Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経済物理学と行動経済学の狭間で

2017-12-11 08:15:42 | Weblog
経済物理学と行動経済学 … 新たな経済研究の方法という点では共通するが、視点においてはある意味で対極にある2つの分野の会議に続けて参加した。いずれも京都での開催だ。どちらでもビールの購買データを分析した研究を報告したが、問題意識やアプローチはかなり違っている。



経済物理学 2017」は京都大学・基礎物理学研究所(湯川記念館)で開かれた。建物の前には、風雪に耐えた感のある湯川秀樹博士の像がある。隔年に開かれる会議で、だいぶ前に参加したことがある。ファイナンスに関連した研究発表が多く、当該業界の実務家も参加している。

そんな会議で私が発表したのは、先週 JIMS で報告した研究である。今回は共著者のお二人が一緒なので大船に乗った気持ちでいた。発表後、ある物理学者から、複素ヒルベルト主成分分析がマーケティングでも使えるのを知って驚いた、といわれた。少しはお役に立てたかもしれない。

翌日は、日本とは思えない美しいキャンパスを持つ同志社大学に向う。ふらっと聴講した、実験経済学の第一人者・西條辰義先生の講演が刺激的であった。一言でいえば、無視されがちな将来世代の選好を現在の政策に反映させる試みで、「仮想将来人」を加えたワークショップを行うもの。



行動経済学会の大会では、マーケティングに関する特別セッションで、石原昌和さんと行っている期間限定の効果に関する研究を発表した。すでに上海で発表しているが、今回は個人差についての報告や、背景に潜む心理的メカニズム(リアクタンスやリグレット)の議論を追加した。



この研究は、選択モデルの発展を継承した、マーケティング・サイエンスらしい研究といえる。その一方で、期間限定品の効果を仔細に見ると、合理的な選択行動としては説明しにくい面があると指摘している。つまり、行動経済学会で話すのに相応しい内容だと思い発表した次第。

セッション・チェアの星野崇宏さんからはモデリング面で、フロアの先生からは行動仮説について貴重なコメントをいただき、感謝している。その逆に、こちらの研究が行動経済学者にとって得るところがあれば win-win な関係になるが、実際のところどうだったかが気になる。

初日を締めくくるパネル討議は「感性マーケティング」がテーマで、清水聰さんと実務家3人が登壇した。NTTデータの方による、時間選好から価値観まで多様な変数を含むデータの話も興味深かった。行動経済学会として、ビジネス界からの期待に応えようとしているようだ。

実は、はるか以前にも行動経済学会の大会で発表したことがある。その後も何回か聴講したが、入会には至らず、今年から正式に入会することにした。行動経済学を学ぶには経済学の基礎知識が必要となるし、研究は日々進化しているので、新参者にはそれなりの勉強が必要となる。

経済物理学が、集団レベルの現象に対する computational なアプローチであるのに対して、行動経済学は個人レベルの意思決定に対する behavioral なアプローチだといえる。冒頭で「対極」と書いたのはそういう意味だが、相補的ともいえる。実際、私はその双方に関心がある。

今回、これら2つの会合の両方に参加した人は、私の知る限り、もう一人いた。彼は経済物理学のパネルに招待されたほか、行動経済学会の理事にも選ばれている。ファイナンスの分野でこれら2つのアプローチの交流が進むかもしれない。自分としては基礎的な勉強から始めたいw

行動経済学 -- 伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して
大垣 昌夫, 田中 沙織
有斐閣


マルチエージェントのためのデータ解析 (マルチエージェントシリーズ)
和泉 潔,‎ 斎藤 正也,‎ 山田 健太
コロナ社

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