Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

16歳からのはじめてのゲーム理論

2020-11-12 19:38:32 | Weblog
久々のブログ投稿では、鎌田雄一郎『16歳からのはじめてのゲーム理論』を取り上げたい。7月に発売されたが、私がよく立ち寄る大型書店ではいまだによく目立つ場所に置かれていて、大変売れ行きがよいことがわかる。確かにいま、マッチングやマーケットデザインといった話題とともに、ゲーム理論への注目がかつてなく高まっている。



しかし、この本が売れているのはそういった理由だけではないと思う。ゲーム理論の入門書は多数あるが、この本はそれらとはちょっと(かなり?)違う。ゲーム理論といえば囚人のジレンマ、利得表、といった定番的発想にとらわれず、そもそもゲーム理論家とはどのように物事を考えているかという、原理的な部分を扱っているのだ。

そういうと難しそうだが、「16歳から」の読者を想定しているだけに、いくつかの寓話をつうじて話が進む。マンションの管理組合での意思決定から始まり、親に通知表を見せるかどうかまで、身近な話題が取り上げられる。その意味で読みやすい。しかし、そこから奥深く簡単ではない問題が抉り出される。それが本書の魅力である。

なぜ簡単でないかといえば、いうまでもなく自分が決めるだけですまない問題を考えているからだ。そのとき相手がどう考えているか、自分がどう考えているかを相手がどう考えているか、と考えていくと訳がわからなくなる。ところがゲーム理論の思考法を用いると(場合によって)誰もがそこで落ち着く「均衡」を予見できるのである。

いやいや自分はテキトーに行動しているだけだと思う人もいるだろう。私がマーケティングの授業でホテリングの空間的競争とかシグナリングの話をするとき、そう感じている学生は少なくないはずだ。その疑問はもっともだが、なぜそんな話をするかというと、実務家であってもこうした思考法について知っておくことに価値があるからだ。

ゲーム理論の予測が絶対に正しいわけではない。しかし、人間が完全にランダムに行動するとか、慣習的に行動するという前提での予測がつねに正しいわけでもない。現実はそれらの混合だとしても、まずはそれぞれの仮定での振る舞いが理解される必要がある。したがって実務に近いからこそ、様々なモデルを知っておくことに価値がある。

あまり書くとネタバレになるが、本書には寓話中の人物が「理論的予想」と違う行動をとる場面がある。1つの可能性は、著者はその答えをすでに用意していて、次回作で披露するというもの。もう1つは、あえて読者に問題を投げかけることで、優秀な若者がゲーム理論の研究を志すよう誘っている可能性。その両方、という気もする。




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