Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

サービス・サイエンス研究会@防衛大

2008-03-31 23:12:16 | Weblog

電車を乗り継いで,初めて防衛大学校を訪れる。そこで開かれるサービス・サイエンスの研究会にお招きを受けたからだ。当然ながら入構時にチェックを受ける(大学入試センターもそうだった)。丘の上にあるキャンパスは整然としており,春休みのせいか人気がない。ふだんは,どんな感じなのだろう…。理工学部の建物のなかは,普通の大学とあまり変わらない。

ぼくが話したのは,マーケティング・サイエンスにおけるサービス研究の系譜(Rust & Chung 2006)と自分が関わっているサービス関連のプロジェクト。与えられた時間を大幅にオーバー,中身も未消化で,だらしない発表になってしまった。 自分の思想としての体系化が足りない。1年後にそれが出来ているかというと,それも心許ない。時間がほしい・・・。

ぼくの前にお話になったのが上林先生。近著に沿った内容で,サービス・サイエンス(マネジメント&エンジニアリング)が大きなパラダイム転換につながることを説く。サービスとは,顧客と供給者のインタラクションから価値を生じるオープン・システムである。それをいかにマネジメントするかは,簡単な問題ではない。

サービスサイエンス入門―ICT技術が牽引するビジネスイノベーション
上林 憲行
オーム社

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ぼくのあとに発表された寺野先生は,これについて control ではなく harness という発想を持つべきだという。harness とは,馬車の御者が生きものとしての馬を操ることで,本来自律的なシステムを望む方向へ導くことをいう(以下の Axelrod and Cohen で提唱されている)。産業革命は馬を蒸気機関に置き換えたが,再び「生きもの」をシステムの中核に据えることになる。

複雑系組織論
ロバート・アクセルロッド,マイケル・D・コーエン,高木 晴夫,寺野 隆雄
ダイヤモンド社

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後半は,複雑二重ネットワーク の研究が紹介された。Axelrod の文化伝播モデルを格子状の世界からネットワークの世界に拡張し,かつエージェントの内部構造をネットワーク化したモデルだ。なぜ内部構造がネットワークなのかわからなかったが,この研究が貨幣の創発を扱うことから出発していることを聞いてやっとわかった。確かにモノの交換可能性はネットワークで表現される。

対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明
ロバート・アクセルロッド
ダイヤモンド社

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ぼくにとって面白かったのは,シミュレーションのリアリティに関する寺野先生の見解だ。2018年,WEB10.0の時代には,人々は社会シミュレーションに,気候変動や交通流のシミュレーションと同様のリアリティを感じるだろうという予言。人がどんなときにリアルだと感じるかを認知科学的に探求することが,今後必要になる。シミュレーションを複雑化したり,エージェントが3D化すればすむわけではない。

懇親会は馬堀海岸駅近くのお寿司屋。分厚いネタに驚く。生天目先生,有賀先生という高名な先生方とお話ししながら,情報工学者や理論経済学者が「サービス」研究に参入してくることで,マーケティングの研究に大きなインパクトが生じるのではないかと考える(CRMもそうだったが,それ以上のインパクトがあるのでは)。IBMの蒔いた種は,いまのところ予想以上に育っているようだ。