国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長は5日、クラブチームの試合で外国籍を持つ選手の先発を5人以下に制限する「6+5ルール」を5月末にシドニーで開かれる総会に提案する意向を示した。同会長は「多くの外国選手と契約すると、クラブは次第に個性や地域性を失っていく。選手全員が海外出身や違う大陸出身というクラブもある」と話した。
ただし、先発11人のうち少なくとも6人を国内選手とする同案については効果を疑問視する声も上がっている。
私も当然のように効果を疑問視するわけですが、ブラッター会長とはそういう人です。FIFAの会長という職にありながら、FIFAとは別の方向を向く男、「毎日100のアイディアを思いつくが、そのうち101のアイディアがくだらない」と讃えられる人ですから。
元より各国のリーグには外国人(EU圏外)選手登録の制限がありまして、予め決められた人数までしか出場できない仕組みとなっているのですが、それとは別にFIFA独自の規制をかけようと言うところなのでしょうか。ただ日本の大相撲ならいざ知らず、サッカー界独自のローカルルールがどこまで許されるかがまず第一の疑問です。国籍による差別的取り扱いがヨーロッパでどこまで許されるのか? EU圏内の国籍保有者であれば平等に扱わなければならないのがEU加盟国のルールですから、そのルールをFIFAが侵すことは可能なのでしょうか? カルピンのように裁判に訴える選手が出たら、まず間違いなくFIFAが敗訴すると思いますけれど。
そもそも、「外国籍を持つ選手」という定義が曖昧すぎて困ります。というのも、ヨーロッパでは「外国籍を持つ選手」であると同時に「国内選手」であるケースが頻繁にあるわけで、イングランド代表でイングランドのリーグに所属するハーグリーヴズはカナダ国籍を保有していますし、ドイツ代表でドイツのリーグに所属するクラニーはブラジル国籍を、先日スペイン代表の招集されたクルキックはセルビア国籍を持っています。この辺の選手に対して出場制限がかけられるのでしょうか?
この辺はたぶん、翻訳の問題もあるのかも知れません。日本の感覚ですと、「外国籍を持つ」=「日本人ではない」わけですから。これがヨーロッパでは「外国籍を持つ」からと言って「同国人ではない」とは限らないので、一口に「外国籍を持つ選手」と言われても、その指し示す範囲がどこにあるのか、この言葉だけでは判別できません。ハーグリーヴズやクラニーのように外国籍を持つ選手を含めるのか、それとも所属リーグと同じ国籍を持たない選手だけを指すのか、どっちなのでしょうか?
実際のところ、外国人(EU圏外)選手登録の制限を免れるために、EU圏内の国籍を圏外出身者に取得させるのが常識となっています。ですので当該国の国籍を持たないことを排除の要件とするだけでは国外出身者の活躍を止めることは不可能です。もし本気でそれを阻みたいのであれば、外国籍を「持っている」ことを排除の要件とすること、ハーグリーヴズやクラニーのような自国の代表選手もろとも拒絶する必要があるのです。
日本国籍のように排他的な国籍であれば、つまり二重国籍を認めない、国籍の取得が同時に国籍の放棄を要求するような仕組みであれば、「外国籍を持つ」ことの意味が幅を持たないので、ブラッター会長の提案も多少は具体性を帯びるのかも知れませんね。いずれにせよ、現実問題としてリーグにその国の出身者しか存在しないリーグというのは基本的にレベルの低いリーグですし、クラブもまた同様です。プレミアリーグにしたところで外国人の流入があったからこそ今の発展があるわけで、前に進みたければ「違い」を積極的に取り入れる必要があるのです。ただありもしない過去を懐かしむ人だけが内向きでいられるに過ぎません。