Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

騙されてもいいという心理

2009-11-09 09:18:52 | Weblog
結婚詐欺とその周辺で起きている不審死をめぐる事件について,週刊文春11月12日号に「こんな『男おひとりさま』が狙われる」という記事が載っている。そこで,自らも「男おひとりさま」である野末陳平氏が,以下のような教訓をあげている:

1.この世には優しい女はいない
2.老いた自分に寄ってくる女はいない
3.口上手な女は怪しい

「これを忘れたら騙されます」という。なるほど,このことを心に刻んでおけばよいのか,というと,そう簡単にはいかないと思う。以前,誰かのエッセイで,ロシア(旧ソ連?)で美人スパイのハニートラップに遭った人物の話が紹介されていた。そのとき,こんな自分にこんな女が寄ってくるはずがない,と思いつつも,騙されてもいい,すべてを失ってもいい,という気持ちになった,ということが書かれていた(本人の経験として,ではないが)。

ただ,その結果「すべてを失った」その方は,いまは大いに後悔しているという。いま.眼前に目が眩むような報酬を提示されると,人間は長期的な時間選好から予測される判断とは決定的に異なる行動をとることが,行動的意思決定論の研究で示されている。そのとき,自分がそんなにモテるはずがないという判断は無視される。嘘でもいい,騙されてもいい,という悪魔の囁きに心がしたがってしまう。それは,その時点では甘美な経験なのである。

ハニートラップや結婚詐欺には遭遇したことがなくとも,「騙されてもいい」と思って女性のため高価な買物や接待をした経験は,多くの男性にあるはずだ(騙されているというより,男が勝手に騙されたがっているケースのほうが多い?)。にもかかわらず,婚カツ詐欺にかかった男性を鼻先で笑っているような男に対して,あまりいい感じはしない。ましてその人物が,人間の心理や行動に関わる研究をしている場合など,その想像力の欠如が嘆かわしい。