社会保障軽視の政党もアリに見えてしまうのですが。

 

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コメント (3)
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