Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

フードシステムを語る意味

2006-10-05 14:54:10 | Weblog
『経済セミナー』9月号で「フードシステムと日本の食事情」が特集されている。フードシステムとは,食料の生産から流通,消費に至るプロセスを,農業,食品工業,外食産業など多様な産業セクターを包括して捉えることだという。また,生産→消費という一方向で考えるのではなく,需要=消費者の選択の役割を重視することが特徴であるらしい(同誌の時子山ひろみ論文)。

そんなことは一般人にとっても,経済学者やマーケティング学者にとってもごく当たり前であって,なぜわざわざなぜフードシステムということばを作って強調するのかがよくわからない。農業は国の基本だとか,食料供給は国の責任のもと社会主義的になされるべきだというイデオロギーが一部学界に存在し,それを払拭したいということなのだろうか。農業経済学なる分野が存在し,経済学部ではなく農学部に属していることからも,食料生産が通常の経済活動と区別されてきた歴史的経緯がうかがえる。人間にとって衣食住すべてが重要なはずで,これは奇妙なことである。

フードシステムという新しい概念を持ち出す背景に,やはり依然として,食は最も必需的な財であり,さらにいえば文化の根本をなすものだ,という「特権意識」がうかがえる。だからかどうか,この特集でも,食育の話が出てきたりする。ちなみにぼくは,衣食住のなかで食を最も重視し,幸福の大部分がそこに依拠すると思っている。だから食を特別視することに反対しないが,問題はその論拠である。食という財や食消費の特殊性についてもっと理論的に考察しないなら,フードシステムという概念を提案する意味はないと思う。