Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

仕掛学が仕掛けるもの

2013-12-21 08:09:29 | Weblog
木曜の夜は、大阪大学の松村真宏さん、成蹊大学の山本晶さんにJIMS部会でお話しいただいた。テーマは「仕掛学」(Shikakeology)。松村さんはスタンフォード大学での在外研究を経て、仕掛学の研究を牽引している。実際、内外の学会でセッションも組織されている。

今回、いつもより企業に所属する参加者が多かったことが、仕掛学への実務家の期待を示している。松村さんは「仕掛け」をどう訳すかで悩み、結局 shikake で押し通すことにした。仕掛けという言葉にはさまざまな意味があり、いずれも魅力があって、trigger だけではすまないのである。

仕掛けの典型的な事例の1つが、スキポール空港にある小用便器である。この便器には、ある位置にハエの絵が描いてある。すると利用者は無意識のうちにハエを狙って用を足すようになる。その結果、小便の外部への飛散が減少し、清掃コストが大幅に下がったという。


The Urinals of Amsterdam Airport Schipholより

松村さんの仕掛けの定義は、(1) 行動を変える具現化されたトリガー、(2) トリガーが特定の行動を引き出す、(3) その行動が個人的/社会的な問題を解決する、の3点だ。(1)(2) はいうまでもないが、(3) も実は重要だ。これが、仕掛けの乱用(悪用)への歯止めになっているのである。

後半は、山本さんが仕掛学のマーケティングへの応用について語った。最初に、消費者を受動的存在でなく、自発的参加行動をとり得る存在とみなし、ただし、その行動の「ゆるい参加」の部分、やや低関与の参加に注目する。そこを扱うアプローチとして仕掛学を位置づけている。

そこで用いられたのが、意識的-非意識的という軸と、情報型-転換型という軸だ。後者は、広告論で有名なロシター-パーシーの分類軸で、前者はネガティブな要素を取り除くこと、後者はポジティブな要素を加えることだという。この枠組みで、カンヌの受賞作品などが分類される。

1番目の軸は、システム1-システム2と関連しそうだし、2番目の軸は、プロスペクト理論と関係するかもしれず、深い枠組みだと思う。山本さんは、無意識-転換型の組み合わせには事例が存在しないというが、空白はどうしても気になる。そこを埋めるよう考えさせる仕掛けかもしれない。

日本語のニュアンスにこだわり、そこから独創的な概念を生み出す流れは、九鬼周造の『「いき」の構造』を思い起こさせる。自分の考えていることが、うまく英訳できたら安心してしまう思考回路では、こうした発見には至らない。独創的研究への刺激を大いに得たセミナーであった。

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)
九鬼周造
岩波書店

The Structure of Detachment:
The Aesthetic Vision of Kuki Shuzo: With a Translation of Iki No Kozo
Hiroshi Nara, J. Thomas Rimer, Jon Mark Mikkelsen
Univ of Hawaii Pr

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