Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Mktg. Science Conference@Vancouver 2~3日目

2008-06-15 15:53:50 | Weblog
Marketing Science Conference 2日目。興味を持った発表を記す。Tanya Mark, Mark Vandenbosch, and Katherine Lemon, Predicting What Type of Customer You Will be Tomorrow: A Stochastic Segment Model は隠れマルコフモデルを使って,Customer Dynamics を追求している。その前に発表された Thomas Reutterer, Detecting Meaningful Patterns of Profitability Dynamics in Evolving Customer-Firm Relationships は一部しか聞けなかったが,マルコフ連鎖クラスタリングなるものが使われ,いろいろな形で CRM の動学化が試みられていことがわかった。

すぐに別の部屋に移って,Hiroshi Onishi and Puneet Manchanda, Marketing Activity, Blogging and Sales を途中から聞く。そこでは,映画の封切り前にテレビ広告がブログの書き込みを刺激し,売り上げにつながっていくという分析結果が紹介されていた。ただし,封切り後には,そうした関係が変化するという。大西さんは,計測されたのはあくまで相関関係で,因果関係であるとは断言できないという,なかなか慎重な言い回しをしていた。

次いで,Jiali Ding et al., Identify the Influentials and Imitators in Fashion Contagion Using Scanner Data を聞きに行く。標題から,昨年この学会で自分が発表した内容に近い可能性があると感じ,気になったのだ。彼女たちの場合,in store contagion という視点を全面に出して,同じ時間に店にいて,同じようなものを購入した顧客の間に模倣関係を想定,それを二項選択モデルに変数として入れるというやり方だ。なお,今回この発表以外にも,クチコミと観察に基づく模倣を概念的に区別する議論が少なくなかった。

意外に面白かったのが Kartik Hosanagar: Blockbuster Culture's Next Rise or Fall: The Impact of Recommender Systems on Salse Diversity だ。彼の分析では,オンライン・ショップへのリコメンダー(協調フィルタリング)の導入は,個人にとって多様な選択を可能にするが,市場全体としては多様性を失わせる。次のJochen Eckert, Bernd Skiera and Oliver Hinz, Long Tail - An Investigation of Underlying Demand Effects では,Video on demand サービスでのロングテール化がヘッドへの集中を減らしている(つまり分布がフラット化する)ことを見い出している。いずれも聴衆はそう多くなかったが,個人的に強く興味を惹かれた。

自分自身の発表は,午後の Social Networks and Market Efficiency というセッションで行われた。最初の発表は,Tomoko Kawakami, Factors affect Purchase Intent and Actual Purchase in Japanese Digital Music Player Market で,有名な著書で存じあげていた川上さんに初めてお目にかかる。流暢な英語で,堂々たる発表であった。そしていよいよ When Word-of-mouth Marketing Works: An Agent-Based Simulation Approach を発表 ... かろうじて Libai 先生から,Watts は消費者間の関係はスケールフリーネットワークではないといっている,お前はどういう市場を想定しているのか,という質問を受ける。車でも携帯オーディオでもいいが,電子コミュニティの登場で,次数の高いハブが存在し得るようになったのでは,と答えた(つもり)。

報告を終えて,疲れきって席に戻ると,後ろにいた恰幅のいい若手研究者がいきなり握手を求めてきた。それは発表の内容にではなく,下手くそな英語で頑張って(?)しゃべったことへのねぎらいかもしれない。のちに,イスラエルから来た彼の発表を聞いたとき,ぼくよりは段違いに流暢ではあるが,それでも英語でのスピーチに苦労しているように見えたので,その思いを強くした。自分の発表に戻ると,英語がもう少しうまければ,多少はインパクトを上げられただろうけど,やはりそれ以上に内容に課題が多い。もっとねちっこく考え,隅々まで計算し,できれば何か経験的な証拠を出すことが必要だ。

そのあと,肩の荷がおりた気分でコンジョイント分析のセッションへ。Eric T. Bradlow, Barter Markets for Conjoint Analysis ... 相変わらずの,ものすごい勢いの発表に圧倒されるが,彼が提案する手法がなぜうまくいくのか,わからないまま終わる。その後,有名な教授たちの発表が続いたのだが,猛烈な眠気が襲ってきたため,その内容はほとんど覚えていない。夜のパーティでは,隣の席に座った,日本に滞在したことがあるというドイツの研究者と主に話す。彼も隠れマルコフ+ベイズで研究しているという。そのあと,若手日本人研究者数人と近所のバーへ…。

3日目は,開始時刻の30分前に起床。Ralf van der Lans et al., A Viral Branching Model for Predicting the Spread of Electronic Word-of-mouth in Viral Marketing Campaign や Asim Ansari, Oded Koengsberg and Florian Stahl, A Baysian Framework for Mdeling Multiple Relationships Among the Members of a Social Network は,いずれも社会関係の形成に確率モデルを導入する研究だ。社会的相互作用やネットワークに対するマーケティング・サイエンスの取り組みはここまで来ているのかと感心する。

同じセッションの Peter Ebbes et al., Sampling Large-Scale Social Networks: The Good, The Bad, and The Ugly は,大規模ネットワークの性質を推測するためのサンプリング方法の精度を,シミュレーション及び実データで評価している。その結果,スノーボール・サンプリングやそこにランダムウォークを入れたものが相対的に優れていることが示された。緻密な研究ですばらしいが,現実には,スノーボーリングでさえ十分に行うことが難しい。このあたり,まだまだ取り組むべき課題が多いと感じた。

Daniel Shapira, Jacob Goldenberg, and Oded Lowengart, Zooming In: Self-emergent of Movements in New Product Growth は,エージェントベースの見事な応用。普及プロセスのわずかな摂動が,社会ネットワークを考慮すると経路に大きな影響を与えることをシミュレーションで示した後,実データを用いた予測の実験を行い,実践的な教訓を引き出している。シミュレーションに終わらず,実データとのブリッジ,実務的含意をきちんと揃えているのは,さすが Marketing Science に採択されただけのことはある(発表していたのは,昨日いきなり握手してきた,あの彼だ!)。

Wander Jager, How Does Word-of-mouth Affect Pricing? Agent Based Simulation of Different Markets は,マーケティング・サイエンスの研究者に向けた「啓蒙」を目的とした発表だった。市場のふるまいは予測困難だが,管理することはできる,という主張している。気の利いたデモンストレーションに会場の反応はよかったが,最後に何も質問やコメントが出なかったのは残念。まだ布教には時間がかかるだろうが,とりあえず所期の「目的」は果たしたのではないか,と思う。

閑話休題。バンク-バー最後の夜は,この地でベストだとホテルのコンシェルジェがいう中華料理屋へ「皆で」行く。すべて終わった,美味いものを食うぞ! ところが,非常に楽しみにしていたアワビ料理の皿が自分の前に回ってきたとき,そこには野菜しか残っていなかった! …そのショックは時間が経つにつれ増大,食べ物の悔恨は簡単に記憶から消えることはないようだ。帰国したらすぐ,どこかでアワビを食べないと,このモヤモヤは消えないだろう…。

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