Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Complex'09 @中大駿河台 4日目

2009-11-07 23:55:03 | Weblog
Complex'09 の最終日。朝9時には間に合わなかった。いくつかキャンセルが出ていて,岩永さんの発表に運良く間にあった。そのあと聴講した組織論のセッションで,サムスン経済研究所の方の発表を聴く。何でも複雑系研究グループがあって,組織管理やマーケティングの研究をしているという。マーケティングについてどんな研究しているのか聞けばよかったと,あとになって後悔している。

そのあと聴いた,井上さんの企業の調達ネットワークの研究が興味深い。自動車産業とソフト産業を比較すると,前者の調達ネットワークがより階層的なのは予想通りだが,同時に開放的でもあるのは常識と異なる。これは産業の成熟度を反映しているのではないか,と指摘される。分析に用いられたのは p*モデルで,複雑ネットワークというよりは社会ネットワーク分析の系譜に属する。

マーケティングの複雑系的研究はファイナンスに比べて量的に劣るが,研究の奥深さ,愉しさでは断然上なはずだとぼくは勝手に信じている。なぜなら,マネーゲームは人生の手段にすぎないから(目的になったら終っている)。儲けたカネでみんな何がしたいかというと消費でしょう。だから,それを研究するのが究極の悦びなのだ・・・という屁理屈に賛成してくれる人こそわが同志である。

閑話休題。午後は同じ神田駿河台の歯医者に。治療した奥歯にときどき痛みを感じるが,神経を治療するとなると,こないだ入れたばかりの金歯を廃棄することになる。それは埋没費用(sunk cost)なので,今後の意思決定では無視するのが合理的なはずだが,ぼくは「せっかく■万円を投じたのだ。少しぐらい痛くても我慢しよう」と考えから逃れられない。脳がそのように命じているのだ。

行動的意思決定論を学ぶのは,自らのバイアスに気づいて,合理的意思決定ができるようにするためだ,といわれることがある。しかし,そうは簡単にいかないことが,自分を省みてもわかる。埋没費用にこだわる思考は,進化において何らかの意味で適応的だったから,人間の頭にこびりついているのだろう。それはもはや無用となった過去の遺物なのか,深いレベルでの合理性があるのか。

本屋で岩波書店の『科学』10月号を購入。昨夜松下先生からお聞きした,國仲寛人,松下貢「社会・物理 複雑系の統計性──新しい社会科学の発展に向けて」という論文を読むためだ。そこでは,対数正規分布を複雑系のデフォルトとする「社会物理学」が提案されている。社会心理学の立場から社会ネットワークを研究する吉田さんもまた,対数正規分布を支持していたことを思い出す。

科学 2009年 10月号 [雑誌]


岩波書店


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