非国民通信

ノーモア・コイズミ

なぜ菅の語る軽減税率は信用できないのか

2010-06-21 22:57:57 | ニュース

軽減税率や還付、前提 消費増税、首相が条件表明(産経新聞)

 菅直人首相は20日、超党派で消費税引き上げをめぐり論議する場合、低所得者の負担を軽減するため、食料品など生活必需品の軽減税率のほか、税の還付が前提条件になるとの考えを表明した。

 首相は東京都町田市などで街頭演説し、社会保障財源の一部を赤字国債で調達しているとした上で「このまま借金を増やして大丈夫かということが問われている」と強調。その上で「消費税の逆進性をなくすため、軽減税率や税の還付をしっかりやることを前提として、野党と大いに議論したい」と述べた。

 菅/民主党の消費税増税プランの中で目新しいところがあるとしたら、この軽減税率になるわけですが、その実現の可能性については大いに疑わしいところがあるように思われます。今日はその軽減税率の実現性と、逆進性緩和は本当に可能かを考えてみましょう。

 たしかに、軽減税率を設けることで消費税の逆進性を緩和させることはできます。ただ、税の還付となると微妙なところがあるはずです。おそらく生活必需品を購入する際に支払った消費税を翌年度以降に還付するというものになると推測されますが、本当にカツカツの日々を過ごしている貧困層からすればどうでしょう? 多少なりとも可処分所得に余裕がある「中の下」辺りより上の人からすれば、「先に多めに消費税を支払わされたとしても、来年になれば戻ってくるから良いか」で済むかも知れません。しかし、本当にギリギリの生活をしている人に対して、「来年になったら還付するから」と多めに税を取り立てるとしたら、これは弱者イジメに他ならないでしょう。「還付」ではなく、消費税支払い分を先に給付するぐらいしないと、消費税による逆進性は緩和できないものなのです。

 民主党の枝野幸男幹事長は20日のNHK番組で「消費税は基本的に社会保障に回す。社会保障財源が10兆円くらい埋まらない部分について、あと5%くらい(増税が)必要だ」と述べ、増税分を社会保障財源に回す考えを表明した。

 この枝野の発言からは、菅/民主党の消費税増税プランがいかに考えの足りないものかがよく見えてくるような気がします。「本当に」消費税増税分を社会保障に回したとして、それでも「10兆円くらい」では現状の社会保障費の「埋まらない」部分を埋めることしかできないわけです。たまに「消費税を増税しても、その分を社会保障に回せば逆進性など発生しない」と言い張る人を見かけますけれど、計画されているのは社会保障を上積みするどころか、現状を維持する程度でしかありません。一人親世帯ともなると、所得再分配の結果として余計に貧しくなるほど逆進性の強い日本の社会保障であるにもかかわらず、それを維持するために消費税というさらなる逆進性を付け加えるとしたら、世界に類のないウルトラ逆進国家のできあがりですね。参考、貧困層をより貧しくする日本の歪んだ所得再配分(東洋経済)

 そもそも、本当に「10兆円くらい」の税収が、枝野の言う「5%くらい」の消費税増税で賄えるのでしょうか。現時点では消費税5%で、9.6兆円の税収があります。消費税増税で消費が冷え込まなかったとして、これを単純に2倍できれば、10兆円程度の税収は見込めるのかも知れません。しかるに菅が言う軽減税率を、本当に逆進性を緩和できる程度に実行したらどうなるでしょう? 以下は各国の消費税率と、税収を示したものです(図表はどちらも財務省のサイトより)。

 まとめると、以下の通りです。

       消費税率  消費税税収
  日本    5.0%  6.9%
 イギリス  17.5% 13.7%
 ドイツ   19.0% 14.2%
 フランス  19.6% 14.6%
スウェーデン 25.0% 17.4%

 軽減税率のない日本では消費税率の1.4倍程度の租税負担率となる一方で、軽減税率を設けている国では消費税率の0.75倍程度の租税負担率にしかなっていないことがわかるはずです。スウェーデンに至っては消費税率が日本の5倍もあるにもかかわらず、消費税の負担は日本の3倍を下回っています。つまり逆進性を緩和するのに十分なだけの軽減税率を設けると、消費税の税収は単純には伸びないわけです。仮に英独仏並みの軽減税率を設け、その上で消費税を10%に上げたとすると、見込まれる消費税税収は7.5%程度にしかならず、従来の6.9%から、0.6%程度しか税収は増えず、これでは財源としては使えません。歳入に換算すれば、「消費税10%-軽減税率」で見込まれる税収増は1兆円以下です。枝野の言う、現状維持に必要な「10兆円くらい」には届かないどころかカスリもしません。それでも本当に10兆円を消費税増税によって捻出する計画だとしたら、それは軽減税率は実質的に放棄することを意味しています。軽減税率は掛け声だけで、逆進性はそのまま、そうやって10兆円の税収を見込み――その分だけ法人税を下げる予定なのでしょう。

 

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コメント (7)
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