Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

事業仕分けと研究者の説明責任

2009-11-15 11:08:04 | Weblog
事業仕分けで,次世代スーパーコンピュータの開発予算が「凍結」されたことが議論になっている。毎日によれば「これまで545億円を投入・・・10年度概算要求で約267億円。最終的に計約1230億円が必要とされる」。この金額の税金投入を是とするか非とするか,という問題である。

仕分けの様子を多少詳しく報じているのが産経で,少し長いが引用すると,
この日、口火を切ったのは蓮舫参院議員。その後も「一時的にトップを取る意味はどれくらいあるか」(泉健太内閣府政務官)「一番だから良いわけではない」(金田康正東大院教授)「ハードで世界一になればソフトにも波及というが分野で違う」(松井孝典・千葉工業大惑星探査研究センター所長)などと、同調者が相次いだ。
 文科省側は「技術開発が遅れると、すべてで背中を見ることになる」と防戦したが、圧倒的な「世界一不要論」を前に敗北。同研究所の理事長でノーベル化学賞受賞者の野依(のより)良治氏は「(スパコンなしで)科学技術創造立国はありえない」と憤慨していた。
という様子。野依氏と同様に怒っているのがサイエンスライターの竹内薫氏だ。竹内氏のブログの一部を抜粋してみる:
科学技術に関して、こんな無知な仕分け人が全てを決めしまうとは・・・「理系」内閣がいきなり亡国へ向かうとは残念なことだ。

誰かが蓮舫議員にはっきり「バカは休み休み言え」と諌言すべきではないのか。この人に、日本の将来にとって欠かせない科学研究と、そうでない科学研究を区別する能力はない。

連日、テレビで仕分け人の発言を聞いているが、「自分にわからないものは要らないもの」という短絡的な決めつけが目に付く。この人たちは、全知全能の神様のつもりなのだろうか。
いうまでもなく,仕分け人たちは「全知全能の神様」ではないが,では専門の科学者は「全知全能の神様」なのだろうか?この1230億円の支出が生み出す科学上の成果や経済効果を事前に正確に述べることができるだろうか?なぜ,科学者の間で判断が分かれているのだろうか?

結局,誰も全知全能でないなかで,最後に納税者が意思決定することになる。世界一のスパコンを望むなら,彼らを説得するしかない。以前なら有力政治家と官僚への根回しでよかったが,そうでなくなった。成果について確定的なことはいえないので,真摯に夢を語るしかない。最後は賭けになる。

同じことを経営者は株主に行なっているし,政治家は有権者に行なっている。ところが,「自分がわかるものは要るもの」といわんばかりに「無知な」素人を軽蔑するだけでは,「全知全能の神様のつもりなのだろうか」ということばが自らにかえってきかねない。それは大変残念なことだ。

その点で,サイエンスライターの森山和道氏の日記に書かれていることが印象的だ:
・・・仕分けされてる側の危機感のなさが目立つ。そもそも聞かれている側は「必要かどうか」を問われてるという側面もあるが、それ以上に「投資している税金というコストに見合ってるのかどうか」を質問されているのだということを理解してなかったのではないか。
・・・ともかく「仕分け」が今年の流行語になりそうだなー。会社とかで普通に使えそうな言葉だし。深海地球ドリリング計画やIFREEの予算が削られようが次世代スパコンの予算が凍結されようが、今のところ、その程度の関連しか僕のような一般人にはない。良い悪いではなく、一般人にとってはその程度なのだ。ということをもう一度しっかり念頭において、科学や技術がなぜ必要なのか、研究成果とはかくかくこういう性格のもので、現在こういう成果が出ていて、それはこんなふうに位置づけられているんだ、だからカネをくれ、オレたちもしっかり使う、ということを、単純明快論理的に、かつ、雄弁に語る気概が欲しかった。
多くの研究者にとって,これは対岸の火事ではない。周知のように,科研費などにも見直しのメスが入っている。多くの研究者にとってこれは困ったことである。しかし,納税者としての立場からいうと,いまの制度が万全とも思えない。毎日は以下のように報じている:
仕分けに同席した財務省が競争的資金について、文科省だけで24制度、国全体では8府省47制度もあると指摘。1人の研究者が10種以上の助成を受けている例まで紹介した。仕分け人は「明確な役割分担ができていない」「3000億円以上もなぜ必要か説明されていない」などと批判。予算額を縮減し、制度を一元化するなどの結論でまとまった。
制度が複雑すぎで,かつ特定の研究者や組織に助成が集中する傾向があるというのは,そうだと思う。もちろん,それがおかしいとは一概にいえない。ただ,巨額の助成を受ける研究者ほど,今後より大きな,開かれた説明責任を負うことになる。そこにサイエンスライターに期待される役割も出てくるだろう。