非国民通信

ノーモア・コイズミ

低福祉中負担

2009-03-26 22:55:43 | ニュース

失業手当:不受給77%…日本は先進国中最悪の水準(毎日新聞)

 国際労働機関(ILO)は24日、経済危機が雇用に与えた影響についての調査報告書を発表し、失業手当を受給できない失業者の割合が日本は77%で、先進国中最悪の水準にあると指摘した。2番目に悪い水準のカナダと米国(同率の57%)を大きく上回っているとしている。

 他の先進国は、英国40%、フランス18%、ドイツ13%で、日本は受給できない人の割合が際立って多い。

 まぁ日本のセーフティネットだったらこんなものでしょう。平気で嘘を吐く人たちは日本の社会保障を「中福祉中負担」などと語りますが、実態は「低福祉中負担」です(もっとも、これは個人の話であって、雇用主にとっては「低福祉低負担」ですが)。失業保険を受給できない割合は77%、低福祉低負担と伝えられるアメリカをも大きく上回る、先進国中最低最悪の水準なのです。

 日本の場合、失業手当受給に必要な保険料納付期間(1年)の制約のために受給できていない非正規雇用労働者が多いことなどが反映したとみられる。

 非正規労働者が多いのは確かですが、それだけで77%という異常な高率を説明しきることは出来ないようにも思います。この場合も、ある種の自己責任論とでも言うべき「自己都合退職」の濫用を無視は出来ないでしょう。会社が解雇を言い渡したなら、会社都合退職として早期に失業保険が受給できるわけですが、退職を強要されて辞めざるを得なかった場合はあくまで「自己都合退職」であり、3ヶ月の待機期間と手続き期間が待っているわけです(失業保険を受け取るためには「解雇」の方が好都合ですが、さりとて解雇歴があると次の就職の際に不利益になる、それを恐れて労働者側も自主退職を選ぶ等々)。失業保険を受け取れるのは実質4ヶ月後、そこまで凌げれば受給できるものの、4ヶ月も無収入で過ごせるほど余裕のある人はそう多くないはずです。大方の人は、自分を安売りすること、より条件の悪い仕事に就くことを余儀なくされているのではないでしょうか。

 派遣社員の場合も同様、保険料を何年納付していたところで実質的に意味がありません。よほどダメな派遣会社ならいざ知らず、派遣スタッフをちゃんと保険に加入させるような「まともな」派遣会社であれば、雇い止めの際にはすぐ次の仕事を斡旋してくれますから。ところが、これが落とし穴です。往々にして「すぐに斡旋できる仕事」=「条件の劣る仕事」なのです。そして「収入減に繋がるオファーは受けられません」と回答すれば、それはすなわち「本人の意思で仕事を断った」=「自己都合退職」扱いになります。ゆえに4ヶ月の待機期間を凌げるようなゆとりある資産家でもなければ、やはり自分を安売りすること=より条件の悪い仕事でも受けるしかなくなってしまうわけです。この辺は保坂展人氏などは割と積極的に取り上げてくれていますが(参考)、往々にして黙殺されがちなポイントでもあります。

 失業手当を受給していない失業者の人数は、米国630万人、日本210万人、英国80万人、カナダ70万人、仏独がそれぞれ40万人で、人数でも日米が突出している。

 フランスなどを例にして、社会保障費の事業主負担割合が高く、セーフティネットの整っている国では失業率が高いと語る人もいます。あたかも社会保障の充実と雇用機会の増大はトレードオフであるかのように見せかける印象操作ですね。失業率は統計のマジックみたいなところもありますし(例えばネトウヨの論理ですと、在日韓国/朝鮮人は老人も幼児も母数として算入されるため、「在日の半分は働いていない」ということになっている等々。公的機関はそこまで無茶なことはやりませんが、似たようなゴマカシはいくらでもあるわけです)、社会保障よりも景気動向に左右されるところが多いだけに眉唾物ではありますが、それでも敢えて、社会保障の手厚い国は失業率が高いとしましょう。しかし、問題は失業率なのでしょうか?

 日本のように、失業しても失業保険は給付されない、もちろん生活保護は失業保険以下の補足率と、公的なセーフティネットの機能していない国では失業は深刻な危機です。しかし、失業しても失業保険がある、すぐに就職できなくても、就労支援が充実しているため焦らず仕事を探せる、そのような環境では失業はそこまで深刻な問題ではないでしょう。日本のように就業そのものが目的化している社会ならいざ知らず、生活の糧を得る手段として就業が存在する社会なら尚更です。失業しても生活の糧にはそれほど困らないなら、失業は日本における場合ほど深刻な問題ではないはずです。単に失業者が多いのではなく、セーフティネットから漏れた失業者が多いこと、そして失業が脅しに使えるということ自体が日本の社会保障の欠落を雄弁に物語ります。

 そもそも、今回のこれはILOの指摘なんですよね。日本の報道機関や公的機関が調べたことではない。日本社会が、あまり知ろうと思わないデータなのでしょうか。確かに日本だったら、受給できない人の数を数えるより、不正受給者の数を調べ上げる方が好まれそう、読者にも歓迎されそうですしね。問題の重要度や規模の大小なんて誰も考慮しないのです。生活保護を巡る言説はまさにそれですから、失業保険の扱いだって同様なのでしょう。社会保障受給者の増大を貧困の問題として捉えるのではなく、不正の問題として捉えたがる等々、国民が自ら色眼鏡をかけたがるような社会では自浄作用すら期待できませんね。

 

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コメント (8)
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