Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

S&RM研究会@秋葉原

2009-05-23 15:20:57 | Weblog
昨夜は,DM学会サービス&リレーションシップ・マーケティング研究会。日本IBM東京基礎研究所の澤谷由里子氏が,ITサービスを前提に,「サービスの質」という問題にどう科学的・工学的に取り組んでいるかというお話しをされた。サービスの質と聞くと,サービス・マーケティングにおける SERVQUAL 尺度などが思い浮かぶが,そうした測定論を超えて,よりマネジメント的な観点からの講演であった。

澤谷さんは講演の前半で,品質管理でいう「シックスシグマ」にしたがうと,ITサービスの品質の信頼性は現在2~3シグマのあたりにあるが,6に近づけることで「効率化」「差別化」を超えた「卓越化」を目指すと語る。大学の教育サービスはどのあたりか,などという思いが頭をよぎったが,それをさえぎるように,この手法は品質が厳密に計量されないと適用できないが,そういう出発点でよいのだろうかという疑問が浮かんだ。

だが,その後のお話は,まさにこの問題意識と符合するもので,サービスの質に関する奥深く複雑な議論へと進んでいく。澤谷さんはトゥボールの「サービスの表舞台/裏舞台」という枠組みにもとづき,主にITサービスの今後の課題が表舞台にあることを指摘する。というのは,裏舞台はかなりの程度「工業化」が進んでいるからだ(正確には IBM では,というべきかもしれない)。チャレンジすべき課題は顧客との接点にある。

サービス・ストラテジー
ジェームス・トゥボール
ファーストプレス

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そこでは,期待と経験のマネジメントが必要になる。具体的には,顧客への権限委譲と自動化をどううまく組み合わせるかだと。そこに僭越にもぼくが何か付け加えるとしたら,表舞台とは顧客とのインタラクションそのものだから,意識された期待の充足という以上の快のマネジメントが考えられないか,ということだ。だが,実は澤谷さんがぼく以上にそのことを深く考えておられることを,懇親会での会話で知ることになる。

サービス・サイエンスでも「ものづくり」経営学でも,その先端部分で考えられていることは,本質的には同じ問題であることが確認できた。そして,そこにまだ答えはない。そして,それは顧客の経験や感情を問うものであるだけに,マーケティングの研究者が率先して取り組むべき課題なのである。そう考えると,これから分析を再開しなくてはならないクルマの「過剰品質」をめぐる研究も,微力ながら貢献できるはずである。

最後に,IBM で業務を「リズム」「ブルース」「ジャズ」に分けているという話も面白かった。それぞれ,定型的業務,部分的に非規則性を含む業務,非規則性が強く達人たちが即興で取り組むべき業務,という意味だと理解した。JAZZ!!!!!  このことばには,わくわくさせる響きがある。