非国民通信

ノーモア・コイズミ

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2007-03-27 22:37:57 | ニュース

キヤノン、非正規雇用者から千人を正社員に登用(朝日新聞)

 キヤノンは、グループ各社の工場で働く非正規雇用の労働者のうち1000人を08年末までに正社員に登用する方針を明らかにした。正社員化は段階的に行い、まず派遣社員を期間工として雇用し、この中から試験に合格した人を正社員として採用する。この方針は、27日に各工場の責任者を集めて説明する。

(中略)

 キヤノンのグループ各社の国内工場で働く派遣・請負労働者は昨年暮れ時点で2万人余。このうち、主に派遣労働者(1万3000人)から08年末までに期間工として2500人、正社員として1000人を直接雇用する。これ以後も正社員の登用を進め、職場における正社員の比率を高める。同社の期間工は最長2年11カ月の期間限定社員をいう。

 違法な偽装請負から直接雇用に切り替えるという方針は全く評価できないわけではありませんが、いかにも目先の批判をかわすためと言いますか、明らかに不十分ですね。偽装改善とでも呼びましょう。

 そもそも2万人を超える派遣・請負労働者の中から正社員に登用するのは2年間で1000人限定、約20人に一人です。公務員試験よりは競争率が低いですが、東大入試よりは競争率が高いですね。そりゃまぁ、普通に入社試験を受けてもキャノンの正社員に採用される確率は低いわけですから20分の1というのも特別に低いわけではないのでしょうが、今までが不当な雇用形態だったものを是正するというのであれば、やはり不十分かと。正社員採用セミナーの広告に「派遣社員などで現在キャノンに勤務中の方は参加をご遠慮下さい」などと堂々と掲げてきたキャノンですから、期待する方が間違っているのかもしれませんが。

 アメリカの企業ではフロントに一人は黒人を置いておくそうです。人の目に触れるところに黒人を配置することで「うちは黒人を差別していませんよ、黒人にも機会を与えていますよ」とアピールするそうです。キャノンが非正規雇用出身者を正社員に登用する場合にもこれと似たような思惑はあるのではないでしょうか。「うちは非正規雇用の人間にも正社員になる機会を与えていますよ」と。

 正社員になればそれで待遇が改善するかというとそうも言い切れないのが現在の雇用情勢であるわけですが、まぁ失業不安が減るだけでも一応はよしとしましょう。そして不十分ながらも正社員化への道を開いたことは、とりあえずマイナスではありません。しかし、これが新たに差別を正当化する装置として機能し、階層の固定化を推し進める可能性があることにも注意しなければならないでしょう。

 たとえば、黒人にも(白人に比べて不利ではあっても)チャンスがあり、(白人に比べれば少ないながらも)出世する人がいるとします。そうなった場合、出世していない黒人はどうなるでしょうか? 黒人にも成功するチャンスがあるのに、そうならないのは本人の努力不足、甘えだ、そう切り捨てられてしまうこともあるのではないでしょうか? 同様にキャノンの非正規雇用の場合も、(枠は僅かではあるにせよ)チャンスがあり、正社員に登用される人が出てくるわけです。しかしそうなったときに、正社員になれず非正規雇用に甘んじている人たちがどう扱われるでしょうか? 正社員になれるチャンスは用意されているのに、そうなれないのは本人の能力不足、怠けているからだ、そう言って逆に差別が正当化されてしまう可能性もあるわけです。

 あるフランスの移民出身の政治家が、自分は毎日15時間働いてきた、人の倍以上の努力をして今の地位に就いた、移民でも人の倍以上頑張れば成功できるのに、今の若者は社会のせいにするばかりで甘えている云々と、そう語っていました。移民であるというだけで15時間働かないと、人の倍以上働かないと成功できないその不利を強いる差別が問題なのに、それを逆に正当化してしまう、飼い慣らされた被差別階層出身者もいるわけです。

 非正規雇用者を一斉に直接雇用にするわけでもない今回の是正策、あくまで例外的な一部だけを取り立てる是正策は、非正規雇用者の間により一層の分断を作るものであるかもしれません。

 

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コメント (8)
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