Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Complex'09 @中大駿河台 3日目

2009-11-06 23:40:08 | Weblog
Complex'09 の Special Session on Complex Marketing & Consumer Behaviors が「無事」終了した。「無事」とは何を意味するのか・・・ ついそう書いてしまう自分の凡庸さに苦笑せざるを得ない。無事ではなく「有事」終了したほうが素晴らしいじゃないか。ただ,そういう可能性もないではないと,密かに期待していることをここに記しておきたい。

このセッションは,ぼくが主宰している JIMS 消費者行動のダイナミクス部会に基づいている。そのレギュラーメンバーである桑島さん,岡田さん,大堀さん,北中さんには見事なプレゼンテーションをしていただいた。その場にいた人々は,それがお世辞ではないことに同意していただけるだろう。特に桑島さんと大堀さん,若いのに堂々たるプレゼンだった。

そして,助っ人として参加していただいた経済物理学の山田さんと水野さん。重厚なデータ分析でこのセッションを盛り上げていただいた。だが,それを背後でプロデュースしていただいた,いまヘルシンキで真実のサンタクロースとの出会いを待っているかもしれない佐野さんへの謝意を忘れるわけにはいかない。両氏から,彼女がいかにすごい人かを伺った。

懇親会も刺激的であった。フラクタルの権威としてベキ分布を追求してきた松下貢先生から,なぜ対数正規分布が重要かの「想い」をじっくり伺うことができた。佐藤彰洋さんからは,会うなりマーケティングにおけるエージェントモデルの危うさについて胸元に直球を投げ込まれ,次いで自己言及性という変化球を投げられた。それを淡々というのが佐藤さんらしい。

いろいろな研究者と途切れることのないワインとともに会話した。その挙げ句,何と生天目先生に新たなワインをサーブさせる無礼まで働いた。申し訳ない。松下さん,佐藤さん,水野さんという物理学者との会話で「物理学帝国主義」へのある種の期待を表明したのは社交辞令ではない。なぜなら,彼らには事実への謙虚さがあるから。そこが決定的にすばらしい。

しかし,ぼく自身は非物理系エージェントモデルの可能性についても追求したい。経済物理学はマクロ的に観察される規則性の再現を目標にエージェントモデルを使う。だが,それとは逆に,ミクロ的な観察から始まるアプローチはあり得ないだろうか。それが今回ぼくが行なった発表のメッセージと関係すると思うのだが,どこまで,どういう人に伝わったか。

そのあたり,今回の懇親会でエージェントモデルの巨匠である寺野先生ともお話ししたが,当然ながらぼくよりもっと深いところを考えておられる様子だ。ただお互い相当飲んでおり,次の機会にもっと意見交換できればと思う(というか,工学者である寺野先生に対しては,こんなモデルを作りましたといって「モノ」を見せなくてはならないだろう・・・)。

Complex'09 @中大駿河台 1~2日目

2009-11-05 21:21:02 | Weblog
昨日から Complex'09 (the 9th Asia-Pacific Complex Systems Conference) が開かれている。昨夜はウェルカムパーティに顔を出し,ビールを数杯飲んだ状態で研究室に戻り,明日の発表の準備をする(酔っ払いはしなかったが,準備はあまり進まず・・・)。歩いて数分のところに会場があるのは便利。

今日の午前中は,感染症のエージェントシミュレーションの研究を聴く。クチコミとは違い,感染は当事者間の物理的接触を伴うので,二次元空間で移動する物体の衝突現象としてモデル化できる。さらにリアリティを追求すると,ダブリンの街をまんまモデル化するというような発想にいくのが面白い。

ただ,クチコミはそれとは違い,所与の社会ネットワーク上での情報伝播だといい切ることは,あまり根拠がない思い込みだという気もする。むしろ,過去に何の関係もない人間が,リアル/サーバースペースで偶然起こす「衝突」こそ,より強い消費者間相互作用を起こすということもあり得る。

午後はスタンフォード大学の経済学者 Matthew O. Jackson の講演を聴く。一流ジャーナルに掲載された,ゲーム理論を中心にした膨大な数の論文リストは目が眩むほどだ。ここ10年ぐらいは「ネットワーク」ということばを含む論文が非常に多く,その守備範囲は狭義の経済学を超え,社会学の領域まで及ぶ。

今日の講演では,"How Homophily affects Diffusion and Learning in Networks" が取り上げられた。エージェント間の homophily (同類性)が普及現象にどう影響するかが数理的に解析される。冒頭に紹介された米国の高校生の社会ネットワークは,人種に基づく同類性があまりに顕著で少し驚かされる。

彼の著書は,実は長らくぼくの本棚に飾られてきた。改めてページをめくると,ネットワーク理論の基礎から始まり,普及や情報伝播のモデルに進み,ゲーム理論への応用にいたる。情報工学者や物理学者が書いたネットワークの本とは違う臭いがある。マーケティング研究者にとって,この本でネットワークを勉強するのも手である。

Social and Economic Networks


Princeton Univ Pr


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そのあとも,情報伝播に関係する発表を中心に聴講した。現在塩漬けになっている消費者間情報伝播の研究を,早く再開したい思いにとらわれた。ただ,その前になすべきことがあまりに多い。

論文と本とパンフレット

2009-11-04 23:26:29 | Weblog
今年の日経・経済図書文化賞は3冊の経済学の本が受賞した。今回は,経営学の受賞はなかった。

第52回日経・経済図書文化賞決まる

3日の日経に掲載された,審査委員長の吉川洋氏の総評を読んでいて,興味深い箇所があったので,少し長くなるが転記しておく:
経済学に限らず研究のフロンティアは論文によって切り開かれていく。しかし森を見ることを意図的に避け、詳細に木を分析することによって成立する論文とは異なり、本は限定されたテーマで扱う場合ですら森を見ることによって生命を得るものである。
研究書だけではない。ケインズは「経済学者は、大著を書く光栄は一人アダム・スミスに任せ、自らの生きる時代の核心をつかみ、パンフレットを風にまき散らすことを仕事としなくてはならない」といった。経済学という学問、ひいては経済そのものが健全に発展していくために、書物という媒体が果たすべき重要な役割は将来も変わらないはずである。
指摘のように,まずは論文を書いて木を植えることが基礎になくてはならない。それらが蓄積され,1つの物語が醸成されたとき,森としての本を書くという段階が訪れる。なお,研究書以外にパンフレットという選択肢があるという指摘が面白い。

残念ながら日本の学術出版の一部には,一つひとつの木があまりに貧相な森がある。本という形式を満たすために,中身を水ぶくれさせた結果である。そうなるぐらいだったら,森を見る精神を内に秘めて論文を書いたほうが,よほど健全である。

ここ数週間,英文・邦文それぞれのサーベイ論文を書いたことで,少しは森を見据える機会が得られた。これらは内容が一部重複するものの,別の焦点を持つ論文として,何とかうまく分化できたと思う。しかし,まだ森になるほど木は十分にない。

聖地巡礼@マツダスタジアム

2009-11-03 01:27:53 | Weblog
新たな聖地は,広島駅から線路沿いに歩いて10分のところにある。周りは住宅地のような感じで,あまり人影がない。下の写真の左手にあるグッズショップは,閉店4時と書いてあったが,ぼくが訪れた 3:40 にはもう店を閉じていた。まあ,人がほとんどこないので早めに閉めたということだろうけど,そんなことでいいのだろうか・・・。





柵の向こう側に,試合を合法的に覗き見できる場所がある。面白いアイデアだ。



柵の切れ目から「神殿」内部の様子を見るとこんな感じ。



ちなみに球場の外に,名球会入りした選手のプレートがあった。つい,前田智徳選手だけクローズアップしてしまう。



新しく,野心的な工夫を凝らした球場だが,ふだんも人が集まるような仕掛けはできないものか。

聖地巡礼@旧広島市民球場

2009-11-02 10:05:42 | Weblog
昨日の夕方,原爆ドーム方向から旧広島市民球場に近づいたとき,飛行機雲が見えた。球場のカクテルライトがともり,歓声が聞こえてきたら,どんな感じだろうと想像する。広島市民なら,それをはっきり想像できるんだろうな・・・。



「今でもここは僕たちの夢舞台」と書かれている。かつてここで,何度も日本シリーズが戦われた。



「旧」という文字が寂しい。



やはり球場の入口を撮影している人がいた。彼も,ぼくと同じ信仰を持ち,聖地に巡礼に来たのだろうか・・・。

JACS@広島経済大学

2009-11-02 07:24:40 | Weblog
10月31日~11月1日,広島経済大学で開かれた日本消費者行動研究学会に参加した。広島経済大学は広島駅からJR可部線で20分,スクールバスで5分。ただし,電車の本数が少ないので,接続がうまく行かないと,もっと時間がかかる。今回の主眼は,JACS-SPSS論文プロポーザル賞に出る,秋山研の山田君を見守ることと,東大MMRCの若手研究者と行なっている研究を発表すること。牡蠣を食べる,というのは決して大きな目的ではない。

初日に行なわれたプロポーザル賞は,個人的には残念な結果となった。入賞した三人の院生は,確かに堂々たる発表ぶりだった(どうやったらこんなふうになれるのだろう・・・)。その点で受賞理由は明らかなのかもしれないが,審査員からその説明がなかったのは残念だ(以前はそれがあったように記憶する)。何らかのコメントや助言があると,発表者にとって有益なはずだ(それは廊下や懇親会会場で行なう,ということかもしれないが)。

われわれの発表(あえてそう呼ぶことにする)は,トレードオフがもたらす葛藤の帰結を,意思決定(選択)の回避という側面から研究しようというものだ。研究上の志としては他より劣るとは思わないが(負け惜しみ?),「消費者行動」研究としてのインパクトが弱かったかもしれない。確かに何のための研究かについての論考や,それを支える既存研究の読み込みが不足している。fMRI実験という新しさは,そこを補うものにはならなかった。

 夜,流川で秋山,山田両氏と「反省会」。日本酒美味。

翌日の午後は「装備の充実は消費者選好を高めるか?~乗用車をめぐる知覚ポジショニング,技術装備,購買態度の関係分析」について発表。今度は,ぼくが共同研究者たちに見守られる立場になった。正直,あまりオーディエンスが集まらなかったのは,発表者の人徳のせいか,テーマがあまりアピールしないせいか・・・。ただし,価格への期待が装備と直接関係するという,われわれのモデルが考えていない側面の指摘を守口先生からいただく。

 夜,桑島,東両氏と打ち合わせ。2日連続の穴子の刺身。

さて,今回の JACS は「インターネットにおける消費者行動」が統一論題。博報堂DYメディアパートナーズ勝野さんが紹介した,ある女子高生のメディア生活を追ったビデオが面白かった。基調講演の宮田加久子氏は体調不調だとは感じさせない説得力あるプレゼンだった。ただし,スクリーンに表示されるグラフの文字が小さくて読みにくい。きちんと理解するには,この発表のベースとなった,以下の著書を読むしかない。

ネットが変える消費者行動―クチコミの影響力の実証分析
宮田 加久子,金 宰輝,繁桝 江里,小林 哲郎,池田 謙一
NTT出版

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2日目で印象的だったのは,竹村和久先生による神経経済学に関する発表だ。海外の研究動向からご自分の最新の研究まで,15分で一気に紹介する(ぼくも15分のセッションに挑戦したほうがよかったか・・・)。特に言及はなかったが,スライドに近著の画像が含まれていた。オーディエンスにとって,意識されざる刺激として記憶され,本屋で思わず手が伸びることになるかもしれない。ちなみにぼくはすでに購入しているが,読む時間を見つけていない。

行動意思決定論―経済行動の心理学
竹村 和久
日本評論社

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今回,JACS でいろいろな研究を拝聴して感じたことは,質問紙調査と統制実験で得られるピースミールな知識から何が見えてくるかということ。非線形な世界を線形で語る手堅さを感じつつ,限界も痛感する。自分が発表した研究自体,非線形な世界の一面を線形近似したにすぎない。いまのところ,それはしかたない,と思いつつ,何とか乗り越えたい。同じ問題意識を持つ研究者がどこかにいるかもしれない・・・という思いで,今週は Complex'09 に臨む。