Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

論文と本とパンフレット

2009-11-04 23:26:29 | Weblog
今年の日経・経済図書文化賞は3冊の経済学の本が受賞した。今回は,経営学の受賞はなかった。

第52回日経・経済図書文化賞決まる

3日の日経に掲載された,審査委員長の吉川洋氏の総評を読んでいて,興味深い箇所があったので,少し長くなるが転記しておく:
経済学に限らず研究のフロンティアは論文によって切り開かれていく。しかし森を見ることを意図的に避け、詳細に木を分析することによって成立する論文とは異なり、本は限定されたテーマで扱う場合ですら森を見ることによって生命を得るものである。
研究書だけではない。ケインズは「経済学者は、大著を書く光栄は一人アダム・スミスに任せ、自らの生きる時代の核心をつかみ、パンフレットを風にまき散らすことを仕事としなくてはならない」といった。経済学という学問、ひいては経済そのものが健全に発展していくために、書物という媒体が果たすべき重要な役割は将来も変わらないはずである。
指摘のように,まずは論文を書いて木を植えることが基礎になくてはならない。それらが蓄積され,1つの物語が醸成されたとき,森としての本を書くという段階が訪れる。なお,研究書以外にパンフレットという選択肢があるという指摘が面白い。

残念ながら日本の学術出版の一部には,一つひとつの木があまりに貧相な森がある。本という形式を満たすために,中身を水ぶくれさせた結果である。そうなるぐらいだったら,森を見る精神を内に秘めて論文を書いたほうが,よほど健全である。

ここ数週間,英文・邦文それぞれのサーベイ論文を書いたことで,少しは森を見据える機会が得られた。これらは内容が一部重複するものの,別の焦点を持つ論文として,何とかうまく分化できたと思う。しかし,まだ森になるほど木は十分にない。