Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

スタイライズド・ファクツの悩み

2013-12-19 10:33:59 | Weblog
数日前に紹介した『エコノミスト』臨時増刊号は、前半で経済諸問題への経済学の取り組みを紹介し、後半で行動経済学、マーケットデザイン、ネットワーク、実験経済学、神経経済学等の研究動向を紹介している。つまり、理論・応用両面の最先端の動向が分かるようになっている。

そのなかで、ある意味で異彩を放っているのが,室田泰弘氏(湘南エコノメトリクス代表)の「新しい経済学を柔軟、自由に構想する」だろう。室田氏は,現在の主流派/反主流派経済学をいずれも「枠組み重視派」と呼び一蹴する。それに対して「新・現実直視派」を対置させている。

一言でいえば、現実を観察し、そこから重要なトレンド(スタイライズド・ファクツ)を見出し、然るのちにそれを説明する枠組みを作るべきだという。その例として、エルニーニョ現象の存在を幅広くデータを分析することで見出した、ギルバート・ウォーカーという数学者の例を挙げる。

データから誰もが否定できない頑健な規則性を見出し、それをどれだけ説明できるかを競うことで、理論を進化させるという研究戦略には、ぼく自身も惹かれる。ただし、そのためには、観測ができるだけ理論に依存しないで行われたほうがいいが、それがそう簡単にはいかない点が悩ましい。

たとえば、潜在成長率とか全要素生産性とかいった「データ」の場合,生産関数の推定が前提になるので、その基礎となる理論を認めるかどうかで議論が生じ得る。つまり、データの理論負荷が高い。あるいは、道具として用いる統計モデルが立脚する仮定が問題になる場合もある。

マーケティング・サイエンスでは一時期、スタイライズド・ファクツと似た概念、「経験的一般化」が話題になった。Marketing Science の特集号を見た限り、理論負荷の低い一般化された事実は、エーレンバーグらの「シェアの二重苦」の話ぐらいしか見つからなかった。

普及現象にバス・モデルが広く適用されているので、そのパラメタのメタ分析が経験的一般化だという考え方もある。しかし、バス・モデルを認めない人には、それは通用しない。3つのパラメタしかないバス・モデルなので、他の複雑なモデルよりはましかもしれないが。

シェアの二重苦のようなマクロ現象の他に、再現性の高い消費者実験などが、スタイライズド・ファクツの候補になる。自分としては今後、新たなデータ、新たなモデル、と研究を拡大するより、足下にあるスタイライズド・ファクツを掘り起こすことが重要かもしれない。

エコノミスト増刊
「経済学のチカラ 」
2013年 12/23号
毎日新聞社

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