Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

企業買収の不思議

2007-05-13 21:07:57 | Weblog
「買収無残 成功幻想が社員をつぶす」と日経ビジネス5/7号の表紙は語る。記事によると,最近の主な合併事例35件のうち,3年以内に株価がTOPIXの趨勢以上に上がったのは半数にすぎない。つまり,成功したのは半数だという。多くの合併が企業の収益性を向上させないこと自体は,以前から経済学の研究で示されており,驚くことではない。むしろ「成功を期待しにくいのに」なぜ企業買収・合併が繰り返されるのかが興味深い問題だ。

もちろん,成功の確率がそう高くなくとも,成功したときの利益が非常に大きければ,チャレンジすることは合理的である。実際,この記事に掲載されたデータでは,一部の合併で株価(つまり企業価値)が3年で2~3倍になっている。あるいは,株価に反映される企業価値以外の価値が大きいという説明も可能だろう。合併によって売上や資本の規模はよほどのことがなければ拡大するわけで,それは経営者のプレステージとなり得る。

別の説明は,企業家はそもそもリスクテイカーだから,確率の低さに捉われることはないというもの。期待値で行動するなら,誰もギャンブルはしないし,ビジネスも同じだと。あるいは,人間一般の傾向として,自分は(上か下かは別にして)平均とは異なると考えがちだと心理学者はいう(これについては後日言及)。だから,「やり手」だと自分のことを信じる人々が,過去の成功率など気にするはずがない。

この記事のデータは,M&Aのコンサルティング企業が提供したものだという。彼らは,だからこそ,専門家のサポートが必要なのだといいたいはずである。広告もまた半分しか効いていないとよくいわれる。だからこそ・・・と広告会社やマーケティング・プランナーがいえればいいわけだ・・・。

学位商法

2007-05-13 12:44:49 | Weblog
学位商法(diploma mill)とは,教育の実態がほとんどなく,お金だけで学位が買えてしまうことで,特に米国で問題になっているらしい。文科省は全国の国公私立大・短大1,200校を対象に,そうした学位を取得している教員がいないかどうか調査するという(本日の日経朝刊)。でも,どうやって? 怪しげな大学名が履歴書に書かれた教員を片っ端から調べていくのだろうか? なかにはあらぬ疑いをかけられて,もめることがあるかもしれない。 

学校が物理的に存在せず,カネだけで学位を買えるケースならわかりやすいが,ある程度は授業をしたり,論文を提出させているグレーゾーンも多いはずだ。拡大解釈すれば,形式的には通常の大学院教育をしているが,学位授与の基準が相対的に甘い大学なども,そこに含まれる可能性がある。大学横断的で客観的な基準がない以上,大学ないし学科の「名声」で学位の価値が区別されることになるのか。

となると,学位・学歴の格付けビジネスが流行るかもしれない。正直いうと,大学院入試の志願者審査でそうした情報がほしいと思うことがあり,大学も有力な顧客になり得る。

環境配慮型消費

2007-05-12 10:04:38 | Weblog
エコ・マーケティング,グリーン・マーケティングへの関心を持つ,あるいは持たざるを得ない人々が周囲に増えている。つまり,ぼく自身,無関係ではいられないということだ。このテーマに関わるとしたら,どうすればいいか? マーケティング・サイエンス的には,消費者の選好関数に「環境」という変数を入れればよい。環境を選好する消費者は,環境負荷の低い消費を選択する(トートロジー!)。だから,そのような選好を持つ消費者を増やしましょう・・・それがマーケティングであり,選好誘導だと。

経済学者には,そんなことはつまらない話に聞こえるだろう。彼らにとって重要なのは,一人だけ環境配慮的行動をとっても,環境に対してほとんど影響を与えないという事実だ。それが故に合理的な消費者は環境配慮行動をとらない。その結果,環境が悪化する。典型的な社会的ジレンマの状態だ。そこで,「外的に」何らかの報償(あるいは罰)を与えて,社会的に最適な状態に導くことが問題となる。

だが,現実にはそのような目に見える報償(罰)なしに,環境配慮的行動を取る消費者が(多数かどうかは別にして)存在する。彼らの行動は,通常の経済学が仮定する私利の最大化原理では説明できない。では,そうした「利他性」がなぜ選好に組み込まれているのか・・・それを説明するのが進化ゲーム理論だ。個人にとって合理的でない行動であっても,それが「社会的に複製」される条件を満たしていれば普及する。

これは面白い研究プログラムだが,マーケターにとっては多少距離感があるかもしれない。彼らは,長期にわたってその行動様式が安定的に成立するかどうかより,キャンペーンその他によって,とりあえず短期に,人々の行動様式(あるいは選好)に影響を与えることに関心を持つ。利他的な選好を持てば環境配慮的に行動するのは自明なこと。だが,それを(ソフトな)コミュニケーションによってどこまで可能かするかが,マーケティングのチャレンジだ。

そう考えればすっきりするはずだが,ぼく自身は割り切れていない。人々の選好を変えるといっても,それが持続可能(sustainable)かどうかを無視できない。それを言い出すと話がぐちゃぐちゃになるが,マーケティング研究をより広い社会科学の文脈におく好機ではないかと思う。

真・富裕層より真・中流層

2007-05-10 08:25:55 | Weblog
最近,これこそ真の(あるいは新しい)富裕層の姿を描いたものだと謳う本が次々と出ている。「階層化」をサブテーマにする立場として興味がないわけではないが,お金持ちの生活自体がピンと来ないためか,さほどそそられない。ただし,昨日は,講談社から(いつのまにか)発刊されているセオリーNo.9「リアルリッチの世界」を買う。

そのなかで目を引いたのが,山梨のワイナリー「ルミエール」のオーナーで,長年国際ワインコンクールの審査員も勤める塚本俊彦氏へのインタビューだ。氏は「味覚は15歳までに決まります」と語る。また「食は三代」ということばを引用しつつ,ワインを含む「高級な嗜好」を支える能力は,ある家柄の家庭で継承されるしかないことを示唆する。そこには「機会の平等」はない。

一方,このムックの後段に登場する,金融ビジネスで成功したという匿名の40代は,「インベストメント・バンクでは貧しい育ちの人間が勝ちます」という。そのほうがしぶとくて,タフだからだと。この場合,地位は親から子へ継承されないことになる。マネーゲームの勝者は,機会の平等を立証していることになるのか・・・。

いずれにしろ,真(新)富裕層向けマーケティングなんてどうも実感がわかない。男性が女性の生理用品を開発することだってあるわけだが,ぼくには自分が顧客ではないマーケティングを考えることはかなりしんどいことに思える。では,真(新)貧困層向けマーケティングならピンと来るのか。だが,それは「搾取」するようで気が引ける(その認識は間違いだとは思うが・・・)。

格差の拡大自体は,所得・資産分布の裾が広がるということであり,分布の形が二峰型になるわけではない。その意味で,比率として相対的に「中流」に位置する人々が最も多いことに変わりはない。だが,分布の裾が広がる(あるいはそう感じられる)ことで,多数派である中流層がどちらかに引き裂かれる感覚を強めているのではないか。つまり,わずかな差に対して,自分は勝ち組だ負け組だとナーバスになっていると。

ぼく自身は,やはりいまだに「マス」である中間層の「真」の姿に興味がある。そして,このムックと一緒に買った dancyu の蕎麦特集を読みながら,高くても数千円で味わえるグルメに思いを馳せる。六本木ヒルズに住んでフェラーリに乗って・・・と言う発想は全く出てこないのだ。

読み込めた・・・

2007-05-05 20:58:42 | Weblog
昨日のSPSSのトラブルは,大量のデータを保存するのに時間がかかっているときに,何か他の操作を何度も行おうとしてファイルを壊してしまったのかもしれない。この点に注意しながらやり直したら,今度はうまくいった。だが,今度は誤ってPCの電源を抜いてしまい,そのせいでメーラーがおかしくなった・・・ああ・・・。

ところで今日のお昼,最近大学の近所にできたイタリア料理店に行った。しかし,一人で行ったせいか,カウンター席へ案内される。そこにはふかふかのソファが置かれていて,座ると腰が沈んでカウンターが顎の真下にくる(ウェイティングバーとしても変な造りだ・・・)。これじゃとても食事ができないので,文句をいってテーブル席に移らせてもらう。

いろいろ講釈付で料理が出てくるが,正直いって,楽しく味わう気にならない。やはりサービスというの足し算ではなく掛け算だ(つまり非補償型ルールで評価される)ということを実感した。デザートは美味しかったが,それでもこの店にぼくの顧客生涯価値を捧げることはないだろう。線形の顧客満足モデルで考えると,サービスの経営に失敗する可能性が高い。

だが,不満が解消される余地がないかといえば,そんなことはない。以前,某ソフト会社の対応に腹を立てていたとき,丁寧な謝罪付の電話をもらって気分をよくしたことがある。このとき,積もり積もった不満が一気に吹き飛んでしまったのだから,非補償型(非線形)のメカニズムが逆に働くこともあるのだ。

自由な日々は明日で終わる。

読み込み中…

2007-05-04 22:45:38 | Weblog
今日,Marketing Science Conference @ Singapore のプログラムを案内するメールが届いた。16トラックも並行して走っているため,どんなに頑張っても16分の1しか聴けない。word of mouth, social interaction というキーワードで検索するとかなりの数がヒットする・・・なるほどねえ(汗)・・・ preference formation/evolution とか non-compensatory だとそれほどでもない。

午後からじっくり,2万ケースのデータ分析に取り組むはずであった。変数を数十にまで減らしてSPSSで簡単な分析(記述統計!)を行なおうとすると,「読み込み中にエラーが起きた」という。データエディタにも少しずつしかデータが表示されず,スクロールを繰り返すとまたエラーメッセージ。なかなか終わらないが,死んでいるふうでもないので,今日はそのままにして帰ることにする

PCのメモリは2ギガあるし,CPUだってけっこうな速さだし,ハードのせいではないだろう。やはり,ばかでかいデータに対しては,データマイニング用ソフトを使うべきなのか・・・あるいは,やはりRやMATLABを使うほうがいいのか・・・データ分析にとって完璧な研究環境とはどういうものだろう。

缶入りワイン

2007-05-04 10:13:16 | Weblog
昨日の日経MJに,オーストラリアから輸入された缶入りワイン「バロークス」が紹介されている。缶入りになったことで,ワインを手軽に持ち歩くことができる。だが,これまではワインを缶に入れると化学反応で劣化した。缶の内側に独自のコーティングをすることで,問題を解決したという。なるほどなるほど・・・いずれにしても,飲んでみないとだめだな・・・。

複雑なものは複雑に

2007-05-03 23:55:54 | Weblog
今日の日経「経済教室」に『理系の経営学』の著者,宮田秀明氏が「『複雑事象の単純化』は誤り」と題する一文を寄せている。いわく「経済現象に対するエコノミストの解説には、本来は十くらいの非線形な偏微分方程式に支配されていると思われる現象を二つ程度の線形方程式で説明するような場合が多い。結果として、エコノミストの解説をうのみにする人はほとんどいない」・・・なかなか辛辣である。

宮田氏は専門である流体力学について「線形的に説明できる事象は、大きく見積もって一割ぐらいでしかない」「非線形問題なので理論解が得られない」「一九八〇年以降は・・・コンピューターサイエンスによって問題を非線形なまま解く手法を獲得し」たと述べ,自然科学以上に非線形的な社会現象に対しても,大規模なシミュレーション・アプローチが有効だと示唆している。そして有望なフロンティアとして取り上げられるのが「サービスイノベーション」だ。高速道路や書店流通の例が紹介されているが,いずれも宮田研究室で実際に取り組んだ事例のようである。

主流派の経済学者が,宮田氏の議論に簡単に首肯するとは考えられない。複雑なものは複雑なまま扱えといっても,そんな「単純な話」じゃないよと反論するだろう。経済特有のロジックを,こちらは百年以上考えてきたのだと。あるいは,すでに「理系」のアプローチを経営領域で積み重ねてきた経営工学やORの研究者たちも反発しそうである。

まあしかし,宮田氏の主張のある意味「単純な」力強さは,魅力的に感じられる。詳細なデータをなるべく粒度を下げない形で分析し,複雑な相互作用をコンピュータのパワーで組みふせる。厳密な最適性の保証はなくとも,いまより明らかによい状態を探す。実際にはいろんな課題があるだろうけど,やってみることが大事だ。ともかく何か作って動かしてみるのが工学の精神のように思われる。

過去3年間を振り返る

2007-05-03 18:58:05 | Weblog
今日は科研費成果報告書の作成で終始した。まずは図書館で過去の報告書を参考として閲覧。そのあと自分の研究成果を整理しながら,過去3年間の「消費者選好の形成と変化に関する研究」を振り返る。

消費者選好の時間的変化をHBプロビットで計測する研究(ワイン),消費者間相互作用の測定(携帯電話),消費者間相互作用のシミュレーション(リーダー/フォロワー),すべて3年前には始まっていて,学会発表などもしている。

翌年,さらに範囲が広がり始める。いろいろなことを学会発表しながら,そのなかで最終的に論文までいったのは,傾向スコア法を用いた広告効果の実証分析だけである(全くの別系統のテーマはおいといて)。ただし,それさえディスカッションペーパーの次の壁が厚い。

最終年度,2段階選択モデルに取り組む機会があった。しかし,その後は再び選好の時間的変化,消費者間相互作用の計測(シャンプー),エージェントベース・シミュレーションへ・・・結局,論文の形になったのはシミュレーション研究だけであった(それとて,まだまだ課題は多いが)。

結局,研究の流れは消費者選好のダイナミクス=消費者間相互作用という方向に進んでいった。それは致し方ないことだが,一方で当初の構想に入っていた,選好の内的変化の研究が進展しなかったのが心残りである。Mktg. Sci. に今後掲載予定の論文名を見ていると,非補償型選好の研究がいくつか出てきそうだし・・・ううむ・・・。


5月攻勢!?

2007-05-01 23:56:58 | Weblog
このところ,ブログへのエントリが停滞気味だ。知的刺激を受けたり,それで興奮したりする機会が減っていることが一因か。いや,本当のところは,自分自身が研究で興奮する態勢にないことが真の原因ではないか。・・・そこで,そろそろ反転攻勢に出たいと思う。何といってもあと5日間,授業も会議もない(はず)なのだ(明日夜の「コンパ」は別)。

今月は,貴重なデータを提供いただいた企業への報告が2件,そして商業学会での発表がある。いずれも,データを用いた発見と仮説検証というオーソドックスな作業が必要となる。5月はほぼそれで忙殺されそうだが,6月のJIMSやらMSCの準備もある。また,JWEINの投稿締め切りは6月末だ。毎年のことだが,6月は一つのピークなのだ。今年,そのあとどうなるかは,よくわからない。

キャンパスで,社会人D1となった知人とその指導教員に会う。9月に北京で開かれるHCIで研究成果を発表するとのこと。そこまでは,それはけっこうなお話だったのだが・・・その分析作業に,わが研究室のM2を手伝わせているという話を初めて聞く。おいおい・・・。